なしひとへのお題は『鼓膜を擽る大好きな声・君の総てを飲み干したい・サイズの合わない指輪』です。

 やはり何よりも、他人の胸元にナイフを突き立てる瞬間が好きだ。

 そのために傭兵などという賤業に就いたとまで言って過言ではない。

 暴力が好きだ。

 蹂躙が好きだ。

 殺害が好きだ。

 何より、銃の扱い方さえまともに知らない弱者が、悲鳴をもらす暇さえなくたった数センチの金属片を心臓に差し込まれて、呆気なく息絶えるその光景にはたまらないものがある。

 戦争においては犯罪を咎める人間はいない。そもそも犯罪という概念すらない。

 強い者が殺し、弱い者が死ぬ。

 死にたくなければ誰よりも強くなければならない。少なくとも銃弾の届く範囲、約1km以内の誰よりも強い人間でなければ、お前は負け犬だ。

 勝者にはすべてが与えられる。敗者からはすべてが奪われる。

 それが戦場だ。

 弱い人間ほど、とてもいい悲鳴を上げる。

 もっともいい悲鳴を上げるのは女、もしくは子どもだ。女であり、かつ子どもであればなおさらいい。

 その幼い娘はサイズの合わない小さすぎる指輪をしていた。周りは畑ばかりのぽつんと孤立した民家に押し入った際のことだ。

 金品のたぐいはできるだけ奪い取るよう、指示されていた。

 だから俺は、その娘の左手を生きたまま切り落とした。その娘の両親はとっくに蜂の巣になって息絶えていた。その娘の引き裂かれるような悲鳴が、暗い室内の血溜まりを小刻みに揺らしていたのを覚えている。

 サバイバルナイフの背は小動物の骨程度なら力尽くで削り折ることができるよう、深い溝が等間隔に掘られている。娘の手首の骨は、その部分との摩擦でゴリゴリと音を立てて切り落とされた。

 きれいな指先だった。貧農の娘のくせに、きっと産まれてから一度も硬い物に触ったことがないのだろう。

 娘は失血性のショックですでに息絶えていた。匂いからするに、その血溜まりには尿すら混じっているようだった。

 指の関節をひねり折ることで、指輪は呆気なく外れた。

 内側には、俺の読めないこの土地の言葉で、何か名前らしき言葉が二つ並べられていた。

 そのとき俺は、その指輪がさして高価な品ではなく、飾られている石もただのガラス玉であることに気が付いた。

 繁華街の露天で売られるような、ほとんどおもちゃに近い品だ。そもそもまともな宝石店で購入された指輪がこんなに小さなサイズで作られるはずもない。

 舌打ち。指輪を捨てようとしかけるが、気が変わって、俺はその指輪を丸呑みする。

 苛立ちが収まらず、横たわる小娘の脳天に銃弾を数発打ち込む。

 残響。

 それでおしまいだった。


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