なしひとへのお題は『壊れた硝子を掻き集める・柔らかい頬・眩しすぎる笑顔』です。
飼っていたガラス製の文鳥が、大理石の天井にぶつかって粉々に砕けてしまったのだそうな。
どうにも朝から元気がない様子で、仲のいい数人が事情を尋ねてみたら、そういう理由だったらしい。
彼女がガラス製のペットを飼うのは、幼い頃からの習慣なようなもので――
私や周囲の人間が、肉でできたちゃんと血の通っている生き物を飼うよう諭しても、頑なに――彼女が森で拾ってくる生き物は、すべてガラス製だった。
おかしいのは森じゃない――彼女の方だ。
たとえば私や、村に住む他の人達が森に入っても、めったにガラス製の生き物は見つからない。
もちろん海でも、川でも、空でも。
彼女だけが、どこからともなくそういった不思議な生き物を見つけて捕まえてくることができる。
あるいは口の悪い人たちは、捕まるときは普通の生き物でも、彼女に愛された途端、ガラスに変えられてしまうんじゃないかと、こっそり噂をしたり。
私自身は彼女に愛されたことはないけれど、そういうことでもないんじゃないかな、と。
一度だけ、仲良しな人たちに混じって、あまり目立たないように。森で彼女が生き物を捕まえる場面を見せてもらったことがある。
よぅく探せば、きっと誰でも見つけられるよ、と。
そう彼女は言ったけれど、もちろん彼女以外の誰にも見つけられなかった。
しかしその生き物たちは、たしかに彼女の指差す先にいた。
湧き水の細く流れ込む岩場の陰に。
旅人の残した焚き火の跡に。
あるいは、私達が普段から授業を受けている教室の天井模様にまぎれて。
そして彼女の見つける生き物は、何もガラス製に限るってわけじゃない。
岩陰にいたネズミは赤く透き通る、キレイな宝石のような色をしていた。
焼け炭から顔をのぞかせたヘビは見ているだけでも凍りつくような、白い冷気でできていた。
教室にまぎれていた赤銅製の蝶は、羽を動かすたびに古時計に似た金属的な軋みを上げていた。
しかし彼女が連れて帰るのは、決まってガラス製の生き物だった。
どうしてガラス製の生き物を選ぶのか、いつか訊いてみたいと私は思っていた。
だってガラスでできているから、砕けてしまう。
もしも金でできた鶏だったなら、きっと彼女がこんなに悲しむこともなかったはず。
もしもダイヤモンドでできた猫だったなら、彼女が死ぬまで一緒のベッドに入ってくれたはず。
なのにどうして――、と。
別の誰かに。そう尋ねられる場面に、私はとうとう出会してしまった。
放課後の帰り間際。仲良しな子たちのうちの一人が、彼女に。
そしたら彼女は、
だって可哀想でしょう、と。
自殺できない生き物は、きっとどんなに悲しいことがあっても、あるいはこの世界で唯一愛してあげられる私が死んでも――
一緒に死ぬこともできないでしょうから。
と。
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