お仕立て グローブ その6
急いで出掛ける支度を整え、店をクローズにしてからイズミさんとの待ち合わせ場所である森の入り口まで急いだ。
ボストンバックには昨日途中まで縫いかけたイズミさん用のグローブに仮で作った妹さん用グローブも入れてきてある。
あとは布地のカタログ、メジャー、自分の着替えと最低限だけ持ってきた。
まだお姉ちゃんもリトもいたから、行き先も話もしてある。
(準備これで万端! お仕事スムーズに進むって本当に気持ちいいわ)
心の中で思いながら待ち合わせの場所に着くと、イズミさんが馬車と共に待っててくれた。
「お待ちしてました、お乗りくださいませ」
「はい、よろしくお願いしますね……うわあ、キラッキラッ!」
開いた馬車の室内、お香が焚かれているのか素敵な香りがするし、中も赤地に金糸で刺繍が施されたエキゾチックな馬車の内装でくらくらしてきた。
あれ? ちょっと足元へんかも。ふわふわしてるみたいな……。
「お気を付けてお入りくださいな」
イズミさんが私の手を取り、腰の辺りを支えて中に誘う。
なんだろう、夢心地……みたいな……。
「それでは参りますので、暫しお休みくださいね」
イズミさんの声が聞こえて、私は自分の意識がすうっと暗闇に落ちていった。
イズミはリゼの様子を見ると、椅子の近くに備え付けられた操作盤を動かした。
馬車は下の方からムカデのように多数の足を出し、馬もいないのに動き出す。
森の中へと分けいっていくと、途中から地面の中に入っていった。
暫くするとガツン、と何かにぶつかる音がした。
馬車の扉が開けられると、あの幼女が姿を現す。
「良くやったではないか、イズミ」
幼女は薄く笑うと、寝ているリゼに何か話しかける。
リゼは首をいやいやと振り、涙が出たりしていたが、構わず幼女は話を続けた。
どれぐらいの長い時間が経っただろう。話を終えると、幼女はイズミに向き直る。
「さて、この娘には種を蒔いた。暫くは騎士団でスキルを磨き、それからわらわ達の国にお越しいただくように、な。
これを解ける奴は、エルフ位だろうが……まあ、耄碌した老いぼれどもはまず人間界には出てこない」
イズミが慌てて口を挟む。
「騎士団に協力させては我が国に脅威になりませんか?」
「まあ、我が国は静観の呈のまま、魔物を遣るのが良かろう。スキルはまだ原石ゆえ、磨いていただいた方が良い。さて、……おしゃべりはこの辺りで。娘を起こすぞ」
幼女はリゼに向き直ると、リゼの体を揺らした。
「おねえちゃん、おきてぇ、もう着いたんだよぅ」
舌足らずな幼女の様子で起こそうとする姿を見て、イズミは顔を引きつらせつつ、見守るのであった。
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