様々な主人公が異世界召喚された中、一般人の俺が最強な件

ひろぽん@カクヨム

第1話 スーパーオリーマ

 男は風も追い抜かんばかりの速度で森を駆け抜けていた。

 彼の名は「オリーマ」

 配管工を思わせる茶色の帽子と紺色のつなぎの服が今はボロボロになっていた。

 彼は髭を蓄えているような年齢に思えたがその身長は子供ほどしかなく、手足も異様に短く感じる。

 オリーマの背後、森の茂みから巨大な影が飛び出した。


「ウワァアアア!!」


 オリーマは驚き叫び声を上げ、その足をさらに加速させた。

 影の正体は巨大なカエルだったがその身体にはトゲのような鱗が生えそろっており、口元にはオリーマを貫かんと二本の巨大な牙が生えそろっていた。


「グワルルゥ!!」


 巨大カエルが唸り声を上げると、その口元から巨大な舌が飛び出した。


「ホッ!」


 オリーマは背後から高速で飛んでくる舌を見て地面を蹴った。

 するとオリーマの体が凄まじい速度で森の木々を超えるほどの高さまで飛び上がった。

 それを見て開いた口が塞がらなくなっている巨大カエル。


「イイィイイヤッフィイイイ!!」


 オリーマは空中で体を反転させると、口を開いたままのカエルに向かって高速で落下していった。

 そして巨大カエルの頭を踏み抜いた瞬間。

 巨大カエルの体が大量のコインになりそこら中に飛び散った。


「ふぅ……」


 着地したオリーマがため息をつきながら帽子を取り、大量のコインのもとへ近づこうとしたその時。


「「「グワァグワァグワァ……」」」


 森中から先ほどの巨大カエルの鳴き声が聞こえ始めた。


「オーノウ……」


 オリーマは絶望した。

 先程の巨大カエル一匹にあれほど苦労したというのに、これから何匹ともわからぬそれらを相手しなければならないのかと。

 彼の身体が震えだした。

 その時、突如足元に衝撃が走り凄まじい地響きが聞こえた。


「……?」


 オリーマが疑問に感じていると再び足元の衝撃と地響きが聞こえた。

 その衝撃と音はだんだん近づき、さらにそれがだんだん早くなっているのをオリーマは感じた。

 次の瞬間、オリーマの真横を目で追えないほどの速度で巨大な何かが吹き飛んで行った。

 そして凄まじい音と砂煙を立てながら、その何かがオリーマの後ろを転がっていった。


「オオゥ……」


 砂煙の中、オリーマが転がった何かを確認しようとした瞬間。


「ちっさいおじさん?」


 オリーマの背後で人の声がした。


「ワオッ!」


 オリーマがあわてて砂煙の中から空中へ飛び上がる。

 そして上空からだんだん晴れてきた砂煙の中を見下ろすと胸部から破裂して地面にめり込んだ巨大カエルの姿しかなかった。

 完全に砂煙の晴れた足元に着地したオリーマは、知らぬ間に静けさを取り戻した森に違和感を感じた。


「……」


 取り敢えず我が身の安全は確保できたようだと思ったオリーマは、街へ向かって小走りで帰り始めた。






「あのおじさん大丈夫かなぁ?」


 それを見送る男の存在には気づかずに。





「オリーマ殿!今回は本当にありがとうございました!」


 厚ぼったい白眉をハの字にしながら満面の笑みで話す大臣にオリーマはうなずいた。

 大臣は頭髪は無いがそのかわりか、立派な白髭を生やしておりふくよかな身体を詰め込んだ白い礼服と相まっていかにも大臣といった感じの人物だった。


「あのナモサ大森林に巣食っていた凶悪な大型フロッガーを単独で撃退するどころか全滅させるとは!」

「?」


 オリーマは首を傾げた。

 自分は一匹倒すのが精一杯だったから他のフロッガーは謎の影が倒したもう一匹だけだと考えていたからである。


「……!!」


 ならばあの巨大カエルを全滅させたのはもう一人の影しかいないと思った時、オリーマは驚愕した。

 もしそんな存在がいたならば自分を、いや自分たち転移者を軽く凌駕する存在だからである。


「マンマミーア……」

「ん?オリーマ殿、どうなさいましたかな?」


 オリーマは頭を抱え祈った。

 くれぐれもその存在が自分たちの脅威になる存在ではない事を。






「へっくし!!」


 祈られた方は城下町の中を彷徨っていた。


「このコインあのおじさんの近くにあったけど拾ってよかったのかなあ?後で返せって言われたりしないよなぁ?」


 男は小さな布袋にオリーマが倒した敵から出てきたコインを詰めていた。


「お、ここだここだ……鑑定屋さーん!」

「はぁい?あら!いっつも訳のわからないもの持ってくるお兄さん!」


 鑑定屋と書かれているぼろ家の中からは想像もつかないような美しい青いレースの服に身を包む白髪妙齢の女性が現れた。


「今日はコレを鑑定して欲しいんだけど」

「あら?コインね。この国のものじゃ無い……!!」


 男が差し出したコインをしげしげと眺めていた鑑定屋の顔が青ざめた。


「こっ……これじゅっ……純金よ!それもこの国じゃ精錬出来ないほどの逸品よ!」

「えっ!?マジで!?いくらで買ってくれる?」


 思わず男が店の台に身を乗り出した。


「一枚で5000ドロンってところかしら……あぁ……今がこんな世の中じゃなけりゃ工芸品としての価値がもっとあるけどねぇ……」


 鑑定屋の女は腕を組みじとっとした目でコインを見下ろした。


「でも5000ドロンもあれば数週間は遊んで暮らせるよな!?」

「まあそうね……」

「実はこのコイン沢山あるんだけど……」


 男はワクワクしながら布袋を開き大量のコインを女に見せた。


「250ドロン」

「!?……なんで下がるわけ!?」


 女はそのコインの袋を見た瞬間顔を険しくし、男は驚愕した。


「そのコインは工芸品としての価値が大きいのさ。それが複数乱造されてるんじゃ商品価値は落ちるってもんだよ」

「なっ!?……でもこんだけあれば結構な額に……」

「このコイン数があればあるほど価値が下がって儲けはせいぜい一万ドロンてとこかな」

「……よそで鑑定してもらって……」

「あらー?そんなこと言っていいのかなぁ?そもそも素性も知れないあんたみたいな男の物を鑑定して買ってくれる所がどこにあるのかしら?」

「……言い値で売ろう」

「毎度あり」


 男は苦虫を噛み潰したような顔で、女は満面の笑みで商談は成立した。


















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