13回目のリスタートは自由に生きたい!

セレストブルー

序章

第1話

「もう·····嫌」


王命によるこの婚約が嫌なのではない。

私が嫌なのは、このシーンを見るのが13回目という所よ!


「クレア、どうしたの?」


心配そうにわたしを見るまだあどけないユリウス魔王太子になんでもないと首を横に振り、婚約式が終わったばかりの神殿を見渡す。


(神様、なんのイタズラでこういう事をなさるのかは存じませんが·····私はもう悪役令嬢なんてやめさせていただきます!運命?そんなの知ったこっちゃないわよ!あの子はいつもあの子らしく生きてるのに、私だけが頑張っても意味ないじゃないの!13回目は自由にさせていただきますから!)


言ってやったわ!


とうとう言ってやったわよ!


12回分の頑張ったで賞のおかげで、私の能力は果てしない程に素晴らしいものになってるから、冒険者にでもなってやろうかしら。


そんな事を考えながらその場を後にして次に行われる会食の場へと向かうと、お優しい吸血鬼の魔王陛下と私を本当の娘のように接して下さる龍人族の王妃様、そしてこの国の公爵であり先代魔王の落胤でもある吸血鬼のお父様が出迎えて下さったわ。


私達がそれぞれの席に座ると魔王様が乾杯の音頭をとり、和やかに会食が始まった。


「クレア、この話を受けてくれて本当にありがとう。普通ならこんなに早く番が見つかる事なんてないのに·····、しかもそれが可愛いクレアだなんて私はとても幸せだわ」


「恐れ多いお言葉でございます(でも、ユリウスは学園でヒロインと出会ったら、こっちが本当の番だ!クレアとの事は間違いだった!って言い出すのよ」


「私も本当に幸せです」


うっとりとした顔で私を見るユリウスは本当に嬉しそうだけど、前の12回の豹変を知ってるから絶対に騙されないわよ。


会食は「そうですね」「はい」「ありがたいお言葉でございます」という3つの言葉だけで乗り切り、屋敷に戻ろうという時にユリウスに腕を掴まれた。


「クレア·····本当は私と番である事が嫌だったのかな?」


「ユリウス魔王太子殿下の番は私ではありませんので」


「どうしてそんな事を言うの?私は君を一目見た時に」


「急ぎますのでこれで失礼致します」


ユリウスの言葉を遮ってお父様の所へと行き、とっとと馬車に乗り込むと、ユリウスが悲しげな顔でこちらを見ているのが分かったけどほんの数年後にはその瞳は私を映さなくなるから、絶望しなくなったのは5回目からで、ユリウスへの愛情が消え去ったのは8回目。

同じ事を繰り返す度に私の心は厚い氷に閉ざされて行き、誰の言葉も心に響かなくなったわ。


私はこのまま凍りついていたくないから、何もかも捨ててやるのよ!


明日は早速冒険者ギルドに行って登録して、冒険者ランクを上げていかないとね。


手に力を入れて決意を新たにしていると、向かい側に座っていたお父様が隣に来て私を膝の上に座らせた。


「俺の可愛いお姫様は何を考えているんだ?」


「なんでもありませんわ」


「やはり婚約なんかさせるのではなかったな。クレアはユリウスに番の絆を感じていないのだろう?」


感じていないのではなく感じなくなったのが正解なのだけど、それを言う訳にはいかないから黙って頷くと、お父様は深い溜息をついて後ろからギュッと私を抱き締めたの。


「この国を捨てるか」


「お父様?」


「俺の出自は知ってるだろう?」


コクリと頷くと、お父様は私の頭の上に顎を置いて小さく笑った。


「俺はな、ずっと蔑まれて生きてきた·····魔王の子供でありながら、それを認められる事のないガキだったからな。母親はそれに耐えられず自殺して、公爵のおっさんが拾ってくれなければ野垂れ死にか、闇に落ちていただろう」


「お父様·····」


「ずっと広い世界を夢見て来たがおっさんの為にここに残ってたんだよ。だがな、義弟が公爵家の跡継ぎは自分だと言い出してめんどくさかったからちょうどいい。全部捨ててお前と冒険者でもやるさ」


「賛成です!私も同じ事を考えていたのです!」


「そうか、さすが俺の娘だな」


そう言って笑うお父様の顔は、これまで見てきた笑顔はなんだったのかと思う程に清々しく美しかったわ。


そしてその夜、私とお父様は「眠りにつく」と書き置きを残して屋敷から消え去った───これがクレアとしての最後の日。


私が6歳の時の話。

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