第25話 盗賊ギルド

 マリアとトマーの極刑が決まる少し前のこと。

 クラウス様と私、リーフィアはとある場所へ向かっていた。

 盗賊ギルドだ。ここでは情報の売り買いや暗殺などを生業とする者たちが所属している場所。

 貴族のご令嬢が来るのには不適切な場所ではあるのだが、周囲が毒殺されたり襲われたりと危険の多い私がその手の事に詳しい者を雇いたいと考えクラウス様に付いて来て貰ったと言うのが表向きの理由だ。

 盗賊ギルドにも腕の立つものによってランクが分かれているらしいが、盗賊ギルドに登録する気のない私には関係のない事だ。

 貴族が相手とあってギルド長が直接相手をしてくれるらしい。

 案内されて、室内に踏み入れる。ソファーを勧められて横並びに座った私は目の前にいる小柄な老人に目を向けた。


「お嬢さんが永続契約を考えているというのは本当かね?」


「そうです。」


「止めておいた方がいい。ここはお嬢さんのような方が足を踏み入れていい場所じゃない。」


「身を守るのに必要だと感じたから来たのですわ。」


「ふむ、本気…なのかね?」


「本気じゃなければ来ませんよ。」


 少し考えた白髪の老人は何枚かの羊皮紙を渡した。


「決心が変わらないのならこの中から選ぶといい。」


 渡された資料に目を通す。名前と技能が書かれた資料を一通り見た後返却する。


「どうした?選ばないのかね。」


「私、獣人が欲しいんですの。」


 ぴくりと老人の目じりが動いた。それから値踏みするように私を見る。


「ほう、獣人ね。」


「えぇ、黒い豹の獣人がいいわ。」


 険しい瞳が私を見分する。ほぅ、と呟いて私の隣のクラウス様を見た。


「黒い豹の獣人は一人しかおりませんな。」


 そう言って別の資料を渡してきた。


「だが、お嬢さんに買えるのですかな?永続契約は高いですぞ。」


 渡された資料を確認して彼女であると確信する。少し考えたそぶりをしてから値を聞いた。


「いくらなのかしら?」


「白金貨3枚。」


「なっ!白金貨3枚ですって?」


「おい、それは流石に吹っかけすぎではないのか。」


 思わずクラウス様が口を挟んできた。

 沈痛な表情でしょぼくれる私を見た老人は満足そうに笑う。


「払えるのであれば永続契約を認めましょう。払えればね。」


 その言葉を聴いた私はにやけた口元を隠さずに顔を上げる。


「では、契約成立で。」


 3枚の白金貨をテーブルに置く。

 ぎょっとして私とお金を交互に見比べる老人。


「な、なぜこんな大金を…。」


「さて、契約成立しましたね。連れてきてくださる?」


 ニッコリと笑顔を向けた私に老人は一瞬唖然とするもすぐに声を上げて笑い出した。


「いいだろう。だが、そいつが良いと言ったらだ。ワシ等はギルドの仲間を大切にする。信頼が第一だからな。」


 ニヤリと笑った老紳士。バードと名乗った。

 盗賊ギルドでギルド長が名を名乗るのは珍しいらしくギルド長の側についていた男が目を剥いていた。

 しばらくして、黒豹の獣人族である女が室内に入ってきた。


「私を永続契約したいと聞いたが、そのお嬢さんですか?」


 私を見ていぶかしんだ女性がギルド長に問う。


「そうだ。挨拶をしろ、内容はそれからだ。」


 くるりと向き直った女性。薄い金の髪を腰まで流し野生的な衣装を身に纏っている。

 先日会った人物と同じだと確信する。金の瞳はまじまじと私を見ている。


「はじめまして、お嬢さん。私はリリーリャといいます。」


「はじめまして、リリーリャさん。私はリーフィア・レインフォードと申します。こちらは付き添いのクラウス様。」


 互いに挨拶を交わして、契約内容を詰めていく。

 永続契約は生涯その者を盗賊ギルドから買い上げるという事だ。

 盗賊ギルドからの足抜けに必要な手段で死ぬ以外の唯一の方法だ。

 それをしないで逃げ出せば仲間達から永遠と追われる事となる。

 買い上げた後はその者の生涯を保障していかなければならないが、リーフィアにとってそれは難しい事ではない。

 そして、無効の出す条件とこちらの出す条件が一致して初めて契約成立となる。


「私には病気の妹が居る。だからその子も一緒に養ってもらう事になるがいいのかい?」


「構いません。ただし、お姉さんと同じように私に関することを他に漏らさないことを条件にと言う事になりますし、健康になったら私のために働いてもらう事になります。」


「それは、構わないのだが…本当に良いのかい?私は獣人だよ?」


 この世界では人族は多種族をあまり好ましく捕らえない。

 唯一の例外は妖精族だが、それ以外のものを見下していたりするのが普通だ。

 特に貴族階級のものにはそれが顕著である為リリーリャは聞いてきているのだ。


「わたし、リリーリャさんの耳と尻尾…気に入りました。その理由じゃ駄目、ですか?」


 上目遣いにリリーリャを見上げると頬を染めて顔を背けている。

 ただ尻尾がゆらゆらと揺れておりなんだか嬉しそうな感じが伝わってきた。


「よ、よろしく頼む。」


 握手をして契約魔法にサインをする。

 その紙をお互いに持って契約完了だ。満足げな私にバードが難しい表情でこちらを見た。


「お互いの了承の上だ、ワシからは文句はない。だが、気をつけることだ。ギルドから抜けても今までやってきている事は消えない。襲われる事も十分にあり得るからの。」


「それは承知の上ですわ。それに、貴重な証人を失わずに済んで安心していますの。」


 その言葉にバードとリリーリャが反応する。ニッコリと笑顔を浮かべて二人を見やる。


「エドワード殿下を害し王妃を殺した男の仲間をうっかり口封じに殺されては困るのですよ。それに、実行犯は川に沈んで死体で上がってきましたし。ただ、依頼主さんにリリーリャさんの事は知られていないみたいなので大丈夫だとは思っていたのですけどね。」


「知っていて…。」


 リリーリャが呟く。心なしか尻尾もうなだれている。

 だが、すでに契約を終えてしまっているので盗賊ギルドも関与できない。


「安心してください。命を取ろうなんて考えていませんから。それに直接関わっていないのですし、証人が欲しかっただけですので。」


 その言葉にリリーリャが驚く、だがその言葉を認める訳にはいかない者がこの場には居る。


「悪いが、証言させる訳にはいかないな。ワシ等は信頼で成り立っているギルドだ。依頼主の情報が漏れるのは困る。」


「あら、バードさん。ギルド員は大切にするのではなかったのですか?」


「それと今の話とどう関係がある?」


「だって、川で発見されたあの男。殺されたのですよ?」


「自分から川に飛び込んで言ったと聞いておるが?」


「クラウス様。教えて差し上げてはいかがでしょう?今後の協力も取り付けたいですし。」


 少し考えてクラウス様は頷いた。

 そして、その口から語られた恐るべき実態を聞いたバードは唸った。

 隷属魔法を使われて殺されたのだという事実、実際に目で見てみないと納得できないと言ったバードに男の死体を調べさせる。

 この件以降、メザリント様の依頼に関しては警戒を怠らないよう忠告して見破るための虫眼鏡状の魔術具を渡す。

 その対価として、今回の証言を認めさせることに成功したのだった。

 ただし、まだ公にする事はしない。

 完全に追い詰めるためにはまだまだ証拠が必要なのだ。


 リリーリャの案内でとある宿屋に向かった私とクラウス様。

 どうやら盗賊ギルドで依頼を受けたりして生活していたリリーリャとその妹は定住する事が出来ないためこうして宿を転々としていたと言う事だった。

 荷物も殆どない。襲撃される事もありうる為と言うこともあるし、身軽である方が移動も楽だ。

 それに物資を揃えたくても妹の薬代で殆どギリギリの生活をしていた為という理由もある。

 それだけ身軽であるという事ならと一緒に従者として連れて帰ろうとリーフィアは考えたのだ。

 それに、妹と聞いて早く会ってみたいと言う個人的な気持ちもなかったわけではない。

 すでに大人なリリーリャでさえ見た目が可愛らしいのだ。

 きっと、妹はもっと可愛いに違いない。

 もふもふしたものが好きな私は新しい出会いにわくわくしていた。

 宿に着くと颯爽と泊まっている部屋へ向かう。

 室内に入るとベッドの上に眠っていた少女が体を起こした。


「あ、姉さんお帰りなさい。」


 儚げな白い肌に淡い金の髪がさらりと揺れる。

 黒い豹の耳がピコピコ動いてリーフィアは今にも飛びつきたい衝動を我慢した。


「お客様?」


「そうだ。ミゼット、紹介する。こちらは私達が仕える事になった主のリーフィア・レインフォード様だ。辺境伯爵家のご令嬢らしいから失礼の無いようにな。それから隣にいらっしゃる男性がクラウス様だ。」


「はじめまして、ミゼットと申します。あの、このような姿で申し訳ありません。」


 高熱で休んでいたであろうミゼットは寝間着のままの姿だ。

 薄茶色の簡素なワンピースのようなものを身に纏っている。

 緊張したのだろうか、また熱が上がってきたらしく顔が赤い。


「あ、無理しないでそのままでいいわ。ところで、ミゼットを医者には診せたのかしら?」


「はい。原因不明の不治の病だと言われて…。」


「不治の病?」


「はい。幼い頃から熱が下がらず、どの医者に診せても分からないと。」


「はぁ。それは見る目がないのね。」


「え?」


 くすりと笑うリーフィアにまさか原因が分かったのかと詰め寄るリリーリャ。


「私とってもラッキーだわ。こんなすばらしい子を手に入れる事が出来るなんて奇跡ね。」


「あの、リーフィア様、どういうことなのですか?妹は治るのでしょうか。」


 不安げに尋ねるリリーリャとキョトンとした表情のミゼット。

 そして何をやらかすつもりなのかと言いたげな視線を送るクラウス様。


「ミゼットは病気ではないわ。だから治すのは無理ね。」


「なっ!」


 治らないと聞いてがっくり項垂れるリリーリャの横をすり抜けてミゼットの休む寝台に腰掛けるリーフィア。

 そして、戸惑うミゼットの両手をそっと持ち上げて、魔力を循環させる。


「ふぇ?」


 突然の魔力にミゼットは体を震わせる。

 尻尾がぴんと立って驚きを表現しているようだ。

 リーフィアはミゼットの体に溜まっている魔力を少しずつ循環させながら抜いていく。

 一気にやると気持ち悪くなるかもしれないと言う理由とミゼットの魔力の絶対量を測るためでもある。

 少しずつ魔力が減って体か軽くなっていくのを感じたのか、ミゼットは驚きの表情でリーフィアを見ている。


「どう?楽になったかしら。」


「えっと、はい。かなり楽になりました。あの、さっきのは一体…。」


「魔力循環をしてミゼットの体で受け付けられない余剰分を抜いたのよ。」


「ま、魔力だって?」


 ぎょっと声を上げたのはリリーリャだ。

 獣人族は魔力を持たない種族だ。

 そう信じてきたし魔力を持った獣人など聞いた事がない。


「そう、獣人にしては珍しく魔力が多いのね。でも体のほうが受け付けない上に消費されないからどんどん魔力が溜まってそれが耐え切れないで熱になった。人族の子供がよくかかる魔力熱だわ。」


「そ、そんな事が…。」


「ま、医者が分からなくても仕方がないわね。だって、常識に捉われていたら気付けないもの。」


 ニッコリと笑いかけたリーフィアにミゼットは尊敬の念を向ける。

 今まで誰も分からなかった自分の状況をひと目で見抜いたリーフィアはミゼットにとって救いの女神だった。

 その上魔力を持っているという事が分かったのだ。

 魔法を使うことが出来るという事は今までリリーリャに守って貰うしかなかった上、お荷物でしかないと自身を卑下し続けてきたミゼットにとって自分に自身を持てる功名となりうるものだ。

 そして、自分を救ってくれたリーフィアに仕える事ができると言う事実がミゼットにはうれしかった。

 この時ミゼットは心に誓ったのだ。リーフィア様に生涯お仕えすることを。

 リーフィアの与り知らぬ所で自身の信望者ができた事を私はまだ知らない。

 その後、リリーリャとミゼットの荷物を纏めてもらい、王宮に帰ってきた。

 リリーリャはエドワード殿下暗殺未遂の重要参考人でもある。

 クラウス様と調書を取る為に移動し、ミゼットと私は二人で客室に戻ってきた。

 リックにミゼットともう一人従者が増えた事を伝え、ミゼットの魔法の訓練を時間の許す限り行った。

 驚くほどの吸収力で魔力操作を身に着けたミゼットが魔法を使えるようになるのはあっという間だった。

 獣人族で瞳の色も金のミゼットは、属性は不明だ。

 だが、瞳の色に関わらず魔法を使う事ができる私は気にならない事だ。

 ミゼットの魔力量は人族のランクでいうとCランク-くらいだろうか。

 貴族にしてみれば少ないほうだが、獣人のミゼットにすれば多すぎるくらいだ。

 訓練をして魔力を消費する事を覚えたミゼットは今までなんだったのかと言うほどあっという間に回復し、体力をつけたり私の侍女として働くための知識を養ったりと頑張っている。

 忠誠の高いミゼットは偶に行き過ぎな所もあるが、リーフィアにとって信頼の置ける3人目の部下として申し分ない存在となっていくのだった。


 リリーリャの調書を取り終えたクラウス様から呼び出されたのはすぐの事だった。

 ソファーに座って話を聞く。だが、クラウス様の難しい顔を見ていつもの雰囲気と違うことを感じ取ってしまう。


「フィア、聞きたい事がある。」


「はい。どんな事でしょうか。」


 真剣な表情のクラウス様に私も気持ちが引き締まる。


「盗賊ギルドに理由は聞かずに黙って付いてきて欲しいというから着いて行った。そして、リリーリャと言う唯一の証言を取れる人物にこうして巡りあった訳だが…。」


「はい。」


「リリーリャの身元をどうやって割り出したのだ?」


「あ、それは…。」


 思わず言い澱んだ私にクラウス様は厳しい視線を向けている。

 言い逃れは許さないと言う無言の圧力だ。


「以前にもお見せした映像を覚えていますか?」


「陛下に見せたアレの事か。」


 王家の影に任じられる際に見せた魔力が少ない訳ではないと言う証明に見せた光の魔法。


「えぇ、あれは私が体験したものを再現したように見えましたよね。」


「あぁ。そう見えた。」


「本当はちょっと違います。」


「と言うと?」


「あれは、私の作った魔道具が記録した映像を映し出しただけのもの。」


「つまりどういう事だ?」


「記録したものであれば後追いが出来ます。」


 意味が分からないと言った風に首をかしげるクラウス様にある映像をホログラムとして見せる。それは、かつて母が殺された際の状況とその周囲の動きを編集したもの。

 そして、今回の襲撃事件やエドワード殿下暗殺未遂の状況、そして王妃殺害の状況を整理して纏めている。

 それを見たクラウス様はじっと黙っている。


「この魔道具の難点は、事が起きた後の後追いは出来ますが、起こっている際にそれを察知する事ができない事。そして、私が調べようと思わなければ調べようがないこと。」


「これは以前からあったのだな。なぜ、言わなかった?」


「これは、過ぎた物です。これの危険性は私が一番良く理解しています。知れば国は利用するでしょう?でもその先にあるのは破滅です。私はそれを見たくはない。だから今まで黙っていました。そして、これを国に渡す事はできません。それをするくらいなら破壊した方がマシです。ただ、これではなくこの機能を制限したものを提供する事はできます。元々は私の目的のためにも、段階を経て少しずつ広げていくつもりでしたから。」


「なるほど、リーフ工房で出された音を記録する魔道具はその手始めだったと言う事か。」


「えぇ、音の次は静止画、動画と段階を上げて提供するつもりでした。ただ、私が利用しているものは広めるつもりはありませんが。」


「この件は、陛下に聞かねば判断できない。分かるな?」


「はい。」


 後日、クラウス様に見せた映像を記録したものと、動画を記録、再生できる魔道具と魔方陣を提出することを条件に、リーフィアが個人でその機能を持つ事を許された。

 私が必要なら使うのだろうと言う意味深な言葉を残して告げられた結果に何とも複雑な気持ちになる。

 気持ちを紛らわす為にアシュレイの姿で出掛けた王都の町でリーフィアは再び面倒ごとに巻き込まれる事となる。


「あれは…。」


 王都の町に居るはずのない二人の姿を見かけたリーフィアは思わず後をつけた。

 そして、二人がスラムの方へ歩いていくのを見て、路地に入る直前で片方の腕を掴んで引っ張った。


「おい、こんな所で何をしているんだ!」


 金の髪に青い瞳の少年。質素な服を纏ってはいるが高貴な気配は隠せていない。

 エドワード殿下だ。護衛として着いてきていたルイスも困った表情をしている。


「人を探しています。」


「人探しって…こんな場所に来たら危ないだろ。見たところ良い所のお坊ちゃんだろ?」


 事情を知っているが知らない振りをしているリーフィア。

 自分の変装したアーシェを探しているのだと分かっていてもそれを認めるわけにはいかない。エドワード殿下は王族だ。

 こんな場所を出歩いていいわけがない。

 それに先日危ない目に遭ったばかりだと言うのに。


「それでも、僕は彼女に会いたいんだ。会った場所がここだったから、ここに来ればまた会えるかもしれないと思って。」


 そういったエドワード殿下の瞳がやっとの事でこちらを向く。

 そして私の姿を捉えて驚きの表情を浮かべた。その表情を見て気がつく。

 あ、アーシェと同じ髪色に同じ瞳の色の姿のアシュレイ。

 声以外はベースが同じな為にその姿はアーシェに似すぎている。


「君!銀の髪に青い瞳の少女を知らないか?もしかして妹がいるとか…。」


「僕には妹なんて居ない。」


 その言葉を聞いてがっかりしているエドワード殿下。その殿下にルイスが進言する。


「やはり、止めましょう。このような場所にいるのは危険です、殿下。」


「ばか!ルイス。殿下って呼ぶな。」


「あっ。」


 その二人のやり取りに額に手を当てて盛大に溜息をつく私。


「で、王子様。さっさとお城に帰るべきだと僕は思うんだけど?それとも送っていってやろうか?」


「いや、それより君は?」


「僕はアシュレイ・ブレインフォード。アッシュって呼んでくれ。」


「分かったアッシュ。ところで君はこの辺りは詳しいのかい?」


「…それなりに。」


「なら、探すのを…。」


「断る!女漁りなら別の場所でやれ。」


 不敬ではあるが声を被せて断る。


「女漁りって。僕はそんなつもりじゃ…。」


 その言葉にルイスと共に溜息をつく。

 とりあえず、こんな場所には二度と来ないように言ってはみたが、きっと諦める事はないだろう。黙って手を引いて王宮へと向かう。

 そして、王宮に近づいた時に思わぬ人物に足を止められる事となる。


「アシュレイ、こんな所で何をしている。」


「げ、クラウス様。」


 アシュレイの姿で二人っきりではない場所ではお兄様呼びはできない。

 ぎぎぎと音が鳴るくらいにカクカクと後ろを振り向く。


「げ、とは何だ?アシュレイ。それで、その二人は…。」


 言いかけて相手が誰だか気がついたクラウス様は、私を見て更に二人を見て盛大に呆れた表情で付いて来いと命じられる。

 平民姿の王子様なんて見せられたものじゃない。

 クラウス様に連れられてクラウス様の執務室へ到着した時点で後ろの二人がダラダラと汗を流していたが見ない振りをした。


「アシュレイ、なぜ二人を連れていたのか説明しろ。」


 命じられるままに状況説明を行った私は説明が終わった時点でしゅんとなっている二人を見た。

 そして、王族であるゆえに怒ることもできないクラウス様は今後、外へ出る際は私に護衛をしろと命じられた。

 何度でも見つけるまで諦めないであろうエドワード殿下を見張っていろという事だ。


「了解しました…。」


 仕方がないので、ルイスとエドワード殿下に通信用の魔道具を渡す。

 使い方を説明して二人に向き直った。


「いつでもと言う訳にはいきませんが、ご用命の際はこの魔道具で念話を送ってください。」


 二人の返事を聞いてひとまず勝手はしないようにと念をおす。


「それから、アシュレイ。二人を冒険者ギルドで鍛えてやれ。」


「分かりまし…はぁ?何で!」


「身を守れるくらいには強くなってもらわないとな。それには実践が一番だからだ。」


 げっそりして返事をする。次の日には冒険者登録を済ませた二人に冒険者の仕事を共にこなしつつ少しずつ実践に慣れさせていく。

 もちろん、王宮でも騎士に訓練を受けてはいるがどうしても実践となると強張ってしまう。

 それが慣れてくると二人だけで魔物を退治させたり、依頼を達成させたりして少しずつ自信を付けさせていく。

 以前子供達を冒険者に仕立てあげた時と同じ手順だ。

 本当はもっとメンバーがいれば安心なのだがリックやミゼットを会わせる訳にはいかないのだ。

 こうして3人で過ごす時間も増えていき、魔法を自在に操るアシュレイに魔法の使い方を教えて欲しいとレクチャーする羽目になったり、ダンジョンに一緒に潜ったりする日々を送っていく。

 あっという間に年月は過ぎ、リーフィアは13歳になっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る