第50話

 翌朝、目覚めて自分が何処にいるのか一瞬分からなくてテンパったけど、隣で轟音を響かせる佐藤さんを見て思い出した。

 藤木さん家の客間だ。


「おはよう、山田くん。シャワー浴びてきなよ」


「おはようございます。ありがとうございます」


 子供達は朝から元気にはしゃぎ回っていた。


「ママ! リツ兄ちゃんと一緒にディズニーランド行きたい!」


「アメリカの!」


「アメリカの?!」


「日本のじゃなくて?」


「アメリカの!」


 TVでディズニーワールドの特集が流れている。


「つい、俺行ったことあるよ、楽しいよって言っちゃいました……」


「行きたい! 行きたい! 行きたい!」


 テンちゃんを筆頭に、ナナちゃん、リョウカちゃん、ジンくんまで加わって、リビングを行きたい!行進で廻る。


「どうする?直幸さん……」


 さくらさんが藤木さんに決断を委ねる。

 さくらさんもちょっと行きたそうだ。


「はいはい、検討します」


「やったー! やったー! やったー!」


 やったー!行進に変わった。テンちゃんと手を繋いで、リツまで加わった。なんか、一番大きなお兄ちゃんみたいだな。


「ふふ、大変だけど楽しそうね」


 さくらさんも嬉しそうだけど、いいのか?

 なんか、嫌な予感がする……



「フロリダのホテル、何軒か知ってるので手配できますよ」


「ありがとう。リツくんと行きたいって言ってるけど、いいの?」


「はい、もちろん」


 僕はジロリとリツを睨む。

 スマホでディズニーワールドを調べる藤木さんの後ろでニヤリとほくそ笑むリツ。

 何考えてるんだよ!ヘンな真似したら絶対に許さないからな!




「また来てねー‼」


「うん、またね」


 二日酔いで潰れた佐藤さんを残して、僕とリツは藤木家を後にした。





「お前、どういうつもりだよ」


「そういうつもりだよ」


「やめろよ!あの家族を壊すつもりなのか!」


「壊したくない」


 リツが立ち止まり、俯く。

 こんな表情のリツはあまり見たことがない。

 いつも自信たっぷりで全開でイケメンのリツが、俯いて暗い顔なんて……相当だな。


「じゃあ……どうすんだよ?」


「どーにもできねぇよ」


 僕はリツに思いきってあの時のことを聞いてみた。


「さくらさんがレンタルを辞めた時、何があったんだ?」


 しばらく沈黙した後、リツがポツリと言った。


「一線越えたけどフラれた」


 ショックで何も言えなかった。

 さくらさんが一線を越えた?

 リツがフラれた?

 信じられないことばかりだった。


「そんなこと初めてだった。それに…… 」


「何?」


「こんなに誰かを好きになったのも初めてだ」


 リツがはにかみながらこんなセリフを言うなんて!


「リツ、お前大丈夫か?見たことないくらいイケてないよ?」


「笑いたきゃ笑えよ」



 笑えねぇよ。

 本気なんだろ?

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