第39話

 入り口の少し前で声をかけられる。


「いらっしゃいませ」


「あの、予約していた山田です」



 !!!!!!!



 み、美香どうした?

 予約なんかした覚えないけど?



「山田様ですね。お待ちしておりました」



 ???????



 どういうこと?



「ごめんね、予約制だったからあらかじめ予約しておいたの」


 いたずらっぽく微笑む美香。


「そ、そうか、ビックリしたなぁ〜」


 計算?計算なのか?美香の真意が分からない……。

 僕達は勧められるまま、窓際の夜景の見える席に座った。


「わぁ、すごいね」


 こんなことって、普通なの?

 女の子があらかじめ予約取ることってある?

 後、注文はどうしたらいいの?

 分からないことだらけだよー!教えてグーグルパイセン!あー今すぐ検索かけたい!


「いらっしゃいませ。ご注文はいかがなさいますか?」


 あ、メニューある!良かったー。

 一応見るけど全然わからん。


「ジントニックで」それしか知らん。


「うーん、分からないなぁ」美香が困っいてる。


 ま、まずい……アドバイス出来ない……。


「よろしければオリジナルもお作りできますよ。オレンジやカシスを使ってとか、甘めや弱め、何色がいいなど。夕陽などのイメージでも出来ますよ」


 バーテンダーさん、ナイスフォロー!さすが解っていらっしゃる。


「じゃあ……今、二人でプラネタリウムに行って来たんです。『星空』のイメージって出来ますか?」


「はい、かしこまりました」


 オシャレ〜。美香、実は慣れてるのかな?

 バーテンダーさんも出来ちゃうとこがまたすごい。

 僕だけついて行けてないなぁ……。



 しばらくすると、カウンターから小気味良いシェイカーを振る音が聞こえてきた。

 そのシェイカーとグラスが僕達のテーブルに運ばれる。

 僕の前にはよく冷えたジントニック。

 バーテンダーさんがシャンパングラスを置き、シェイカーからグラスの1/5ほどダークブルーの液体を注ぐ。その後グラスを傾け、静かにシャンパンを注ぎ込む。不思議なことに、二つの液体は混じり合わない。人差し指と中指でグラスの足を抑え、スッと美香の前に差し出される。


「『夜の帳』でございます」


 ダークブルーの液体は澱のように底に沈み、段々とグラデーションして上層には黄金の気泡が幾筋も立ち昇る。


「素敵……」


 僕まで落ちそうになった。

 なんて美しいカクテル。

 なんて美しい所作。

 しかもイケメン。


 大丈夫なんだろうか僕。

 やっぱりBarなんて僕には敷居が高かったんだ。突然の劣等感に打ちひしがれながら美香の顔色を伺うと、うっとりと微笑んでいた。だよね……。


「ブルーベリーの香りがする!」


 嬉しそうに言う美香に頷きながら、僕はジントニックを一口飲んだ。

 ほろ苦さが身に染みる……。

 全然酔えそうにない。

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