第35話

「なんだそれ。さくらさん、何やってたの?」


「レンタルおばさんって、おばさんの派遣です」


「おばさん?派遣?デートすんの?」


「そういうわけではなくて、赤ちゃんのいる母親を助けたり、何か相談に乗ったり、いろいろあるみたいなんですが、僕らとはランチがメインで……」


「お前、昼休みにそんなことしてたのか」


「すみません……」


 う、ううっ……これを知られるのはかなり恥ずかしい。どうかこれ以上、深堀されませんように。


「一緒に行ってやってもいいけど、そのリツってヤツ、大丈夫なのか?ヘンな真似させんなよ」


「僕の言うことなんて聞きませんよ。だから、いざとなったら佐藤さんと僕で羽交い締めに……」


「なんだそりゃ。心配しなくていいよ。藤木は、ああ見えてボクサーだから」


「え!マジっすか!?」


「うん、大学でチャンピオンだった」


 ひぇー。


「弟に言っとけ。ぶっ殺されるぞって」


 良かった……。って、良かったのか?

 僕もバレたら殺されるかも知れないって事?

 とにかく、帰ってリツに言っておかなくちゃ。



 ◆◆◆◆☆☆☆☆◆◆◆◆☆☆☆☆◆◆◆◆




「ねぇ、ここのスイーツビュッフェに行ってみたいんだけど、週末どうかな?」


 ランチの途中でなんだかモジモジしながら美香がホテルのパンフレットを差し出した。


 ん?なんでモジモジ?


「ああ、いいよ。今週末にでも行ってみる?」


「うん、行きたい。ストロベリーフェアだよ!楽しみぃ〜!」


 食べ放題が恥ずかしかったのかな?

 美香は僕より7つ年下だけど、わりとしっかりしている。でもやっぱり甘いものが好きだったり、ここに行きたいと甘えてきたりする時は可愛いと思う。女子だなぁ。



 その週の土曜日、僕は美香とホテルのビュッフェへ行った。

 天井が高く、シャンデリアはあたたかな明かりを灯している。絨毯や調度品はアールヌーヴォーでこれも温かみと高級感を醸し出している。最近の都会的なラグジュアリーとは一線を画す、古き良き豊かさの象徴。


「これ美味しい!」


 美香は皿に一杯のスイーツを盛り付けてご満悦だ。確かにどれも美味しい。一口サイズのプチケーキにパフェやジェラート。アイスと苺をワッフルにトッピングしたり、よりどりみどりだ。女子は好きだよね、こういうの。苺の酸味がさわやかで僕でもいくつも食べられる。一番気に入ったのはフローズンヨーグルトにフルーツを好きなだけトッピングできるもの。ソフトクリームのようにサーバーからフローズンヨーグルトを取り分けて、苺、パイナップル、キウイ、マンゴーは細かく刻んだものを。ブルーベリーは粒のまま乗せて、苺のキラキラしたソースをかけて……いくらでも食べられる。悪魔的だ。


 夢中になって食べていると、美香が食べるのを止めて言った。


「このホテル、素敵じゃない?」


「うん、いいね。スイーツも美味しいし」


「近くにプラネタリウムがあるんだよ」


 プ、プラネタリウム……一瞬ドキッとした。


「後で行ってみようよ」美香が無邪気に言う。


「う、うん、そうだね」落ち着け山田。


 も、もしかして今日は……チャンスかもしれない。


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