ひざまくら2
ぴおに
第1話
昼まであと2時間。
デスクで仕事中にLINEが鳴る。
なんだ?こんな時間に誰からだろう?と言っても山田にLINEしてくる相手は少ない。だいたい見当はついていたが、周りに気づかれないようにこっそり確認する。
やっぱりリリーからだ。
『いつもお世話になっております。申し訳ないのですが今日は誰も都合がつきませんでした。私でもよろしいでしょうか?』
短く返信する。
『いいですよ』
仕事に戻ると、他の社員が受け持つ仕事を頼まれた。自分の仕事と頼まれた分を済ませ、正午きっかりに山田は席を立った。同僚達が誘いあってランチへ行ったり、デスクで弁当を広げる中、足早にオフィスを出て近くの料亭に向かう。
いつもの料亭。昼間からこんな場所でランチするのは顔見知りが誰も来ないからだ。ランチに数千円かけるヤツなんてそうはいない。同社の人間に出会ったとしても顔も知らない上層部だけだろう。ここでのランチは山田にとってつまらない毎日の中での非日常、ちょっとした気晴らしだった。
座敷に入るとリリーがすでに座っていた。
いつものランチ懐石が運ばれてくる。
「ごめんなさいね、今日はみんな出払っちゃって」
「いえ、大丈夫です。レンタル、忙しいんですね」
「忙しいというより、人が少ないのよね。今、5人だから。もう少し増やさないと。あ、来週新しい人が入るんだけどね。今日もおじさんなら空いてるんだけど……」
「おじさんは……ちょっと……」
「おじさんとご飯食べてもつまんないか。私もおじさんだけど」ニッコリ笑う。
リリーは『レンタル ホワイトリリー』の代表だ。
レンタルされるのはおじさんやおばさんが中心で、買い物に付き合ったり、人生相談にのったり、それぞれの要望に答えてくれる。
そう、おじさんやおばさんを時間でレンタルするのだ。世の中にはいろんな商売がある。
人付き合いがヘタな山田は会社の人間が苦手だった。黙っていてもいろいろ喋ってゲラゲラ笑うおばさんは山田にとって都合が良かった。人付き合いはヘタだけど、誰かと繋がっていたいと思う。そんなメンドクサイ山田を受け入れてくれるのは同年代より上の人ばかりだった。それに山田は小さい頃に母親を亡くしているということもあり、母性に飢えているのかもしれない。
「それはそうと、仕事はどう?まだ不等な扱いされてるの?」
「はぁ、まぁそんなとこです……」
「なんだろうねぇ。山田さんなんて、ほんとに真っ当な人だと思うけど。周りがおかしいのよね、きっと。今の世の中はまともな人ほど排除されるのよ」
なんとなく、はは……と力なく笑って濁した。
午後5時少し前
同僚がバタバタと書類を持ってやってくる。ああ、またか。
「山田さーん、ごめん、これお願いできる?ちょっと間に合わなくて。」
「あぁ、はい……」
「じゃ、よろしく!お疲れっす!」
山田に残務を押し付け、退社する同僚達。
暗くなり、山田のデスクにだけライトがついている。
もちろん、残業代は出ない。
同僚の用事はコンパだ。
コンパに行ったことなどない。
残業を代わる義理はない。
家に帰っても、特段やりたいことはない。
ついでに恋人もいない。
一人パソコンに向かっていると、またリリーからLINEが入った。
『いつもお世話になっております。来週は新人が参ります。至らないことがございましたら、私の方までご連絡下さい。宜しくお願い致します』
『わかりました』
誰でもいいんだ。繋がっていられたら。
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