メッセージ
好永アカネ
メッセージ
見渡す限り、美しい青の世界だった。
澄み渡るような青い空にいくつもの雲がたなびいている。雲は天に近付くほど白く輝いていて、
こんなに美しい景色を写真や映像以外で見たのは初めてだ。
そう、まるで写真のようだ。
私は
私の足の
もう一人の私は頭を下に向けて、手足を空の
目に見える全てが静止していた。
雲が動いていないのは、風が吹いていないからだろう。
海が動いていないのは、波が立っていないからだろう。
何も聞こえない。何も。
これはなに? 私は夢を見ているの?
「あれぇ? 出ちゃってるぅ」
見上げるとそれはすぐそばにいた。
肌も、髪も、何もかも内側から輝いているかのように白い。実際そうなのだろう。心なしか
それは透明な
「え、天使?」
反射的に声に出してしまった。それまで声を出せることを忘れていた。
「はい。そうですよぉ」
天使はにっこりと
「
私は「なんだか
「はい。あの、どういう意味でしょう?」
「ときどき
「はぁ」
「こっちは見ましたかぁ?」
彼女は
「はい。なんなんですか?
「ミズキさんの
「えぇ? じゃあえっと……さっき言ってた魂が抜けちゃうっていうのは……」
「はい。ここから抜けちゃったのがあなたというわけですねぇ」
彼女はここに来てからずっとニコニコしているが、私はとても笑う気にはなれない。
「どうしてこんなことに……それにここはどこなんですか?」
私が
「あっち見てください。見えますぅ?」
彼女の指差す先はもちろん、空だ。見上げたところでそこには雲しかない。
いや、よくよく見ると、何か小さな黒い影が……
「飛行機?」
「ですです。ミズキさんはあそこから落っこちて来たんですよぉ」
「は!?」
つい大きな声が出てしまった。
「あんなところから落ちたら死んじゃうじゃないですか!」
「はい。残念ながら、死んじゃいますぅ」
彼女は再び
「あなたが肉体に戻るとまた時が動き出すのでぇ、ミズキさんはこのまま落下して、水面に叩きつけられた
「そんなこと言われても……」
「そもそもなんで落ちたりなんか……」
「ああ、忘れちゃったんですねぇ」
彼女は、ぱんっと
「じゃあちょっとだけ上、見てきますぅ?」
どうやら私達の体が
私達はあっという間に雲を抜けた。もう飛行機がすぐそこだ。
彼女は開いている
中をのぞいてすぐにぎょっとする。搭乗口の
奥には、肩まで伸ばした髪を茶色に染めた
「カスミ!」
——私の妹が、別の男に
私は
「思い出せそうですかぁ?」
「思い出しました。私はこいつらにそこから突き落とされたんでした」
そう、突然のハイジャック。男たちはあろうことか妹を
ああ、
私がしんみりしているのを
「そのへんを
お言葉に甘えることにした。
私は
両親はすぐに見つかった。母は今にも泣き出しそうな顔をしていた。父はそんな母の肩を抱きながら、そばにいるハイジャック犯を鬼のような
(お父さん、お母さん、ごめんね。私これから死んじゃうんだってさ)
少しだけ
「じゃあ行きましょうかぁ」
「そうですね。ハァ。カスミのアイス食べてごめんって言いそびれちゃったな」
「あ、いいですよぉ。それくらい伝えても」
「え、いいんですか?」
「
「それならちょっとだけ……」
私は妹に近づいて行って、耳元でゴニョゴニョと最後の言葉を伝えた。
「私はこれからどこへ行くんですか? えっと、死んだ
「うーん、どこかに行くわけではないんですよぉ」
天使は、まるで子供に言い聞かせているかのようにゆっくりと優しい声で言った。
「あなたはこれまで長い旅をしていました。あなたの魂は神様の
「ということは、私が死ぬ時もそばにいてくれます? ちょっと
「もちろんですよぉ。それに大丈夫です、
「それを聞いて安心しました」
——翌日、あらゆるメディアがある話題で
『
インタビュー動画はこちら
「お姉ちゃんの声が聞こえたんです!
銃を持ってるのはそいつだけだよって! だから私、
う……うわああんお姉ちゃーん! もう怒ってないから帰ってきてぇええ!」
カスミさんら家族は
カスミさんはミズキさんの好きなスイーツをたくさん用意して、帰宅を
メッセージ 好永アカネ @akanequest
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