王室特務部隊通称【烏】
雪片月灯
プロローグ
プロローグ
「私はあなたを許します」
黒衣の女神と称されるその女は、静かな声でそう言った。
両目からぼろぼろと零れ落ちるのは、涙か、それとも長年こびりついていた『彼女』への想いという名の執着か。
俺を見据える美しい顔。その右目は黒い眼帯で隠されている。その下にあった蜂蜜のような瞳はもう二度と陽の色を拝むことは叶わないだろう。
けれどもこの時、俺には何故だか見えた。
あの日。俺が奪ってしまった、その瞳の色も。
あの日。俺が奪ってしまったこの女の幸せも。
俺には確かに見えた。見えて、しまった。
――嗚呼、嗚呼。俺は、一体。
「なんの為に、生きていたんだろうな……」
苦く笑って、問い掛けのように漏れ出たその声にまるで応えるように、血生臭い風が俺の頬を優しく撫でた。
西の大国と称されるヴァンダーフェルケ王国。
王族と貴族が住まうその場所。国区第一地区。
見ようによっては悲劇でもあり、誰かにとっては喜劇でもあるこの物語の舞台で、それでも誰かは言ったのだ。
これはひとつの『愛』の物語だと。
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