第6話 はじまりの島
「さて、ウィンお主は旅に出たいと考えているのじゃったな。」
「はい。魔物の凶暴化を抑えるには水は不可欠です。その失われていく水の原因を探りに行きたいと考えています。」
「うむ。それならば旅を共にする者が必要じゃの。」
「仲間ですか?」
「ほい。」
村長が不思議な光を発したと思ったら部屋中光で一杯になった。目を開けると目の前には知らない人が3人増えていた。
しかしその姿は透けている。
「あの、どちら様でしょう?」
「初めましてだな!俺はアース。白虎村から来た修験者見習いだ。よろしくな。」
明らかに見た目は修験者ではないが、ウィンと同年代の青年のようだ。はっきり言ってそこらにいそうな顔立ちの金髪の男だ。
「ふははははは。私はウィングと言う。玄武村から来た。」
なぜか仮面をつけて高笑いをしている謎の人物だ。
こんなメンバーで大丈夫なのだろうか。
ウィンは先行きが不安になってきた。
「私は踊り子見習いで朱雀村から来たわ。フレアって言うの。よろしくね。」
朗らかな笑みが魅力的な紫の髪の女性。魅惑の衣装は踊り子らしくちょっと薄手だ。
「俺は青龍村のウィン。こちらこそよろしくな。」
ウィンが自己紹介をして締め括ったその時、不意に声が響き渡った。
「どうやら旅の仲間が集まったようですね。とはいえ、英霊ですか。」
「ん?その声はクアンか?というか、英霊って何だ?」
「はい。先程振りですねウィン。英霊とは世界の勇者であった者たちの魂が形を成したものです。今回はウィンを手伝ってくれるみたいですね。」
ふわりと光が瞬いてクアンが姿を現した。
「ふぉっふぉっふぉ。クアン様も見送りに来られたのですかな?」
「村長、お久しぶりですね。お元気そうで何よりです。」
くすくすと笑いながらクアンは村長と和やかな会話を交わしている。しばらくそうしていたのだが、村長は不意に真剣な表情になってウィンに向き合った。
「さて、実は水がなくなる原因じゃがな、始まりの島にそれがあるらしいというのは分かっているのじゃ。」
「始まりの島?」
ウィンは地図を頭に浮かべて話に耳を傾けた。
「すべての根幹である始まりの島から水が失われて世界中から消えているのじゃ。」
「じゃあ、そこに行くとその原因というのが分かるってことか。」
白虎村のアースが今すぐにでも行きたいかのように飛び跳ねた。
「ふははははは。では、その原因とやらを取り除いて世界に平和をもたらすのだ。」
玄武村のウィングが高笑いしながら同意した。
「そうね。早く行って解決しないと朱雀の村も大変だもの。」
朱雀村のフレアが頷いた。
「そういう訳でこれから始まりの島までワープさせるので準備ができたら声をかけるのじゃ。」
「ワープなんか使えるのにどうして今まで行動しなかったのさ。」
「ほら、こういうのは若者の出番じゃて。」
村長は笑ってウィンたちを送り出した。そもそも初めに村長の家に来た時に次元の狭間のような空間が広がっていた。
その時点でワープくらい村長なら使えると分かっていたことなのにとウィンは今更ながら気が付いた。
始まりの島はまるで巨大な水瓶のような形をしている。中に入るとそこには一面の水が目に入った。
「おい、あれを見ろ!」
白虎村のアースが中央を指さして言った。
「な、あれは!」
中央には渦巻きが発生しており水がどんどんと吸い込まれて行っている。
「あ、あれってまさか栓が抜けているんじゃ…。」
朱雀村のフレアが紐のついた何かを見つけてそう呟く。
「ふははははは。まさか、そんな面白い事が…。」
玄武村のウィングが高笑いしながらも言葉が途中で途切れる。その視線の先にあるものを見つけてしまったのだ。
「よく来たね、世界を守ろうとする勇者たちよ。」
柔らかな声が響き渡る。それは懐かしいあの声だった。ウィンは声がする場所へ視線を向ける。
そこには青い髪の魔術師風の人物が立っていた。
「まさか、貴方がアクオス様?」
「いかにも、僕がアクオスだ。この世界の神さ。」
青年は不敵な笑みを浮かべて答えた。
「あの、以前助けていただいた青龍村のウィンです。」
「覚えているよ。随分と大きくなったね。」
「それで、そのとき落とされたものを預かっています。」
ウィンが取り出そうとするのをアクオスは制した。
「それは元々君たちをここに呼ぶためにわざと落としたものだからそのまま君が持っているといいよ。」
「え?」
「ふふ、君たちも見ただろう?始まりの島の中央にある渦巻きを。」
「えぇ、栓が抜けてしまっているように見えましたが…。」
フレアが栓を見てアクオスに答える。
「そう。だけどあの栓はもう使えないんだ。かれこれ3000年は経っているからね。」
「3000年?」
「そう、以前にも同じような事が起きた。その時もこうして勇者を集めたんだ。」
アクオスは懐かしむようにそれを告げる。
「あの時も愚かな人間が同じ事をした。」
「ふはは、やはりそういう事なのだな。」
玄武村のウィングはいつもより力なく答えてそれを見る。白骨化した人間の骨だ。栓の傍に残っている。
「え?どういう事?」
ウィンは状況を呑み込めていない。何が起こったのか理解できないでいた。
「魔物が凶暴化したのは水がなくなっていくからだけど、まさかそこに人の手が加わっていたなんてな。」
白虎村のアースが骨を見ながらそれを口にする。
「そう、愚かにも始まりの島に忍び込み星の根幹である栓を抜いた。それはその先に希望を見たからなのかは分からないけど愚かなことをしてくれる。」
アクオスは静かに目を瞑った。
そしてゆっくりと4人の勇者に魔法をかけた。それは礎の魔法。
しかし、それは失敗に終わる。
「クアン?」
精霊であるクアンがその場に現れてその魔法を一心に受けたのだ。
「な?水の精霊だと?」
アクオスは驚くように精霊を見た。
「アクオス様、このように人を柱にして星を守ろうとしても長くは続きません。貴方が水を生み出すことが出来ないのと同じように、ここにいる者では嘗てのような柱にもなることは出来ないでしょう。」
「どういう事だ。」
「ここには昔のような魔法の力を持つものは居ないのです。」
「何だと?そんな馬鹿な。」
「すでに失われてしまった魔法は今や魔石に頼らなければ使えないほどです。」
「では、もう駄目なのか…?」
「いいえ、アクオス様。私がこの世界の水を司ることにします。この身を星と同化させ決して水が失われないように。」
「なぜ精霊である君がそんな事を。」
「アクオス様、私は人が好きなのです。それに私たち精霊は人無しには生まれません。強い願いが私たちのような精霊を生みその力は大地に還元されていく。それこそが正しいあり方なのだと私は思うのです。」
「本気なのかい?」
「えぇ、ですからアクオス様は人間というものをもう少しじっくりと観察してみてください。きっとアクオス様も人間が好きになるでしょう。」
「そんな事になるはずがない。人間が欲を張らねばこのような事態にはならなかったはずなのだから。」
「いいえ、そんな事はありません。アクオス様もこの世界を作った時に感じたはずです。人間の可能性も、未来も。」
「………。」
二人の会話を聞いてウィンは複雑な思いを抱いていた。人間のために精霊が犠牲になるのも人間が犠牲になるのも間違っている気がしたからだ。
何か、別の方法はないのだろうか。皆が悲しまない方法は。手に持ったペンダントをぎゅっと握りしめる。
「強い願いが精霊を生む…。」
ウィンがぽつりと呟いた。手に持つペンダントに小さな光が灯る。
「願い、この世界を守る力…。」
ウィンの手にアースとウィング、そしてフレアの手が重なる。
「美しい水と緑あふれる世界を…乞い願う。」
光が徐々に強くなりその光が始まりの島から世界に広がる。
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