裏山で、凧を揚げた。

父と、小さな弟と。



正月明け間もない空は、どこまでも深く青い。

凛々しく引き締まった大気は、少し強く風が吹くと耳も鼻も真っ赤になる。


けれど、静かに冬枯れたその野原は、黄色い日差しをとっぷりと集めた陽だまりになっていた。



凧揚げのうまい父。

小中学校の理科の教員だった父は、そういうことがとても上手で、子供を笑顔にするのが何よりも好きな人だった。


野原の真ん中で凧を構え、風を待つ。

父の合図でその手を離し、同時に父が風を読みながら糸を操ると、凧はみるみる空を駆け登っていく。



青い空の中、やがて点になるほどに上昇した凧。

「ぎゅっと握るんだよ」

父から凧糸の束を手渡され、その糸をしっかりと握る。

空高く舞う凧が、手をぐいぐいと引く。予想以上に強いその力に驚く。



青い空。遥か上空を静かに舞う凧。

横で楽しげに微笑む父。


私たちはいつまでも顔を真上に向け、眩しい空の彼方の点を見つめた。






正月。

実家へ帰ると、子供たちを連れて裏山の野原へ行く。



上手に凧を揚げてくれた父は、もういないけれど——

空高く凧を操りながら楽しげに微笑む父が、いつもそこにいる。





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