第32話 勇者ちゃん、もう一人の勇者ちゃんと出会う。⑤
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「ま、待たせちゃったかな?」
「ん? あ、いや。今来たとこだから」
なんだかデートの待ち合わせをしていたカップルの様なやりとりを、淡島と交わす。
場所は俺の家にほど近いファミレス。
その店内で一番奥まった場所でドリンクバーとケーキを頼んで座っていると、淡島とヤエが揃って顔を出した。
淡島は大人しめの印象を受ける長いロングスカートに、肩出しのキャミソール。
ちょっと化粧もしちゃったりなんかで、髪型もいつもの両目隠れじゃなくて、右半分を耳を出す勢いで寄せていて、なんだか印象が大分違う。
いつも隣の席でどんよりしてるイメージだけど、こうして見るとコイツめちゃくちゃ可愛いな。
ヤエは昼見た時と変わらず、真っ白な長い髪を引きずりながら全裸で堂々と歩いている。
お前、それどうにかならんのか。
「……ん? それは違う。リョウスケは、ずっと前から。ここに居た。ディアがこのジュースなるものを、3回おかわり、できるくらい。あとケーキも二つ、食べた」
「余計なこと言うんじゃないよお前は」
「……あだっ」
俺の隣の席で口元をべっとべとに汚しながらケーキを食べ続けるディアの頭を、軽く叩いた。
気を使わせないための方便なのに、お前がバラしてどうすんだ。
あとケーキ食いすぎな?
「ふんっ、ヤエは言ったです。そんなに念入りにお風呂入らなくても久はいつも綺麗だし、お化粧も薄くした方が良いって。聞かないで何度もお化粧をやり直してたからこんなに遅れたのです!」
「ヤエっ! それは内緒って言ったじゃないか!」
お、おう。
わざわざ俺に会う為にそこまで気合入れなくても良いんだけどな?
どうせ学校で毎日会うんだし。
「いや、その。座ったら?」
未だ立ちっぱなしな二人に、対面する席に座る様促す。
「あ、うん。なんか、ごめん」
「ああ、別に謝らなくても」
ファミレスに良くある、ガラスの衝立で仕切られている席。
そこに小さめのポシェットを置き、ヤエを先に座らせて後から淡島が座る。
そろそろ夕飯時だし、家族連れも増える。
内緒話は喧騒の中で。
声の反射とかも諸々気にしてこの席に座っているから、盗み聞きされる心配はほぼ無い。
「なんか食うか? 奢ったるよ」
俺はテーブルに端に立てかけられたメニューを取って、淡島達が見やすい向きで広げて見せる。
「え、いやそんな。良いよ申し訳ない」
「ん? 気にすんなって。話聞きたかったのはこっちなんだし」
領収書切れるし、別に俺の財布が痛むわけじゃ無いし。
「おらヤエ、あんまり目立つもん食わせらんねーけど、お前もディアと同じケーキとか食うか?」
「てっ、敵かもしれない人からの施しは受けませんです! ぜっ、絶対に! ケーキなんか、久がいつでも食べさせてくれるしっ、ヤエはこう見えても大人ですからっ! そ、そんなお子様が喜ぶ様なのは……いっ、いらないです!」
とかなんとか言って、お前の目線はディアの食べてるケーキに釘付けじゃねーか。
嘘の下手な奴め。
「ほら淡島。遠慮されると逆にやりづらいんだ。せめて二、三皿ぐらいは頼んでくれよ」
「う、うん。頼花くんが、そう言うなら」
まぁこんだけ言っても遠慮すんのが淡島久って女の子だ。
無理やりにでも頼んで、後から残すの勿体ないとか理由付けて食わしてやろう。
「……リョウスケ」
「ん?」
なんだ。腹いっぱいか?
「……ケーキ、もう一回。おかわりしたい」
「お前はそろそろ遠慮しろ馬鹿野郎」
腹壊しても知らねぇからな。
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