妖(あやかし)猫の当世冥官修行メモ
葛城 惶
第1話 プロローグ
眠い---!
やたら眠いのだ。
この際、家事はサボりと決めて、さっさと布団に潜り込む---。
----と、誰だか頭をパシパシ叩く。
「痛ぇなぁ~」
まずは、片手で払い除をける---て、木の感触が手に触る。え?木?
てっきり猫パンチかと思ってた。
頭を巡らすと、なんか知らんが、神主みたいな格好したおっさんが座ってる。
平安時代じゃあるまいし、直衣に烏帽子---て、あぁ、平安時代の人ね。
勿論、実体じゃない。実体じゃない、いろんな時代の人は良く来るから別に驚かない。
でも、平安時代とは珍しい。鎧着たお侍さんが大概なんだけど---。
とりあえず訊いてみる。
「あんた、誰?」
「小野篁じゃ。」
はぁ---?え---と----小野小町は、女性だったよな---。
「花札になってる、字の上手な人?」
知ってる範囲で訊いてみる。
「あれは、小野道風。孫じゃ。」
あ、そりゃ失礼。
「んで、その親父さんが、何の用意?」
別に成仏出来てないわけじゃなさそうだし---。
「サボっとらんで、仕事せぃ。」
はぁ?ちゃんと仕事してますよ~、今日も残業してきたし---。
「違う。」
叩くなよ、おっさん。
「儂が何者か、知っとるだろ。トボケるな。」
あ、そりゃまあね---閻魔大王さんのお友達。
「人手不足なんじゃ。」
「何が?」
「上がってないのが、多すぎる。」
御霊さんすか---頑張ってね。お疲れさまです。
「手伝え。」
----無理っす。浮き世の稼業忙しいし---これから繁忙期だし---。スピ好きのお姉さん達に頼んでおくんなまし。
「担当、決まってるんだから、サボるでない。」
「はいぃ?」
おっさん、何、担当って?
「ま、すぐわかる。教えてやるから、ちゃんと仕事せぃ。」
えーー!!忙しいのに~、お話も書きたいのに~!!
「取材させてやるから、頑張れ。」
ちょっと待て、おっさん。
「ギャラは?」
「取るのか?」
おっさん、眉しかめてもダメ。タダ働きはお断りです。
「考えとく---ま、ボチボチでいいから、真面目にやれ。」
言って、おっさん消える。
今、昼間なんだけどな~。
止めてほしいわ、せっかくの休みに昼寝の邪魔せんでよね----。
てな訳で、小説もどきの備忘録。
せっかくなんで、かなり妖しい取材記録。
何が出てくるかは、蓋を開けてのお楽しみ---。
※ 小野 篁(おの の たかむら)※
平安時代初期の公卿・文人。 参議・小野岑守の長男。官位は従三位・参議。異名は野相公、野宰相、その反骨精神から野狂とも称された。小倉百人一首では参議篁(さんぎたかむら)。
昼は朝廷で官吏を、夜間は冥府において閻魔大王のもとで裁判の補佐をしていたという伝説が『江談抄』、『今昔物語集』、『元亨釈書』といった平安時代末期から鎌倉時代にかけての説話集に紹介され、これらを典拠にして後世の『本朝列仙伝』(田中玄順・編、1867年・刊)など多くの書籍で冥官小野篁が紹介されている。
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