引き篭りが勇者になったら冒険譚

猫3☆works リスッポ

第1話転生の時間です

この部屋には備え付けの風呂と便所がある、食事は扉に付いている小さな窓から毎日差し入れされる、ここに来てもう何年も俺はここから出たことがない。

窓のカーテンもその時から開けいていない、大体明るいのは苦手だ、外の空気のにおいも忘れてしまった。

でもそんな事は別に大した問題じゃない、ゲームがあれば生きていけるし、仲間はゲームの中に沢山いるし。

今日はダンジョン攻略で行き詰まって、うとうとしているとドアを叩く音で起こされた。

「うるせ〜!気が散る!ほっとけって言ってるだろうが」1階に聞こえる様に足を踏み鳴らして抗議した。

「大変なんだよ聡太、電気が止まったんだよ、これから皆んなで避難するから部屋から出ておいで。」

そういえば照明が消えネットも切断されてるし、ゲームups付きのpcと携帯ゲームのモニターもさっきと同じ画面絵柄のまま凍りついている。

「うるせ〜、さっさと電気つけろよババア、ゲーム出来ないだろうが!。」

「無駄よ母さん、何年も前に兄貴は腐って死んだのよ、部屋の外まで異臭がしてるわ、早く避難所にいきましょう。」

いつも煩い妹の小枝か、兄貴への尊敬の欠片もありゃしないダメ妹め。

「でもあれでも家族なんだよ、自分の子を見捨てるなんて。」

「生産しないものは生きるべからず、父さんもそう言ってるし、今日は気温45度超えるって天気予報で言ってたし、クーラー動かないからここに居たら母さんが死んじゃうよ、あんな奴の面倒なんか見ること無いわ、ほら行くよ。」

「ああ、私がちゃんとしなかったからこの子がこんな事に、ごめんよ聡太。」

俺はイラついた、泣き声まじりの母親の声なんて聞きたくない、あのイラつく泣き声が悪いんだ、俺は悪く無い。

「違うわ兄貴はもう子供じゃないよ、こうなったのは自己責任でしょ!母さんには責任ないよ、まあ部屋を引きこもれる様に改修しちゃったのは父さんの責任はあるけど。」

部屋の前からドタバタと足音が遠ざかって行った。

「死んじまえクソやろう。」俺は怒鳴ったが何も返事は無い。

怒りに我を忘れていると何時間過ぎたのか知らないが俺にも部屋の温度が上がっているのは分かった、もう昼に近いのか喉の渇きがひどい、水を飲もうとよろよろと風呂に行き蛇口を捻ったが一滴の水も出なかった、おまけにいつまで待っても今日の食事の差し入れもなかった。

部屋中に散乱するペットボトルを漁ったが空しかなかった。

「クソが。」空のボトルを蹴り飛ばしてドアに向かって罵声を浴びせる。

そうは言っても事態は好転しなかったので仕方がない、部屋からは出たくないが大事なゲームが動く様に電気を見ないと、ついでに冷蔵庫に飲み物があるはず、俺は数年ぶりに部屋から出て2階から台所のある1階に降りようとした。

だが部屋から出ること数秒、ここも暑いし足がもつれる、力が入らない、転げて一瞬で1階に着いた。

「ちきしょう右足を捻挫したみたいだ、誰か居ないのかよ!」

「へっ、まあ居ないのは分かるさ、言ってみただけさ。」

右足が動かずに椅子の間をずりずりと這いながら冷蔵庫を目指した、意外と遠い、20分もかけてやっと目的地に辿り着いて冷蔵庫を開けたが。

「う・・・。」

一体いつから電気が切れていたのか冷蔵庫の中は腐敗臭が満ちていた、と思う何故なら俺の部屋と同じ臭いがしたから。

「うが・。」

冷蔵庫には水というか飲用になるものは何も入っていない。

いや液体なら何でもいい、透明なら何とか、目についたペットボトルを手に取り一気に飲み込む。

「うげ。」

何だこれ、声が出ない、く、腐った酢?じゃ吐けば、あああ間違って気管に吸い込んでしまった。

苦しくて息ができない、意識が遠くなる。

いったい俺が何をしたって言うんだよ、遊んで暮らしていただけだ、人に迷惑かけてないのに。

気管が焼ける、呼吸が出来ない、あああああああ


意識がずるずると際限なく床に沈み始める、え?俺死んじゃうの?や、地獄に行くのはやだ、嫌だー。


気が付くと俺は白い部屋に居た、ええと、なんだって?なんか聞いたことがある様な、ここ病室、いやベットも無いから違いそうだし。

「やあ勇者くん気が付いたかな。」

「はあ。」俺は気合の入らない返事をした。

「ゆうしゃて何すか。つうかお前誰だよ、勝手に人んちにあがりこんでさ。」

「わしは神じゃ、それに此処は君の家では無いぞ?そんな事も見て分からないのか。」

「そんな事はどうでもいんだけど、俺。」

「まあいい、君を勇者として選びこれより転生させる。」

「ちょっ、やめてくれ、俺はそんなの頼んで無いし、俺の希望叶えるならゲームさせてくれ。」

「悪いが決定事項でもう変更出来ないんだよ、その代わり勇者としてのスキルはある程度叶えてあげよう、希望を言いたまえ。」

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