託宣④

【託宣】で現れたカードは、聖教会への叛逆を示唆するものだった!

僕が叛逆罪で問われるだけならまだしも、突如現れた領主と呼ばれた男は、アーリアの鏖を宣言する!


僕のせいで鏖なんてさせないし、そもそも領主あいつはいったい何者なんだ!?




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「【刀の領主】様の宣言だ!」

「征伐だ!」

「アーリア村を鏖にせよ!」


聖教会の衛士たちが、村人に向けて槍を構える。


まずい。このままではパニックだ。

マリーが村を離れてるいま、僕のせいでアーリア村を壊滅させることなんて、あってはいけない。

そもそも僕が《聖教会への叛逆このカード》を引いたのは事実だが、アーリア村は無関係なのだ。

僕のなかのすべてのルールが、この行いを許してはいけないといっている!


「待て!」


僕は考えるよりも先に叫んでいた。

領主も衛士も村人も、みなが僕の方をみた。

(どうする、どうしたら止められる―――!?)

咄嗟のことだったので、考えがまとまらない。焦りを悟らせまいとする思いが、さらに焦りを呼んだ。


「―――叛逆者か。よかろう」


【刀の領主】は、一歩前に出た。


「余も、ぬしに興味がないわけでもない。問答をかわすことを許す」

時間が稼げることは渡りに船だと思ったが、さすがは【刀の領主】と呼ばれる大物だ。

こうして立ち会っているだけで凄みと重圧を感じる。


「アーリアの村人は無関係だ。鏖は取り消してもらいたい」

「怪しい集団の支配下にあると報告を受けている。無関係ではなかろう」


―――!

カオス教団に支配されていたことが伝わっているのか…!


「カオス教団からは、僕が解放した。もう元の村に戻っている」

「叛逆者に解放されたとあれば、仮に事実であったとしても説得力には欠けるな」


―――だめだ。

いまの状況では、客観的に見て無実だと証明できる材料がない。


「領主様!」

僕と領主の間に、司祭が割り込んだ。

「困ります!わたしの直属の衛士を使い、鏖だなどと―――!」

司祭の苦言は言い終わる前に、【刀の領主】にその体ごと切って捨てられた。

「余は、この叛逆者と問答をかわすと言ったはず」

鈍く光る刀に、赤い血が伝う。

斬られた司祭の体は、その場でぐしゃりと崩れ落ちた。


人を斬ることに躊躇がない。

冗談ではすまない。この男は本気で鏖をやるだろう。

だが、それは止めなければならない。

しかし、言葉ではそれを止めることができない。

僕がこの鏖を止めるためにできること。

唯一残された手段。


僕はゆっくりと【バインダー】を取り出し、開く。

「―――そう。それしかなかろうよ」

【刀の領主】は不敵に笑った。

おそらく、これも彼の思った通りの展開なのだろう。

その思惑を超えようと思えば、やはり、勝つしかないのだ。

村長さん。ケビンさん。ハンナさん。

出会って数日とはいえ、親しくなったアーリアの村の人たちを守るためには、勝つしかないのだ。


「さあ、【刀の領主】たる余―――レオンハルトを前に、宣言してみせよ!」


避けられない戦い。負けられない戦い。勝つしかない戦い。

覚悟は決めた。やるしかないのだ。

重圧をはね除けるように僕は叫んだ。


「【刀の領主】、あなたに【決闘ドゥエル】を申し込む!」

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