第64話「窮鼠流星を落とす 2」

「できる、できる……、行くよ!」


 自分に言い聞かせるように奮起したマリーはステッキを掲げる。輝く青藍の宝石から光の粒子は波状に漂い、とある一点で収束する。光の粒は1つの球へと変貌し、砲弾として発射された。

 放たれた光弾は見事に巨石を破壊した。巨石は空中で瓦礫を撒き散らしながら粉々になる。


「よし、次を……」

「いや、これ以上近くで破壊すると二次被害がでかくなる。逃げるぞ」


 鼻息を荒くしてステッキを掲げたマリーだったが、リュージーンがそれを制止した。

 これ以上引き付けると残骸を被弾する可能性が高すぎる。


「皆伏せろ!」


 道周が檄を飛ばすが、それとて気休め程度でしかない。被弾し負傷する可能性は十分にある。

 すでに巨石が宙から次々と落下し地面を抉っている。耳を塞ぎたくなるような悲鳴に包まれ、散り散りになった鋭利な破片が住民の胸を刺す。

 だが本命の巨石が流星の如く大地を砕くことはなかった。

 なんと、巨石は1つ丸ごと受け止められていたのだ。


「――――シャーロット!?」


 巨石を両掌で受け止め、その怪腕をもって巨石を投げおおせた。

 背中に羨望の眼差しを受けて振り向いたシャーロットだったが、その額にあるはずの鬼族の証である双角は半ばで手折られ、だくだくと止めどない血が流れていた。

 シャーロットの身体は「百鬼夜行」との戦いですでに困憊している。巨石を受け止めたことで体力の底が付いたようで、力なく膝から崩れ落ちた。

 目の前でうつ伏せたシャーロットに、ソフィが慌てて手を差し伸ばす。


「シャーロット!?」

「だ、大丈夫です、自分で立てます。それよりもソフィはセーネを」

「「「WOooooOOO!!」」」


 巨石が巻き上げた砂塵と瓦礫の山を踏破して、100を超える狂戦士「百鬼夜行」たちが雄叫びを上げた。

 シャーロットに「百鬼夜行」と力比べをする体力はもうない。

 ソフィとて確かな実力者ではあるが、「百鬼夜行」を相手に大立ち回りをするのは不得手である。

 マリーとて魔法を繰り出し応戦は可能であるが、打倒するには火力が足りないのは実証済みである。

 リュージーンなど論外で戦力外だ。


 なら誰がこの場を諫められるか。


 答えは決まっている。


「リュージーン、セーネを任せた」


 ぶっきらぼうに背負っていた小躯をパスすると、道周はブレスレッドから武装を展開した。

 右腕に握られた魔剣は燃え盛る炎を白銀の剣身で跳ね返し、もう片方の手には爛々と輝きを放つ銀色のスピアが握られていた。


「こいつらは俺が引き付ける。早くエルドレイクから脱出しろ!」


 道周は切迫した声で背後に叫ぶ。

 その覚悟を身に受けたソフィは意を決して首肯し、マリーとシャーロットの手を引いた。

 しかしマリーはそれを是としない。


「ミッチーも逃げるよ! 1人じゃ無理」

「連れて行ってくれソフィ! 俺が!」


 泣き叫ぶマリーは燃える都市の中に消えていく道周の背中に叫び続けた。

 しかしその叫びが道周の意志を動かすことはなく、1人の魔剣使いは常夜都市の影に消える。

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