第22話「放つは魔剣、迎えるは黒剣 4」
意識外で弾ける爆音に全員が思わず振り向いた。
そこには天へ昇る黒煙と、燃え盛る火の手がちらつく。
「と、突然爆発が!」
「何が起こった!?」
騒然とする守衛たちは一斉に駆け寄り鎮火に当たる。右往左往と走り回りバケツリレーを行う。
守衛たちがわらわらと群がる中で火の勢いは収まる。
テンバーはただ1人、人手が分散する様子を見て怪しげな意図を感じていた。
テンバーが散った戦力の再配置を指示しようと息を吸い込む。同時に頭の中で戦況の俯瞰図を展開し、陣形を張り巡らせていた。
「持ち場に」
「かっ--------!」
くべた水を撒き散らす守衛の喉元を、鋭い痛みが走り去った。
違和感を抱く守衛だったが時すでに遅し。手に持ったステッキは滑り落ち、風切り声を上げながら崩れ落ちた。
1人の異変は間隙を置かずに伝播し、銀色の鎌鼬が守衛たちの間を器用にすり抜ける。
「あっ!」
「うっ!」
「え!?」
それぞれが短く言葉を切り、首の回りから勢いよく血飛沫をぶち上げて倒れ行く。
その有り様を見た道周は、見慣れた短剣と揺れる銀髪に気を留めた。
「ソフィ!?」
「はいな!
諜報・跳躍・暗躍・暗殺お任せあれ。ソフィ・ハンナ、ミチチカを置いて行くなどできずに舞い戻って来た次第です!」
小さく敬礼ポーズを取ったソフィは意気揚々と口上を述べる。すかさず迫る守衛の剣を身軽に避けると、慣れた動きで背中に回り首を掻き切った。
「逃げろって言ったのに戻って来やがって。何をしてる!?」
満身創痍の道周は荒くなる語調を自覚しながらなお、怒鳴り付けるようにソフィへ叫んだ。
ソフィは手早く辺りの守衛を処理し。道周とは付かず離れずの距離で会話を続ける。
「そう言われても、関所の門はどこも閉ざされてしまっているのです。山道以外の道は切り立った断崖絶壁、逃れるのは不可能と判断しました」
「だからって出てくることはないだろ。隠れてやり過ごす手だって」
「それを許すとお思いですか?」
「ぐ……」
道周は言葉を詰まらせた。
ソフィの言葉の意味することは、マリーを連れての門の強行突破、断崖絶壁の下山は不可能だということだ。
ならばマリーも関所内のどこかに潜んでいる。
そして隠れるマリーが道周を見捨てるはずがない。道周の窮地を救うべくソフィに頼ったということを道周は容易に想像できた。
「やはり異世界人の仲間がいたか……。
銀髪のエルフの相手は特務部隊が担おう!
守衛たちは一時撤退、関所内に他の仲間がいないか捜索に当たれ!」
テンバーは怯むでもなく指揮を執る。
覇気の満ちたしきにより、混乱していた魔王軍は落ち着きを取り戻しつつある。
そしてテンバーの指揮を聞いた道周に別の衝撃が走った。。
もしマリーが守衛たちに見つかったならば……。
不安が道周の頭を満たし心を奪った。
混乱の渦に囚われた道周はここ一番の窮地に失策した。
「すぐに撤退だソフィ! 俺もリュージーンを連れて逃げるから、ソフィも」
「逃がすか異世界人!」
「っ!」
振り向く道周に迫る黒剣。テンバーは道周を諦めてはいなかった。
「くっ!」
道周は咄嗟に魔剣で攻撃を防御したが、続くテンバーの蹴りは諸に直撃する。
「ぁ……っ!」
枯れた空気を吐き出しながら、道周は勢いよく蹴り飛ばされる。
関所の外壁に叩き付けられ停止した道周は一瞬ではあるが意識が途切れた。
「しっかりしろ!」
「くっ…………。
…………あぁ」
リュージーンが道周を抱き上げ意識を依り戻す。リュージーンの呼び掛けに弱々しく反応する道周の声は頼りない。
その間にもテンバーは炎熱を操り、犬歯を剥き出して火球を生成する。
「容赦はしない。リュージーンごと念入りに燃やし尽くしてやる」
テンバーが頭を覆うほどの大きく渾身の火球を形成した。この火炎弾の特性は「爆発」だ。少しでも衝撃が加われば、半径十数メートルの爆発が発生する。
「うぅぅ……」
ぶつ切りになった意識から回復できていない道周に、火炎弾を防ぐ手立ててはなかった。
「逃げてくださいミチチカ……! ミチチカ!?」
必死に救出へ向かおうとするソフィだが、応戦する特務部隊の竜人たちに阻まれ思うように動けない。
あの手この手で短剣と魔法を駆使するソフィだが、どうやっても間に合わない。
「くそっ! ここまでかよ糞親父!」
最期を悟ったリュージーンが万感の思いで憤怒を叫ぶ。
テンバーの火炎弾が完成した。
直径150センチメートルの巨大火炎弾がテンバーの双掌によって掲げられた。
「終わった」
誰もが諦念の中で目を閉じたとき、その声は木霊する。
「ちょっっっと……、まっっっ! たぁっ!!」
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