第5話 5

 

 なんとか、泣き止んだあとメリッサは、話し始めた。


「あのね・・・私、賢者になるって言ったでしょ?」


「え?えぇ・・・そうですね。それが今回、旅に出た目的?ですからね」


「ちゃんとね、理由があるんだよ。私ね・・・見付けられると思ったの」


「?何をですか?」


「・・・・・勇者を」


「それは・・・・?」


「私ね、ずっと後になってからとっても後悔したの。忘れてたなんて、ウソ。彼が居なくなって、心にぽっかり穴が空いた感じになったの。だって、私の所には滅多に人が来なかった。そりゃ、魔女仲間とかには会ったりもするけど、彼みたいに頻繁ひんぱんには会いに来てくれないから、彼が来てくれるのが楽しみになってたの・・・で、ある日アルト言ったでしょ?『一緒に旅に付いてきて欲しい』って」


「言いましたね。貴女は『面倒だからイヤ』と断りましたけど」


「本当はね、一緒に行きたかったんだ。でも、怖くて行けなかった。私は魔女で『賢者』なんて呼ばれる存在じゃなかったから、他人にどう思われるのか怖かったの。また、さげすまれたら怖かったから。最後に会いに来てくれてから、随分と時間が経ったけど、また会いに来てくれるって思ってたの。でも、『魔王を討伐した』ってことは聞いていたから、もしかして会いに来なくなるかも・・・とも思ってた。で、やっぱりいつまで経っても会いに来てくれなかったから、もう役目は終わったんだって思った」


「じゃあ、メリッサは僕に会いたかったの?」


「そうだよ・・・ずっと会いたかった。でも意気地なしな私は結局、自分から会いに行けなくて、気付いたら彼が生きていられる時間はとうに経っていた。そうして後悔し続けてたの・・・そしたらアルトがある日来たの。『弟子にしてくれ』って言われた時はびっくりした」


「フフッ!確かにあの時のメリッサは、目が飛び出るかと思いました」


「飛び出ないもん!!と、とにかく・・・アルトが来てくれて、ぽっかり空いた胸の内が埋まっていったんだよ。でもね、そしたらやっぱり彼に会いに行けなかった事が心残りになったの。それで、考えたんだ『真理に今よりも近づけたら、彼を見つけられるかも』って、だから賢者ってなんだろ?って思って賢者になれる全ての事を試そうと思ったんだ。それにアルトがいたら外に出ても怖くないだろうって思って」


「それで、『賢者になる』ですか・・・・まぁ既に賢者だったのですが、この旅に出なかったら僕はたぶん一生、メリッサに自分が生まれ変わりだった事も、貴女を愛してる事も伝えなかったでしょうね」


「そうだね!だから、私の『賢者になる』って言葉と行動は無駄じゃなかった!だからね、アルト・・・これからも私の側に居てね。私もね、アルトが大好きなの」


 そう言って、僕達はだいぶ遠回りをしたけれど、お互いの心を知ってこれからも側に居る事を誓った。



 *  *  *  *



「師匠!!なんでこんな所に、脱ぎ捨てるんですか?!ちゃんと洗濯籠せんたくかごに入れて下さいって何度も言ってますよね?!」


「・・・・ごめんなさい・・・ワザとじゃないの!!その・・・なんて言うか・・・勝手に・・・」


「勝手に・・・なんですか?勝手に洗濯物が、籠から出たりはしませんよね?師匠」


「うゔー・・・もう!!アルト!師匠じゃない!メリッサって呼んで!!それから、洗濯物はごめんなさい!!!」


「はいはい、分かりましたよメリッサ」


 そう言って逆ギレしたメリッサの、額にキスを落とす。

「ひゃっ・・・!」と言って顔を真っ赤にしたメリッサは、脱兎だっとのごとく逃げて行った。


 あの告白から数か月が経ち、僕達は今まで慣れ親しんだ家に戻ってきた。

 そして僕達には変化が。


 僕は『師匠』から彼女を『メリッサ』と名前で呼ぶようになったし、さっきみたいに愛情表現するようにした。

 なんせ300年分の片思いが報われたのだ。

 これからは、めいっぱい甘やかして、愛して、他に見向きもさせない。


 何故なら、あの旅で彼女は自信を付けたので、今では二人でちょこちょこ出かける様になった。

 冒険者ギルドのSランクなんて、そうそう居るものでもないので、国からの依頼も舞い込んでくる。

 それに彼女の知識を見込んで、学院で教鞭きょうべんを取って欲しいなんて話も来ている。


 冗談じゃない。

 メリッサはポヤポヤしたおバカな天然娘だが、見目引く容姿だ。

 それに釣られた男どもに取られてたまるか!


 これからの僕は、彼女へ愛を注ぐのと、虫を叩きのめすのに忙しくなりそうだ・・・・。

 それでも、彼女と一緒に居られる事が何よりもの喜びだけどね。


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魔導士なのに賢者になりたいとか言い出したんですが、バカなんですか? 月城 紅 @tukisirokou

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