第3話 3


 そうして、僕と師匠の冒険者生活が始まった。

 ・・・・そして、終わろうとしている。


 それもその筈、二人でガンガン依頼をこなし、どんどんランクを上げたからだ。

 ついさっきSランクに到達した。

 今では『気鋭の新生』とか『叡智えいちの賢者の生まれ変わり』とか呼ばれてる。


 うん。当初の目標である『賢者』と呼ばれることに成功したのだ。


「師匠。ちまたでは『叡智の賢者』とかって呼ばれてますよ?目標達成ですね」


「いや・・・そうなんだけどさ、なんて言うか・・・・思ってたのと違う」


 不服そうな師匠を見つつも


「本当にお二人共凄いですね!!こんな短期間で、Sランクになるなんて!史上初ですよ!まるで勇者討伐に知恵を貸した『賢者・メリッサ様』のようですね!!」


 興奮したように受付カウンターの女性が言う。

 それもそうだ・・・実際に勇者に知恵を貸したのは、僕の隣にいる師匠本人だのだから。


 それを聞いた師匠は「えぇ・・・」と言いながら僕を見る。

 どうやら知らなかったようだ。

 取り敢えず、お昼にしましょうと師匠と共に、冒険者ギルドを後にした。



 *  *  *  *



「ねぇ、アルト知ってた?さっきの話」


「あぁ、『賢者・メリッサ様』の話ですか?知ってましたよ。と言いますか、この大陸で知らない人は居ないでしょう。英雄譚えいゆうたんに出てくる有名人ですよ。知らないのは師匠ぐらいだと思いますよ」


 納得がいかないといった顔で、昼食のチーズとチキンが挟んであるバケットに被りついている。

 勢いよく食べるので、喉に詰まらせないと良いのだが・・・。

 見ているこっちがハラハラする・・・。


「それで?この後、どうします?」


「ん~・・・そうだなぁ~大陸で有名人なら、魔族領は?あっちなら悪者とかになってるかな?それなら向うで知名度上げようよ!」


 さも、いい事思いついた!と言わんばかりに言ってくる師匠。

 現在の魔族はどうか知らないが、魔族内でも『賢者』として知名度があるのを僕は知っているが、言わないでおこう。

 ここは夢見る師匠に付き合う事にしよう。

 これからもずっと。そうする事が叶ったのだから。


 それから僕達は直ぐに、魔族領へと向かった。

 人の領域と魔族の領域とを阻むのは、航海が難しい海だ。

 勇者はこの海を渡る時も、『賢者・メリッサ』に助言を求めた。


 他には、魔法の基礎や応用。それに薬草学、あらゆる面で助言や教えを請うた。

 勇者もいっそのこと旅に同行してと頼んだが、『面倒だから行きたくない』と言っていた。

 大変マイペースな人なのだ、師匠は。



 *  *  *  *



 僕達は何の問題もなく、魔族領に入る事が出来た。

 現在は魔族と人間と言った感じで、前みたいにいがみ合っても居ないので、そこそこ交流がある。


 魔族からしたら、人間がもたらす嗜好品しこうひん等は好評で、人間からしたら魔族がもたらす魔法についての造形や、知識については喉から手が出る程欲しいものだ。

 つまりいがみ合っているより、手を取り合った方が得だね!ってことだ。


 魔族領でも勿論、魔物が出る。

 つまり、こちらにも冒険者ギルドが設立されているのだ。

 昔なら考えられない事だが、いつしかそれが当たり前になる。

 時間とはそう言った事の積み重ねだ。


「それで師匠、今度はどうしましょうか?」


 再び僕は師匠に質問した。

 何故なら、こちらの冒険者ギルドでも既に『賢者メリッサ様』の再来だ!とか言われてる。


 それはそうだ。

 冒険者ギルドは組織だっているのだか、冒険者カードを見れば一目瞭然だし一気にSランクまで上り詰めた僕達の噂は既に広まっていた。

 そして魔族領でも『賢者』と認識されたので、目標達成だ。


「アルトぉ~おかしくない?ここ魔族領だよ?普通、魔王を倒す勇者に知恵を貸した賢者なんて憎まれない?それが何で英雄みたいになってるの?」


「言いたいことは分かりますが、勇者のおかげですよ」


「どう言うこと?」


 心底、不思議そうな師匠に、僕は順を追って説明した。


「いいですか?師匠。まず勇者は魔王を倒しましたよね?」


「うん、そうだね」


「次に魔王を倒した勇者は国に戻り、英雄になりました」


「うん、倒して凱旋がいせんしたなら英雄になるよね」


「その後、勇者が国の実権を握るのではないか?と危惧した国王が、勇者に刺客を放ちました」


「酷い話だよね。魔族に苦しむ人々を助けたのに」


「そうですね、それでそんな事をする国王と国に愛想をつかした勇者は、魔王に転職しました」


「うんうん、勇者も転職したくなるよね」


「転職した勇者は魔王にはなりましたが、賢者に教えられた知識や勇者として培った力を、今度は魔族の為に使い、魔族の発展に貢献したんです」


「へぇ~そうなんだ。あれ?でもそんな話、今まで聞いた事あったっけ?」


 森にあった家を出て、短い時間ではあるが今まで聞いた英雄譚や、魔族領で聞いた転職した魔王の話を一生懸命思い出す師匠。


 気付いてくれましたか?師匠。

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