魔導士なのに賢者になりたいとか言い出したんですが、バカなんですか?

月城 紅

第1話 1


「アルト!!私、今日から賢者になる!!」


 そう言って僕の師匠であるメリッサが叫んできた。


「師匠、何度も言ってますよね?扉は静かに開閉して下さいって」


「うっ・・・ごめんなさい・・・じゃなくて!!」


「なんですか?」


「・・・そんな怖い顔しないで・・・・本当に悪かったと思ってるから」


「それなら構いませんが・・・で?なんでしたっけ?賢者になりたいって聞こえましたが?」


「そう!賢者になるの!」


「ちなみに聞きますが、『賢者』がどう言った職種か解ってますか?」


「えっ?賢者って叡智を称えた存在でしょ?」


「間違いではないですが・・・」


 僕ははぁ…とため息をついた。

 付きたくなったんじゃなくて、実際についた。


 なぜかと言えば、師匠は魔導師なんだ。

 正確には、『魔女で魔導師』になる。


 何が違うかって言うと、『魔女』はまじないや薬、薬草学に長けた存在になる。

 次に『魔導師』だがこちらは、魔術、呪術、幻術等を修めた者になる。

 そして魔女・魔法使いと言われる存在は総じて長寿だ。


 師匠も既に千歳を越えている。

 そう、魔女・魔法使いと言われる人達は人の姿をした人外だ。


 そんな、膨大な知識を修めてる師匠は『賢者』と言っても過言じゃない。

 寧ろ、賢者と呼ばれる存在よりも賢者だ。


 が、師匠は『賢者』になりたいとか言い始めた。

 バカなんだろうか??


 前から専門的なこと以外はバカだとは思っていたが・・・まさかここまでなんて思ってなかった。

 これならまだ料理人になりたい!とか言い出した方がましだ。


 因みに、師匠は衣食住の衣以外はてんでダメだ。

 一人で生活出来ない。ほっておけば、ここは腐海になるだろう。

 てか、僕が来るまで腐海だった・・・。

 うぅっ!思い出しただけで鳥肌が・・・・・。


 まぁそれは置いておいて、先の言葉の通り師匠は賢者になりたいらしい。


「それで、賢者になりたい師匠は賢者になるつもりですか?」


 まぁ最もな事を言う。

 どうするつもりなのか?


「今、私って魔女で魔導士なわけでしょ?だからね、錬金術を極める事にしたの!」


「因みに何で錬金術になるんですか?」


「え?錬金術って真理に近いでしょ?理を理解することは賢者の必須科目だと思うの!」


「まぁ・・・言いたいことはなんとなく分かりますが、十分今でも理に近い所に居るじゃないですか。第一、錬金術って何かを生み出すことに長けているんですよ?ちゃんとした分量を量ったり、混ぜたりするんですよ?料理が出来ない師匠には致命的だと思うんですけど?」


「うっ・・・・そうか・・・錬金術って料理に似てる所があった・・・・」


 と、師匠と僕は言っているが、薬学も量ったり混ぜたりする。コレは内緒だ。

 気が付かないままならそれに越したことはない。面倒だから。


 それでもまだ諦め切れないのか、未だにうんうん唸っている師匠を見つめる。

 本当にこの人は昔から変わらない。

 そう、昔から。


「はっ!!!そうだ!賢者って周知から認められるには、それなりの功績を残せばいいよね!魔導士が賢者を兼任してた時代があったわけだし!」


 ・・・・なんだか話がイヤな方向に向かって行く。


「何らかの功績っていえば、魔王退治とかだよね!よし!魔王を倒そう!」


「師匠!話が飛躍過ぎます!!第一、魔王は随分と前に滅ぼされてます!」


「あれ?そうだっけ?でも、その後直ぐにまた魔王が現れたよね?」


「まぁ・・・そうですね。正確には、『魔王を倒した勇者が魔王に転職』したんですけど」


「なんで?」


「人間の心理と言ったものでしょうね。魔王を倒した勇者はよりも強いわけですよ。表向きは英雄と呼ばれますけど、国王以下国民まで次に支配するのは勇者じゃないか?って思ったんでしょ。今度は勇者に刺客が向けられたわけですから、勇者なんてやってられないでしょう。それに勇者も人間ですからもう既にこの世にはいません。因みに、勇者に乞われてちょこちょこ助言してましたよね?師匠」


「・・・・そうだっけ?随分前の事だから・・・記憶にございません」


 そうだと思いました・・・。

 だってその事を僕が知っているのを不思議がらないほどですから・・・。


「じゃぁ現在、魔王は不在?」


「そうですね」


「でも、魔物はいるよね?それに魔族も」


「居ますね、現在はお互いの領土を不可侵とすることで、魔族との争いはありません。魔物は別ですけど」


「じゃあ魔物退治をしよう!ついでに世界を見て回ろうよ!ここ最近は家に引きこもってたし」


「その提案に乗るのは些か不満ではありますが、脱・引きこもりには賛成です」


「なら、決定だ!まずは手始めに冒険者になろう!」


 こうして、僕と師匠は住み慣れた家を離れて冒険者をすることになった。

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