『アルバイト』 後編
採用面接は、あっけないくらいにあっさりと終わり、みごと、『採用』となりました。
まあ、もともと、ひとり暮らしで、気ままなものですから、自宅はほっといて、住み込みということで、職場に入りました。
しかし、このお仕事というものが、かなり常識はずれでありましたのです。
***** 🌇 *****
その夕方。
指定された時間に、ぼくは中央公園に行きました。
🏞
すると、天使さんが現れたのです。
平等院の壁画と、絵葉書で見た、西洋の壁画の天使さんを足して、2分割したような感じです。
白いひらひらのひだのついた服。
白いタイツ。
天使の象徴のような羽。
頭の輪っか。 👼
白い手袋。
赤いネクタイ? 👔
むむむ・・・・・あやしい。
「あ、あなた、ぼくは、面接でお会いした、採用担当兼労務担当の、天使のカバヤクです。」
「はああ・・・・お姿が随分違うので~~~。」
「ははは。これが、制服です。あれは、面接用のスーツですから。さあ、職場に御案内いたしましょう。」
「あの、大丈夫ですか?」
ぼくは、ちょっと、怖くなりました。
「殺されたりしませんか?」
「このお仕事就労中には、そのようなことは、ございません。ご安心を。むしろ、仕事が済むまで空にいる間は、こちらが安全を保障いたします。労災などが起こる余地はございません。はい。天国が保証いたします。」
「はあ・・・・お金は?」
「終了後すぐ口座振り込みいたします。なお、支度金は、職場に着いたら、すぐ天国銀行から振り込みます。ただし、海外からの振り込みとなります。スマホでご確認もいただけます。はい。」
「はあ。わかりました。」
「では、このゴンドラにどうぞ、お乗りください。寮までお送りいたします。作業はあすからです。」
ぼくは、ゴンドラで、お空に上がったのです。
すると、やがて、箱のようなものが、見えて来ました。
それが、寮だったのです。 🏨
******** ⛈ ********
寮は、明らかにビジネスホテルの、並シングルタイプ位の部屋ですが、まあ、悪くありません。
「管理や清掃は、こちらで致します。あなたは住むだけ。
テレビでは、作業が進んで、位置が高くなるほど、たくさんのチャンネルが映ります。お楽しみに。海外局が出る場合もありますよ。」
「はあ・・・・・・食事は?」
「差し入れいたします。あ、地上の『ばくだんマート』のお弁当を、ぼくが買ってきて差し入れします。お好みのものがあれば、言ってください。お酒は?」
「野菜を多くしたいのですが。お酒は飲みません。」 🍱
「なるほど。面接の通りですな。ふんふん。では、代わりに野菜サラダを付けましょう。食事代は、求人通りに、こちら持ちです。」 🥗
という感じです。
ぼくは、お風呂を済ませ、カバヤクさんが買ってきた、サケ野菜弁当を食べ、ちょっとテレビを見て、早めに就寝しました。
支度金は、きちんと、振り込まれておりました。
🐟? 🍅 🍆 🥒
************ ************
次の朝、お空の上で、ぼくはカバヤクさんから作業の要領を教わりました。
これが、まあ、じつに簡単なのです。
👌
それにしても、なんという素晴らしい光景でしょうか。
良いお天気であります。
真っ青な空間に、ぼくひとり。
大地が広々と横たわります。
ぼくは、作業場所の光景は、遮断しないことにしたのです。
⛅ 🌞 🌩
「現在、高度3000メートルです。」
「あ、飛行機とか、ぶつかりませんか? ミサイル、来ませんか?」
「大丈夫。ここは、飛行航路ではありませんし、次元が少しだけずれているので、生き物からは見えないし、たとえ何かがぶつかってきても、衝突はしません。あなた、天国の階段に、飛行機がぶつかったニュース、見たことがありますか?」
「いやあ。ないですねぇ。ははははは・・・」
「はははははははは!」 🐥
************ ************
みなさん。
こんなの、見たことありますか?
天から、階段の一段が、ふわふわと降りて来ます。
そうして、手すりが両脇に降りてくるのです。
ぼくは、それを『かちっ!』っと、組合わせるだけです。
おまけに、これが、まるで天使の羽のように軽いのです。(持ったことないですが。)
けっこう、大きなものなのに!
重力とか、まったく、無視している感じなのです。
さすが、天国。
この作業を、延々と続けるのです。
いったい、どれだけやらなくてはならないのか、目安が立ちません。
そこで、一日やった後、カバヤクさんに、こう言いました。
「進捗度が分からないのですが。」
「ああ、そうですな。なるほど、やる気が出ませんな。じゃあ、こうしましょう。ほら。」
お空に電光掲示板が降りて来ました。
『5%』
と、表示されております。
「はあ・・・・・なんだか、先が長いな。一日で5%か。二日で10%。ないほど。ないほど。」
「良くなりましたか?」
「ええ。とても。」
「それは良かった。じゃあ、また明日。」
************ 🌙 ************ ✴️
ここから見るお星さまは、美しい。
でも、天国と言うのは、どうやら、あそこより近いんだろうなあ。
お空は、タイムマシンみたいなものだ。
どのお星さまの姿も、違った時間の姿だからなあ。
ぼくは、なんで、ここに、いるんだろう?
************ ☆彡 ************
この、繰り返しの毎日です。
不思議なことに、お天気は崩れません。
だから、中止や、中断も、ありませんでした。
ただ、軽いとはいえ、ぼくはあまり若くありませんでした。
55%くらいまで行ったときに、持病の肩こりが、出てきたのです。
かなり、痛いのです。
そろそろ、疲れが出たようです。
カバヤクさんは言います。
『焦らなくていいです。神様は、急がないのです。体がきつかったら、有休も取れますよ。10日まで、可能です。時間単位の取得もできますよ。痛み止め、買ってきましょうか?今日は、半日やすみましょうよ。』
『はい………自分で買いに行くのは?』
『あまり、お薦めしません。時間の無駄ですよね。』
『はあ………では、『ウンタメシンZ』を、お願いします。あれが、よく効きますから。』
ぼくは、ベッドに、横になりました。
良い天使さんだ。
************ ************
そうして、カバヤクさんに励まされながら、ついに98%までゆきました。
今日、間もなく完成になります。
「いやあ。長かったような、そうでもなかったような。」
ぼくは、口笛吹くような感じで、残りの階段を積み上げてゆきました。
そうして、ついに、あと一段になったのです。
「いやあ、やりましたね。素晴らしい。よく、頑張られましたね。大したものです。さあ、最後の一段です。どうぞ!」
「はあ。あの、天国って、直ぐ先ですか? 見えてないけど。」
実は、何も見えなかったのです。
いつもの通りの青空だけです。
「はい。生きてる人には見えませんが、すぐ、そこにあります。最後の段が済んだら、あなたにも見えるでしょう。そうして、天国に入城するのです。はい、どうぞ!ぱんぱかぱ~~~~~~ん。」
あたり一面に、ラッパの音が響き渡りました。
小さな天使さんたちが、ぼくの周囲を、まるで電子のようにランダムに踊り廻っています。
「え、ええ? ぼくは、天国には、まだ入らないですよ。だって、まだ、やることがあるから。バイト代も、そのために使うんですし。」
「求人条件にあったでしょう。『死後天国への入場資格が与えられます。』あなたは、完成したら、死んで、天国に入るのです。」
「うっそお~~~~~~~!!」
「それに、ほら。待ち切れない亡者たちが、たくさん、上がってきましたよ。あの中を自分で降りてゆくことはできませんよ。」
「ゴンドラは?」
「あれは、上り専用です。さあ、最後の段を積んだら契約終了。目出度く天国入りです。」
『あああ、カバヤク、あほだなあ。ここで、それを言っちゃあだめだよ。あと一段なのに。いつも、最後でドジるんだ。さあ、ぼくらで手伝おう。』
小さな天使たちが、そう、ささやきながら、ぼくの身体を、勝手に動かそうとしました。
「うわあ。小さいけど、すごい力だ。逆らえない。わわわあ、積んでしまうじゃないですかあ!!」
********** **********
下からは、どんどんと、亡くなった人たちが上がってくるのです。
ものすごい数でした。
「この階段がしばらく使えなかったからね、大量に溜まってるんですよ。」
天使さんたちが言います。
「お、おあわ~~~~、たいへんだ。ぼ、ぼくの降りる隙間が、まったくないじゃないですかあ!」
カバヤクさんが、また、しらっと言います。
「いやいやあ。大丈夫です。早く最後の段積んでください。そうすれば、みごと完成ですよ。あなたは、天国に入れるのです。」
「いやああ。ちょっとまってください。それって、求人条件に反する。会社に言いつけますよ!」
「はい、だ・か・ら、あの求人条件は、またく、そのままですよ。なにも、おかしくない。間違ってない。」
「いやややああ。それは、違うでしょう。『すんですぐ』、なんて、書いてなかた、ですよ!」
『いやあ、あれは、そういう意味なんですよ。はあ・・・・まあ、しょうがないなあ。実は、天使にも、ノルマがあるのです。ここは、ひとつ、稼がせてください。』
『あんたの、策略か!』
『策略だなんて。違います。計画です。さあ、最後、積んでくださいね。ほらほら、下には、おっしゃるように、もう、降りられませんよ。あの、亡者の中を通り抜けるのは、人には無理です。突き落とされてしまいますから。そのあと、地上では、潰れた謎の遺体になりますよ。しかも、地獄行きだ。あきらめましょう。さ、直ぐです。あと、一段なんだから。』
『ぎぎぎ〰️〰️〰️〰️』
と、天の空間に、大きな扉が開きました。
『あわわわわわわわわ。たしけて〰️〰️〰️〰️。まだ、やりたいことが、済んでない。書きかけのお話しがあるんです。』
小さな天使さんたちが、階段を支え、さらに僕の身体を動かそうとしています。
カバヤクさんが言いました。
『人間、諦めが肝心さ。さあ、こいつら、まだ、力が弱いな。ほら、ぼくも、助けてあげましょう。よいしょ! さあ、あと、かちっと、やるだけです。あなたは、天国に入り、幸せ😃💕に、包まれます。浮き世のことなんか、すぐ、忘れてしまいますよ。さあ!早く。ほら、亡者達が来ますよ。あなたは、まだ、生きているから、邪魔者だ。ここにまで来たら、すぐに、突き落とされますよ。でも、入れば、もう、仲間だ。』
もう、直ぐ下まで、亡者さんたちが、来ていました。
************ ************
『ばりばりばり、どっか~~~~~~~~~ん!!!!!』
大きな稲光と、空間全体を揺るがすような、音が響きました。
カバヤクさんも、小さな天使さんたちも、すっかり、いなくなりました。
ぼくは、階段の横に、ぼんやりと、寮に置いていた自分のかばんを持って、立っておりました。
目の前で、亡者の方々が、どんどんと、天国に入城してゆきます。
ものすごい数です。
それはもう、信じがたい、荘厳な光景でした。
すると、天国から、たいへん美しい女神様が、降りて来たのでした。
『ヘレナと、申します。このたびは、カバヤクたちが、ご迷惑をおかけいたしました。お詫び申しあげます。ちょっと、目を離すと、こうですから。彼らには、1万年ほど、地獄生活をしてもらいます。他に被害がないかどうかも、確実に調べます。また、このようなことが二度とないように、以降、管理を厳重にいたします。今回は、お給料のほかに、違約金と慰謝料をお給料の10倍額お支払いいたします。さらに、あなたの作品の出版がなされるように、手配いたしましょう。また、将来の天国入場権は、そのまま、確かに、お約束いたします。ヘレナの、名に懸けて。では、地上まで、下ろしてさしあげましょう。」
************ ************
ぼくは、実際に、何事もなかった、中央公園に降りていました。
ただ、公園のデジタル時計の日付を見れば、どうやら時間は、それなりに、経過しておりました。
まるで夢見るように、ぼくは、『ばくだんマート』の牛肉弁当と、『死活薬局』のウンタメシンZを買って、両親が残してくれた、自宅に帰りました。
あの、派遣会社の情報は、ネットから消えていました。
📚 ************ ************ 📚
おしまい
『小さなお話し』その5 やましん(テンパー) @yamashin-2
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