悪役王女は破滅したくないのでのんびり過ごすことにした~私に構わないでヒロインさんの所に行って下さい~
桜乃春妃
第一部
No.1 OLは転生する
「すいませんっ、すいません!」
「謝ればいいってもんじゃないでしょ??
ったく、ただでさえ使えねーのにさぁ。こんな事も出来ないわけ?
じゃ、俺は昼行ってくるから。これやっとけよ。今度こんなことしたらタダじゃおかねーからな???」
謝る私に舌打ちし、上司は山のような書類を私に投げつけた。
私は四宮美鈴22歳は、ブラック企業に務めている。上司のパワハラ、可愛い女子へのセクハラ。社長や部長はそんなの見て見ぬふり。
同じ空気を吸っているというだけで気分が悪い。
ただでさえ私は1日もろくに眠っていないのに優雅にランチですか。
周りをふと見ると、私と同じ様に山ほどの仕事を任されている同期や後輩が見える。彼らもまた、全然寝ていないのだろう。顔色が悪い。
ここでは、上司に嫌われたら死も同然なのだ。
はぁ、とため息をつき、携帯を取り出して息抜きの今ハマっている乙女ゲーム、「恋する乙女とドキドキ!夢の学園物語☆」略して恋学を開く。まず最初に、私の大好きなキャラで、私を救ってくれた乙女ゲームのメイン攻略対象キャラ、レイゼルア・ベニトアイト王子を崇めながら、ストーリーを進めようとした時…
「……あ。もう、こんな時間……。取引先への挨拶、行ってきます。」
これも、上司の仕事なのに。
上司曰く、俺はお前と違って忙しい、だからお前が行け、だそうだ。
本当に腹が立つ上司である。
可愛い女子漁りがそんなに忙しいか。
私だってあんたに任された仕事で今にもぶっ倒れそうなのに。
なんて心の中で愚痴を零しながら歩く。
取引先には歩いて行けるほど近いのに、何故か遠く感じる。頭もぼやーっとしてきた。
寝不足の反動だろうか。ふと周りを見る。
すると、周りの人達がこっちを……自分の上を見ている。
危ない!!!!
自分に何が落ちてきているのかを理解するのは、早かった。
ー鉄骨。
逃げなければ、そう考えるには、遅すぎた。
もういい。これであの上司から解放されるのだ。生きていても、なにもない……。
鉄骨は瞬く間に私を下敷きにする。
薄れゆく意識のなか、頭にあの上司の顔と、私の愛しのレイ様の顔が思い浮かんだ。
ーあぁ、私が死んだらあの上司は怒るだろうな。
なんて。きっとあの上司は私が死んで清々してるかな。
ーレイ様にはもう二度と会えないんだな。
もう一度、会いたかったな……。
「レイ、様…また…」
またいつか。
2次元だから会えないと分かっている。
分かっているのだ……。でも、あの人だけが私の心の支えだった。
周りの人がザワザワと騒いでいる中、私は意識を手放した。
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
「ーテ。ーファナテ。フィファナテ!」
「お父、さま……??」
「フィファナテ……。目が覚めたんだな……?
お父様はお前が死んでしまったかと心配で……っ。」
「お父様、くる、しいです……。」
「ディアンヌ!!!私達の愛しい子が目を覚ましたぞ!!」
「なんで、すって?ギルフォード……。本当なの!?
ーあぁ、フィファナテちゃん……。良かった……。」
……これは、どういうことだ。フィファナテ……?
私は四宮美鈴。鉄骨の下敷きになって死んだ筈。
私はふと、大きな鏡に目を向ける。
深い艶のある赤の髪は、先端が少しくるりと巻かれている。
長いまつ毛に濃い桃色の瞳。
透き通る様な白い肌に桜色の唇。
もしかして。
もしかしなくても。
これ、あの乙女ゲームの……
悪役王女、フィファナテ・ディア・センテュリオに転生してないですか??
「……お母様、お父様。ここって、その、宝石の都、センテュリオですか……?」
「はは、フィファナテはおかしな子だなぁ。そうに決まっているじゃないか。お前はこの国の王女様なんだぞ!」
「嘘でしょぉぉぉぉっっ!?!?!?」
彼女の声は城中に響き渡り、兵士が駆け付けてきてしまったのはまた別のお話。
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