第30話 そして始まる大作戦
「それで昴ちゃん。さっきの登場時、思わせぶりなこと口にしてたけど、なにかネタでも掴んできたの?」
草陰での作戦会議に昴も加わり三人と一羽は円を作るように顔を合わせ小声で話した。
「ネタと言いますか、ぼくの推測に過ぎないです。でも、こうは考えられないでしょうか。恐ろしい妖魔はまだ封印されているとして、そんなに強い妖魔だったなら手下ぐらいいたのでは?」
「それって雅さんが封印されている妖魔の手下だってこと?」
「たくさんの手下がいたのなら、一体ぐらい生き延びた妖魔がいたかもしれません。そして主の復活のチャンスを今か今かと待ち望んでいたとしたら?」
小五郎と千世が「確かに」と唸っている間に、昴は一花の肩に乗り一花にだけ聞こえるように囁いた。
「彼は人間のふりをして、人とは違う寿命を誤魔化すため名前を変え、一花さんがいた時代まで、あのお屋敷に居座り待ち望んでいたのではないでしょうか。主の復活の時を」
雅=勇。そう考えると似すぎているのも説明がつくし、傍に寄られると本能的に鳥肌が立ってしまうのも頷けた。
「じゃあ……わたしが花嫁として勇さんに求められていたのって、わたしが小五郎さんと同じ血筋だから?」
「そしてあなたが、数百年に一度と言われた彼のおじい様に匹敵する力を秘めているとすれば」
「そんなことって……」
寒気がした。そして全ての辻褄が合ったと思えた。
なんの取り柄もない自分に、あそこまで執着していた勇の異様さを不審に思っていたけれど、それならば理解できる。
「手下がいる可能性は、確かにある。けど……」
小五郎も千世もその可能性に頷きあっていたが。
「情けないけど、オラは修行不足で人に化けた妖魔を判別できないんだ」
証拠がないのに戦いを挑むことはできないと小五郎は言うけれど、国に申請して目利きの退魔師を送ってほしいと頼んだら何日かかるか分からない。
「このままじゃ暁ちゃんが退治されちゃう。小五郎さん、どうにかババ様にお願いできないかな」
「無理だぁ。すまないが、オラはすでに皆から用無しさ。雅様が今じゃ村の指揮を執ってるんだ」
小五郎は今さらながら現状を嘆き後悔しているようだった。ならば、これ以上追い打ちをかける必要はないので、一花は「そっか」と頷くだけにした。
「じゃあ、早く雅さんの本性を暴いて暁ちゃんはもちろん、小五郎さんの信用も取り戻さなくちゃね」
「一花さん、アンタ本当に頼もしいな」
「えへへ、ありがとう」
「アニキって呼ばせてほし」
「それはやめてください」
アニキってなんだ、せめてアネキだろと一花が小五郎の言葉を遮る。
そして大柄な男に「頼りにしてます!」というような熱い眼差しを向けられても正直複雑だが、自分がやるしかないという気持ちは湧いてきた。
「よし。こうなったらわたしが雅さんを挑発してくる!」
「「「え!?」」」
綺麗に揃った三人の声を浴び、一花が決意の顔つきで立ち上がった。
「ボクが今回の事件の親玉さって白状させる」
「一体どうやってだい?」
「策はあるんですか?」
「ないです」
潔く答えると三人の顔が青ざめる。
「だめです! あなたの考えなしの行動は時に波乱を呼ぶデス!?」
「そうです。女の子なんですから、危険な方向に身体を張ってはいけません」
「策がないのに勇ましい顔でいられるその度胸はある意味羨ましいけど、無謀だ……」
「まあまあ、落ち着いて三人とも。今までの推理が当たっているなら、雅さんの狙いは暁ちゃんを始末すること以上に封印されている主を解き放つことのはず」
そのために邪魔になる暁斗を始末して、小五郎をこの村から追い出すつもりのはずだ。
封印を解ける逸材である一花が手の中にあれば、小五郎の子孫は必要ないのだから。
「まず、わたしが逃げ出した~って小五郎さんに騒いでもらいたいの」
「は、はい」
「妖魔の術に掛かっているわたしをこのまま野放しにするのは危険だ~とかなんとか言って、見つかり次第始末するよう村人たちをたきつけて」
「そんなことしたら、一花さんが」
「わたしは大丈夫。もしそんな騒ぎが起きたら、雅さんも暁ちゃんを始末している場合じゃなくなるはずでしょう。わたしが始末される前に、自分で捕まえて封印を解かなきゃと焦りだすはず」
「そう彼が動いたら、もはや先程の予想は大方当たっている可能性が高いということだな」
「けれど、一花さんにとってその作戦は危険すぎです」
「作戦の流れに納得していただけたなら、苦情は一切受け付けません。どう?」
今、これ以上手っ取り早く雅の正体を明かせる作戦を思いつく人はと尋ねても、皆困るだけだと分かってて聞くと、三人はやはり苦い顔をして俯く。
「これで決まりね」
「待ってください。同じ女性の一花さんががんばるのに、私はなにもしないなんて耐えられません。私にもなにかお役目を」
「だめだ。千世になにかあったらオラが困る!」
小五郎が言っても千世は引かないだろうなと一花は思った。
「じゃあ、千世さんには暁ちゃんの救出をお願いしていいですか?」
「暁斗くんの……」
「そう。みんなの警戒態勢がわたしに向いたら、暁ちゃんを逃がしてほしいの。わたしが逃げ出したって広めた後の小五郎さんと協力して、ね」
小五郎に千世を守るよう託すと、小五郎は一花に答えるように力強く頷いた。
「一花さん、私がんばります!」
「一花さん、ぼくは?」
「昴ちゃんは、わたしの傍にいてくれればそれでいいよ」
「え~!」
これだけかと不満そうな昴を見てくすりと笑う。
「だって傍にいてくれなくちゃ。助けてって叫んだ時、聞こえなかったら困るでしょ」
「は、はい! ぼく、一番近くであなたをお守りしてみせます!」
「うん!」
皆で頷き合う。その瞳に迷いを浮かべている者は、もう誰一人いなかった。
そうして作戦は決行された。
薄らとオレンジ色に空が染まりだした頃のことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます