~トナヴィへのご褒美~ ④
ファッションショー、とでも言うのだろうか。
お兄さんの家に招かれた僕は、昼食のあとに色々と服を着せてもらった。まるでお姫様が着るドレスから、フリルがたっぷりとあしらわれた……え~っと、ゴシックロリータっていうらしい服とか、アニメでやっているキャラクターの衣装とか、それからえ~っとなぜか水着まで。
「うっひょー! めっちゃかわいい!」
「うんうん。芸能人もマイちゃんのかわいさには負けちゃうね」
と、ワイルドさんとお兄さんに褒められた。
いやいや。
うーん。
実は僕もちゃっかり楽しんでいたりする。
なんだろうね、こう、色々な服を着れるっていうのは楽しいのかもしれない。ファッション誌がなぜあんなにも多く発行されているのか、はなはだ疑問ではあったのだが……
その意味が理解できた気がする。
うん。
なんていうか、純粋に楽しいのだ。
いろいろな気分が味わえるというのかな。どの服も初めて着るようなもので、新鮮な気分が味わえるっていうのがまずなによりも嬉しい。
たとえばお姫様みたいなドレス。
ちょっとしたお姫様気分っていうのかな。あぁ、なるほど、と理解できた部分がある。
なぜ前の世界で貴族や王族のお姫様は毎日マイニチまいにち、無駄に豪奢なドレスに身を包んでいたのか?
答えは簡単だ。
気分がイイ。
肌触りの良いドレスに、腕を通す気分の良さ。
そして、そんなドレスに身を包んだ高貴な姿を自分で見たとき、とっても気分が良いのだ。
あぁ。
これはクセになりそうだ。
いや、だって鏡に映っているのは美少女だ。それこそ芸能人とかモデルに引けを取らない少女が綺麗な姿でその場にいるんだ。
あえて自画自賛させて頂こう。
うん。
とってもかわいい。
「すごいね、これ……」
と、思わず自分で言ってしまうくらいだ。
「よぅし、マイちゃん。次はセクシー路線でいってみよう!」
かわいいは充分に理解できた、と言わんばかりにワイルドさんが用意したのは、真っ白な水着だった。
若干、布地が少ないような……ていうか、そんな水着売ってるんだね。しかも、僕みたいな子ども用のサイズが。
「そんないっぱいの服、買ってきたんですか?」
今日、僕に会えた保障はどこにもない。
そんな状況だというのに、お兄さんたちは僕に合うサイズの服を大量に用意していた。
一着だけでも相当な値段がしそうなのに。
なんていうか、申し訳ない気分になってしまう。
「いやいや、俺の知り合いから借りてきただけ。服飾関係の趣味しててさ、マイちゃんの話を聞いたら貸してやるっつって。本当なら、今日そいつも来たかったらしいけど、用事が入ったみたいでさぁ。あいつめっちゃ悔しがるだろうね」
ふひひ、とワイルドさんが笑う。
なるほど、お兄さんとイメージが全然違うし、服飾関連? の知り合いだと、もっとイメージが違うだろうから、ワイルドさんは交友関係が広いんだなぁ。
恐らく、ワイルドさんが中心になって友好の輪を作っているんだろう。五年生でいうところのセージ君みたいなものだ。
明るい笑顔と軽快なトークは、人を惹きつける力があるのかもしれない。
言ってしまえば『人たらしスキル』かな。
僕も欲しいものだ。
「ほれほれマイちゃん。はやく着替えてセクシーポーズ取っておくれよ」
「は~い」
というわけで僕は水着を受け取って洗面所に移動する。残念ながらお兄さんの部屋は小さくて、着替える場所がない。他の個室もないので、ここで着替えることになった。
「さて……そろそろか」
僕は着ていたドレスを脱いだところでトナヴィに連絡を取った。
『おーい、トナヴィ』
『はいはいはい! 待ってましたご主人様ぁん』
……どうやら使い魔ちゃんはご機嫌なようだ。語尾にハートマークが付きそうな勢いで連絡を返してくる。
『そろそろ盛り上がってきたみたい。いけるよ~』
かわいいタイムが終わってセクシータイムに突入するという。
これはもう、そういうことでしょう。
『くひひひひ! いやぁ、マイちゃんも誘惑が上手ですなぁ。トナヴィちゃん、めっちゃ嬉しいですよ。おひょひょひょ』
いやだから、その笑い方はどこで覚えてきたのさ。
まったく。
『もうちょっとお上品な笑い方してくださいません、トナヴィさま?』
『あら、ご機嫌麗しゅうござりますことよマイちゃん様。わたしく、ただただ殿方の精子が好きなだけでございます。あぁ、できればマイちゃんがエッチなことをされて放出された白濁液を綺麗に舐め取ってあげたい所存ですわ。ですわですわ、ですわ!』
『……絶対に嫌だ』
体は女の子でも魂は男。
想像しただけでも身の毛がよだつ!
僕は同性愛者ではないので、女性が好きです!
まぁ、この世界で、今回の一生で、僕が恋愛できる確率は少ないだろう。
なにより、この境遇を理解してくれる人なんかいない。
ましてや前世は別の世界で勇者でした。なんて話を信じてくれるほうが、ちょっと怖い。
うん。
というわけで、僕の処女は一生守られるでしょう。
きっとたぶん。
『で、どれくらいで来れる?』
「もう来たよ」
物質透過を利用して、トナヴィは壁をすり抜けて部屋へと入ってきた。
「はやッ!?」
どんだけ楽しみにしてたんだか……嫌な子になっちゃったねぇ、まったく。
「そんなに精子が欲しいの?」
「マイちゃんも、女の子のおっぱいを飲みたいって思ったことあるでしょ。それと一緒だよ~。人類も使い魔も、その本質はそんなに変わらないって」
「いや無いから。そんなことぜんっぜん無いから! 人類がそんなだったら僕はこの世界で生きていく自信がないよ」
もしも僕の見えていない性関連が、そんなアレな状態であるんだったら。是非とも前の世界に帰りたい。
きっと大神霊様に泣いて懇願するはずだ。
まったく。
この国では、性関連に関して特に敏感になっている部分がある。教育面でも、そういったことが見え隠れしているというか、わざと避けている感じがあった。
つまり、この国の人々は清廉潔白というわけだ。
前の世界でいうところの神官みたいな考えをみんな持ってるんじゃないかな? サラリーマンだって、僕の催淫魔法の効果を耐え切り逃げてしまうくらいなのだ。
そういう意味では、お兄さんとワイルドさんは『普通』なのかもしれないね。
「さぁ、ご主人。めっちゃえっちな格好してるんだから、さっそく誘惑しちゃいましょ!」
着替え終わった僕に、れっつごー、と煽ってくる使い魔にため息をつきつつ、水着のパンツの側面にシャーペンを挟んだ。
側面っていうか、紐だなぁ、これ。
「はいはい。トナヴィちゃんはグルメですなぁ」
透明化しているトナヴィを頭に乗せて、ガチャリと洗面所のドアを開けた。廊下をゆっくりと移動すると、お兄さんとワイルドさんが目を輝かせる。
「お~!」
「すげぇ!」
うむ。
いたく感動してくれたようで、なによりだ。
「あはは……」
僕としては苦笑するしかない。
そんなわけで、パンツ部分に挟んでおいたシャーペン杖に魔力を通わせる。皮膚から伝わる魔力によってシャーペンの金属部分に魔力が伝わり、待機状態になった。
「ノイチニクラ」
幻覚魔法を唱える。
魔法が起動し、後ろで手を組んでいる状態で魔力が充填され、小さく光が灯った。
最小限での遠隔起動。ちょっぴり難しいけど、なんとか成功した。
「え、なんて?」
お兄さんが僕の言葉を聞き取れず、疑問に首をかしげる。ワイルドさんも同じだろうか。そんなふたりにかまわず、僕はにっこりと笑ってふたりへと近づいた。
「?」
なんだなんだ、と僕を見つめるお兄さんとワイルドさん。僕が近づいたことにより、なんだかちょっぴり嬉しそう。
ま、喜んでくれるならなによりだし、僕に好意を持ってくれるっていうのも嬉しいといえば嬉しい。嫌われてしまうよりよっぽどマシだからねぇ。
そんなわけで魔法が起動された手でポンポンとふたりに触れる。
これでお兄さんとワイルドさんは、魔法によって幻覚を見ている状態になった。
『よし、魔法かけたよ。念のために催淫魔法もかけようか?』
頭の上のトナヴィに感覚共有を利用して話しかけるが……
『その必要ないっぽいよ』
と、トナヴィはくひひと笑った。
見ればお兄さんとワイルドさんは、ベッドに腰かけて笑っている。その方角はベッドの中心に向かっていた。
そのぼんやりとした空間。
恐らく、そこに僕がいるんだろう。
幻覚魔法ノイチニクラは、同時に発動させた場合、対象は同じ幻覚を見る。これは、複数の敵にかけた場合、共通の幻覚ではないとき、その行動がバラバラになるのを防ぐためだ。
それこそ知能のある敵に対して、幻覚魔法だとバレないような効用でもある。それぞれが違うものを見ている、とバレてしまった場合、幻覚を見ているのだと看破されないように、だ。
そういう理由から、ふたりは同じ幻覚を見ているはずだ。
で、ベッドの中心には僕がいるんだろうなぁ。
あぁ~、ふたりの手が迫る。実際にはなんにも触れてないんだけど、お兄さんとワイルドさんの手が怪しくも動いていた。
肩とか太ももとか触っているっぽいな、あれ。
『うひょー。ねぇねぇ、マイちゃん。混ざっておいでよ。気持ちいいよ』
『嫌だってば。君が行っておいで』
『じゃ、いってきま~す』
あ、ほんとに行っちゃった。
見えないことを利用して、ふたりの間に入って、あぁ、あぁぁあ~、あ~あ。小さくて妖精みたいな容姿だけど、トナヴィの体は女の子だ。
そんな僕の使い魔は、どうにも……あ~ぁ~……
なにやってんだろうなぁ、僕。
それでなくとも明日から奴隷確定っていうのに。
『あはは、うふふ、ふひひ、うひゃひゃひゃひゃひゃ!』
トナヴィちゃん、人生楽しそうだなぁ。
生まれてきた甲斐があったみたいでなによりだよ。
対して、僕。
ちゃんと人生楽しめているだろうか。
これから続くであろう長い人生。
この五年生時代の思い出は、逆にイメージが強くなるだろうなぁ。
「ま、苦い思い出としては、悪くないか」
つぶやく僕の声は、もうふたりには聞こえていない。
部屋の隅でちょこんと座りながら、お兄さんとワイルドさん、そしてトナヴィの痴態を眺めているのだが……よくよく考えれば、今回は見なくてもいいんだった。
『トナヴィちゃん後は任せた』
『あひゃひゃひゃひゃ!』
「ちょっと聞いてる!?」
「あ。うん。ごめんなさい」
心配になってくる使い魔だよ、まったく!
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