~『かわいい』スキルの特殊デメリット~ ②
かわいいは無敵。
でも、かわいいは敵をつくる。
矛盾しているようで、それでいて問題のない事というのは珍しいのではないか。最強の盾ではあるけど、思いっきり目立つ、みたいな感じかなぁ。
もっとも、敵となる存在は同性に限るようだが。
「この場合は、女か」
魂が男であって、肉体が少女。そんな曖昧な状態である僕だけど、この世界ではきっちりとその症状に名前が付けられている。
物に名前を付けるということは、それを認識するということだ。幽霊であろうと、悪魔であろうと、そこに名前があるのならば怖くはない。
良く分からないもの、という存在が一番恐ろしいっていうのは、この世界でも共通なようで、人間という存在はありとあらゆるモノに名前を付ける生き物のようだ。
それでも、風や星にまで名前を付けるのもどうかと思うけど。把握しきれないし、風は風であり、星は星なんだから。届きもしないものに地名をつける意味はあるのだろうか?
まぁ、それでも。
病気に名前をつけて把握するのは重要だろう。
僕の症状も漢字が並べられた名前で呼ばれることもあるし、カタカナの症名で呼ばれることもあった。
どちらにしろ、僕は生まれつき『問題』を抱えていることにされている。
「他に、なにか問題はないかしら?」
リナ教諭の言葉に、僕は首を横にふった。
問題なんて、なにひとつ無い。
言ってしまえば、今回の件でもある女王ウララの五組の女の攻撃は、問題にすらなっていない。いざとなれば闇に紛れて殺すことも可能だ。
問題というのなら、使い魔を創るほうがよっぽど難易度が高かったので、あとは気にする必要もない。
なにせ、フワリは撃退済みだし。
しかし……思った以上に攻撃が早かったので予定が狂ったといえば狂った。
まったく迷惑な話だよ。
このままいけば、本当に僕がラクガキ事件の犯人になってしまうじゃないか。
それだけは避けないといけない。なにせ、ほら。僕って美少女だから、普段の行いも品行方正であり聖人君子であり続ける必要がある。
うんうん。
というわけで、僕は保健室を後にした。
一応、ほっぺたに湿布を貼ってもらう。必要ないんだけど、いわゆる演出だ。
想像してみて欲しい。
かわいい女の子が顔に湿布を張っている。もうそれだけで大事件だ。普通の感情ならこう思うはず。
まぁ、かわいそう!
――と。
仲間はいらないけれど、同情が要らないわけではない。
ちょっとしたセンセーショナルな感情を僕に対して持ってくれればそれでいいのさ。攻撃の気概が削がれるっていうのかな。
植物系モンスターがそれに近いのかもしれない。
綺麗な花を咲かせて近寄っていた人間をツタで絡め取る。花が美しいだけに、森ごと焼き払おうっていう考えが生まれないしね。まぁ、森を焼いちゃったら生活できないっていうのもあるけど。
教室に戻ると、案の定ザワザワと視線が注がれた。
ふむ。
どうやらフワリの独断先行のおかげで良い兆候になっているのかもしれない。
僕に対する悪意の視線。
その数が、若干だけど減った気がする。
やっぱり盗賊や暴走した民衆っていうのは指導者を潰すのが一番だな。統率を失い、指揮系統がなくなれば、あとに残るのは個人の意思のみ。集団ではなく個別に襲いかかってくる者は、そんなに恐れる必要もないだろう。
「もう大丈夫なのですか、愛枝さん」
担任の藤原先生ではなく、五年生全体を担当している先生が教卓にいて、僕に声をかけた。
「はい、大丈夫です」
ちょっぴり気にしてますよ、とアピールするために僕は湿布の上からちょっと頬をさわってみせる。
先生は痛々しい顔をしてくれた。いい人だ。
「今は自習です。プリントをやっていてください」
「分かりました」
藤原先生はフワリへの対応に追われているのだろう。
残念ながら彼女に対して尋問を行ったところでなにも吐かない。フワリは自分の意思で僕を襲ったのだろうが、残念ながら違う。
彼女はウララのスキルで意思を操られていたに過ぎない。
恐らく、どうしてやったんだ? みたいな質問がされていると思う。
それに対してフワリが取る行動は一貫して無言だ。
だって理由なんて無いんだから。
あえて言うのなら、愛枝舞が憎かったのだろう。
でも、その憎しみに理由が見当たらない。どうして憎いと思ったのか、原始衝動が不明。いったいどうして、なにが、どうなって。それらが一切として説明できない。
なぜなら、そこに自分の意思がないのだから。
もしもフワリが僕を嫌いだというのなら、もっと早くに事件は起こっている。人間関係っていうのは、だいたい初対面で決まるものだ。五年五組として決まったその時に、フワリとは敵対関係になっているはず。
でも、そうはならなかった。
だからこそ、女王のスキルだと断言できる。
そう。
ゆえに僕は、まだまだ闘いをやめてはいけない。
じゃないと敵は増え続けてしまう。女王ウララを叩き潰すまで、永遠と僕は他人から憎まれ続けることになる。
そんなのはごめんだ。
しかし、あせってはいけない。
今回の事件の発端であるラクガキ。いま、このタイミングでやめてしまっては、本当に僕しか犯人がいなくなってしまう。
だから、不可解なイタズラを続けなくてはいけない。
放課後。
僕は足早に小学校を後にすると、文房具店にやってきた。そこでお店にあるだけ、とある物を買う。幸い、お金はたくさん持っているしね。両親に迷惑をかけない程度の金額はしっかりと確保している。
「そんなに買うのかい……いったい何に使うの?」
おっと。
あまりに大量に購入するのを不思議に思われたのか、お店の人に聞かれてしまった。
「――工作です」
うん。
小学生が文房具を大量に使っても不思議に思われない事といえば、工作だ!
いやぁ、小学校に入学してから度々やらされているけれど、あれって苦手なんだよね。なんていうのかな、自分の頭の中にあるものと実際に表現するものに恐ろしいほどの差異が発生する。その落差に嫌気がさしてやる気がドンドン無くなっていくので、モチベーションの維持が難しい。
工作だけじゃなくて、絵もそう。
前の世界で芸術に触れることなんて一切として無かったし、そもそも文化が違うので、とまどうばかりだった。花の絵に価値なんて見出せないし、そもそも僕が花を描くなんて思ってもみなかった!
いや、まぁ、そんなことはどうでもいいか。
とにかく工作っていう行為は便利だ。小学生がどんな物に手を出したって許されるんだから。たとえ刃物であろうともね。
「あぁ、なるほど。がんばってね」
「はい!」
僕はにっこりと美少女スマイルを浮かべる。
よしよし。
なんだかんだ言って、僕も美少女スキルを使えるようになってきたのではないか。
美少女スキル。
異性や大人に限り、優しくしてくれる。
ただし、同性からは反感を買う。
使いどころに注意だね。
もっとも、常時発動しているようなものなので、出し入れは不可能。
う~む。
大神霊さま。
あなたの与えてくれた二度目の生は、楽に生きていけるはずなのに、僕は生きるのが下手なせいでごめんなさい。もうすこしでコツが掴めそうな気がしますので、どうぞ見守っていてください。
声は聞こえなくなったけれど――
きっとどこかで見守ってくださっている大神霊さまに祈りつつ。
「よいしょ、と」
僕は重たくなったランドセルと両手に袋を抱えて、家へと帰るのだった。
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