ダンジョンの準備もせずに姫をさらうのはやめてください!

@baito9134

第1話 泣きべそ魔王様

俺はゼシル、ドラゴニュートであり魔王城エリアのエリアボスである。先日魔王城にて、魔王の座が魔王の娘であるグレア様に引き継がれた。そして俺を含む8人のエリアボスもグレア様に忠誠を誓った。






───そして一週間後エリアボスも大半が自分の治めているエリアへ帰り城内も静かになった頃グレア様から

「城内に居るエリアボスは至急大会議室に来るように」

との命令が来た。初めての命令の集合場所が玉座の間とかじゃなくていいのかよとも思ったがとりあえず大会議室に俺は向かった。そして大会議室の扉を開けると、


「おお、お前も来たか。遅かったな。グレアのやつはまだ来てねーぞ。」


と、2mはある巨漢の爬虫類の顔の男が言った。こいつの名前はジャーマクス。火山エリアのエリアボスでレッドリザードマンの変異種である。元々熱に強い特性を持つ彼ら中でも一際熱に強い体制を持ち自ら熱を操ることが出来ることができるらしい。


「ごめんな、グレア様の引き継ぎによる書類の処理に時間がかかっていたんだ。」



「あの書類の山まだ片付いてなかったのか!?役所の奴らも頭固いよなぁ。氏名の部分をあのジジイからグレアって変えるだけでいいのによー」


「俺は事務処理は得意だから苦じゃないんだがな。そもそも俺、事務員として魔王城に面接に来たし。」


「なんで事務員で面接してエリアボスになってんだよ…。」


と、俺たちが適当な会話を長テーブルにある椅子に座りながらしてると、大会議室のドアが開き銀髪の褐色肌で長身の女が現れた。この方が16代目魔王のグレア様だ。


「すまん、すまん、またせたなーお前達…って、なんだ2人しか居らんのか…みんな帰ったのか」


そう言って中に入ってくると。後ろから手錠を掛けられているがえらく豪華な寝間着を着た金髪の女の子が入ってきた。俺が見たことのない子だから恐らく外から来た子だろう。


「あの、グレア様その後ろに居る子はどなたですか?見ない顔ですね。」


するとグレア様は嬉しそうに大会議室の中心にある少し豪華な椅子に座り


「あー、この子か?昨日の夜中な人間界から姫をさらってな?それがこの子じゃ」


すると横に立っていた少女が一歩前に出て、


「こんにちは魔物の皆さん、今回魔王さんに攫われたセレナです。以後お見知り置きを。」


と、言いながらお辞儀をした。


「「は?」」


俺とジャーマクスの声が思いっきりハモッた。そもそも魔王が人間の姫をさらうと言うことは魔王が人に魔の者の恐ろしさを示し、そして魔の者達にも自分の威厳を示すある種の祭り事のようなもの。本来はダンジョンや敵、そしてアイテムの配置に至るまで念密な計画を立てて行うもの。それを誰にも言わずいきなり始めるなんて人間界も、混乱するし、魔界側も混乱する。


「我はな、考えたのじゃ。我が魔王になったことだし民に我の威厳を示すにはどうしたらいいかとな?そう考えたら一番手っ取り早いのは姫をさらうことだと思い、こうしてさらったのじゃ!」


と、自信満々にグレア様が言うと、ジャーマクスが勢いよく立ち上がり、


「誰にも話さずに姫をさらう奴がいるか!お前が姫をさらったってことは人間に喧嘩吹っかけたってことなんだよ!いきなり俺たちになんの準備もせずに人間と喧嘩しろってのか!?テメェふざけんじゃねぇ!」


と、怒鳴り散らす。俺も大体は同じ意見だし、怒鳴り散らしたくなる気持ちもわかる。しかし、俺は魔王城のエリアボスでグレア様をよく見てきているのでわかるがこの叱り方はいけない。何故なら…



「い、いや我は皆を安心させたかったんじゃ、我が魔王になったけどちゃんとやっていけるんだぞって…別にそんなに怒らなくても良いじゃろ…」


グレア様が声を小さくして反論すると


「ちゃんとやっていけるだと!?先代のジジイが姫をさらう時はちゃんと俺たちにも攫うことを伝えて準備期間もくれてたんだぞ!お前はどうだ!俺たちの都合も考えず1人で勝手にしやがって、先代のジジイはどんな教育をしてたんだかな!」


ジャーマクスが先ほどよりもさらに声を荒げて言う


「そ、そんな大きな声で怒らなくても…ぐすっ…いいじゃろ…。わ、我だって…ぐすっ…みんなのこと思って頑張ったのにあんまりじゃぁぁぁぁぁぁ!」


思いっきり泣いた。涙もボロボロ流しながらそれはもう大きな声で泣いた。そう、グレア様はメンタルがとてつもなく脆い。皆から甘やかされて育たられたからからかとにかく脆い。思いっきり泣いたグレア様に流石に良心が痛んだのかジャーマクスが



「え、あ、す、すまん…。」



普通に謝った。さてはこいつ女慣れしてないな。

グレア様はジャーマクスの声が聞こえてないのか泣き続ける。俺が泣きやませようと席を立つと意外なことにセレナがグレア様の前に立ち


「大丈夫、落ち着いて。あなたは王なのでしょう?ならば今すべきことはなに?民を導くことでしょ?ここで喧嘩なんかしないで仲直りして?ほらトカゲさんももう一度誤って。」


姫の言葉でグレア様の涙は止まったがまだ鼻を鳴らしながら姫を見つめている。

ジャーマクスが一瞬驚いたがここは従った方が良いと判断したのか


「あ、ああ。すまなかったグレア様、流石に言いすぎた…、攫っちまったもんはしょうがない、俺も手伝うからなんとかしようぜ。」


「わ、我もすまなかった。我も頑張るからよろしく頼む…ぐすっ」


少しジャーマクスにビビっているグレア様だが、一応仲直り出来たのだろう。セレナも満足そうに微笑んでいた。果たして人間が魔族の喧嘩の仲裁をしていいのだろうか、というか人間に仲裁される俺たちって…これからまともに人間達と戦えるのだろうか?雲行きが怪しすぎるスタートになったな…。

























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