護衛兵やってたら死神と契約させられた件

奈佐 真宙

第1話 プロローグ

ここはどこだろう?


星にかこまれている。それが第一印象だった。


辺りを見回すと、一面の闇が広がっていた。一歩でもこの場から動いてしまったならば、自分が飲み込まれてしまいそう。


そう感じるほど辺りは深く黒に染まっていた。


そのなかで頭上にある星だけが、異様なほど光を放っている。


月は見えなかった。


(ああ、これは夢だ……)


俺にはその確信があった。この夢を見たのは一度や二度ではないからだ。


(嫌だな……)


この夢の結末はいつも決まっている。


それは、一人の人間を救えないというものだった。


その人の名前はわからない。顔もはっきりしないし、どんな姿をして、どんな声で何を話していたのかも思い出せない。


でも、俺にとって大切な人だったことだけは覚えていた。


その人は頬に涙を流しながら俺に向かって笑いかける。そして最後に俺に言葉をかけて、すっと闇の中へと消えて行くのだ。


それは俺にとって、たまらなく胸が締め付けられるものだった。


(ああ……)


今回もそのときが来てしまったようだ。


夢の中でその人にむかって手を伸ばした。無駄とわかっていても抗おうと、助けようとした。結末を変えようとした。失いたくないと心から願った。


しかし、その手が届くことはなかった。


(また、駄目だった……)


何度も繰り返し、わかりきっていた答えを見ても胸が張り裂けそうであった。


そしてその人は消える直前、俺の涙で歪んだ顔を見てこう言うのだ。


「……ありがとう」と――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る