第11話 衝撃
学校への通学中、私はスマホを見ながら通勤をしている事が多い。本来、歩きスマホは人にぶつかる為、危険視されているが、ただ単にいつも見慣れた風景を見て歩くよりは、スマホに送られてくる最新情報を見ながら歩いている方が、余程為になると私は思い、歩きスマホの癖がある。
歩きスマホをやりながらでも、時々、目をスマホの画面から離せば、すぐに歩いている周辺が見えるので、そう簡単に歩きスマホによる事故なんて怒るわけがない……
「あ痛っ!!」
そう思っていた矢先、私は歩きスマホで人とぶつかってしまった。
「だっ、大丈夫ですか?」
「はっ、はい…… あれっ? メッ メガネがない!!」
私とぶつかった人は、私と同じ学校の制服を着ている女の子であり、身長は私よりも少し小さく、髪型は黒のサイドテールであった。その子は、私とぶつかった時の衝撃で、メガネをどこかに落としてしまったらしい。
「あの? メガネって、これですか?」
「あっ…… はい」
その子が探しているメガネは、私の足元に落ちていた。
その子はメガネを受け取ると、そのメガネを装着し、なぜか私に頭を下げてから、再び立ち上がり、学校がある道を歩いて行った。
そして、その子が歩いて行くのを見ながら、私は歩きスマホでまさかの人にぶつかってしまったという行為があった為、ここからは学校までの間、スマホは一旦、カバンの中にしまう事にした。
そして学校に着き、教室に入ってみると、既に女月も教室に来ていて、紗美と話をしていた。
「やぁ、おはよ~」
「おっはっよ!!」
「おはようございます」
私は女月と紗美に、挨拶をした後、私も女月と紗美がいる場所まで行ってみた。
「でっ、どうだった。歌の練習の方は?」
「それがね、結局1人では本当に上手くなったのか分からないのよ」
私は女月に早速、1週間の歌の練習の成果を聞いてみた。
「先程も阪畑さんが来るまでの間、その話をしていらしたのよ」
「そうなんだけどね。結局、あの動画を参考に歌の練習をやっていても、本当に歌が 上手くなっているのか分からないってオチになっちゃったんだよね」
「ありゃ!? それは残念だね。1人でも練習が出来ると思って、あの動画をオススメしたのに」
女月に、歌の練習の結果を聞いてみたのだが、1人でオススメの動画を観ながら練習をしていても、結局は1人で練習をしていた分、本当に歌が上手くなっているかが分からない状態であるというオチであった。
「確かに、1人で練習をしていますと、本当に上手く出来ているのかが分からなくて、時々、心配になる時がありますものね」
「言われてみれば、確かにあるよね。そんな時って1人で練習をしていると、観てくれる人がいないから、上手く出来ているとか上手く出来ていないとかを言う人がいないからね」
「まぁ、それが原因なのかもね。近くに歌の指導をやってくれそうな人がいたら、なんとかなるのかも知れないのだけど……」
「確かに、歌が上手い人も、私達のアイドル活動をやるグループには必要かもね。私達では、女月の歌の指導が出来るほど、歌も上手くないし」
私と紗美の歌唱力では、どうしても女月の歌のレベルを上げるほどの指導が出来ない為、この分野ばかりは、どうしても頭を悩ませた。
「そう言えば、わたくし、歌が上手い人を知っていますわ」
「えぇ!? 知ってるの?」
「誰だよ? 教えて!!」
そんな時、紗美の言葉はまるで天から降り立った救世主の言葉の様に聞こえ、私と女月の気を引かせた。
「確か、図書部のあの子…… えぇ~と名前は確か……」
そして、紗美はその歌が上手い人の名前を思い出そうとした。
「そう、確か名前は朝芽詩鈴さんよ」
朝芽詩鈴? 言われても、ピンッとは来なかった。
私と女月は、あまり図書室になんか行かないから、名前を言われても、ピンッと来ないのかも知れなかった。
「わたくしは、朝芽さんとはお話をした事はないのですけれも、音楽の授業の時に朝芽さんの歌う歌を聞いた人が、地味で目立たない見た目とは異なり、物凄く歌が上手かったと、他の図書部の方から聞いていますわ」
「そんな地味で目立たない子がねぇ~ ホントだったら、一度見てみたいね」
「確かに。ホントに歌が上手かったら、私達の歌の指導をやってくれるかな?」
「どうだろうね? とりあえず、まずはその朝芽さんって人に会うのが先だよ」
「まぁ、そうだね。合わない事には話にはならないわね。図書部って事は、やっぱり図書室に行けば会えるのかな?」
「一応、図書室に行くと会えると思いますわ。放課後には、交代で図書室の当番をしていますから」
「なるほど…… じゃあ、今日の放課後、図書室に行って、その歌が上手いと言われている朝芽さんに会いに行こうよ!!」
「そうだね。そして、朝芽さんに頼み込んで、私達の歌の指導をやってもらいましょ」
「でも、そんなに上手く行くのかしら?」
「大丈夫よ。現にこうして紗美さんだって来てくれた事なんだしさ」
「そうだよ。私達の頑張っているアイドル動画を見せると、きっと協力をしてくれるよ」
「そっ、そうね。じゃあ、放課後、図書室に行きましょっか!?」
「決定だね」
こうして、朝のHRまでの間の時間での会話で、この日の放課後の予定が決まった。この日の放課後は、歌が上手いと噂されている朝芽さんに会いに行く事にした。
そして、お待ちかねの放課後の時間となった。
図書室前へと集まった私と女月と紗美は、図書室内に入る前に話をしていた。
「いよいよ、朝芽さんと初対面になるけど、こうして図書室に来てみると、なんだか緊張してきたね」
「そうだね。なぜだろう?」
図書室前のドアを前にした私と女月は、なぜか無性に緊張をしてきた。以前に紗美を仲間に誘った時も図書室だったけど、その時はそんなに緊張をする事もなく、自然に話しかける事が出来たのだけれども、今度の相手は地味で目立たな子と言われているのに、やっぱり図書室内にいる図書部の人だから、緊張をしてしまうのかも知れない。
「そう緊張をせずに、早く朝芽さんに会いに行きましょ。そうすれば、すぐに緊張は解けますわ」
「そうだな。いつまでもこう、緊張をしているよりも、早くあって、緊張を解いた方が良いわね」
「そうだね。んじゃあ、朝芽さんに会いに行くとしましょっか!!」
こうして、私と女月と紗美は、図書室の中へと入って行った。
そして、図書室の中に入るなり私は、図書部の人が座っている本の貸し出しを行う専用のスペースの方へと、直行した。
「あのっ、あなたが朝芽さんですよね?」
「少し、話があるの」
本の貸し出しを行う専用のスペースへと着いた私と女月は、その場所へ行くなり、速攻でそのスペースに座っている人に話しかけた。
「なっ、なんなのよ!! あんた達は!?」
カウンターに座っていた子は、突然話しかけられたため、とても驚いていた。その女の子の見た目は、セミロングの天然パーマであり、メガネをかけている女の子であった。でも、紗美の言っていたイメージとは少し異なる感じではあったけれども、失礼だが見た目は間違いなく、地味で目立たない感じの子だ!! この子で間違いない!! この子こそ、歌が上手いと噂されている、朝芽詩鈴だ!!
「朝芽さんにお願いがあるんです。私達の歌の指導をしてください!!」
「はぁ? なんなのよ一体?」
「そんな事を言わずに、この動画を観て欲しいのよ」
その人は、私のお願いに対して冷たい反応をしたが、それでも諦めずに女月は、先日に紗美を誘った時と同じやり方で、その人を誘おうとした。
「ちょっと!! 阪畑さんに尾神さん、待ってください!!」
その時、後ろから、紗美が慌てる様に、私達の行動を止めようとした。
「どうしたのよ、いきなり?」
「もしかして、図書室内だから止めようとしているの? 桜森さんの時だって動画を見せたのは、図書室内だったじゃないの?」
しかし、私と女月は、紗美の呼び止めを聞こうとはしなかった。
「だから、その人は、朝芽さんではありませんの!!」
えぇ!?
その言葉を聞いた瞬間、私と女月は先程までの勢いはなくなり、一気にヤバい感じになった。
とりあえず、人違いをしてしまった為、私と女月は、そのカウンターにいる人に対し、謝る事にした。
「スミマセン!! 人違いでした」
「全く!! 失礼しちゃうわ!!」
そして、その人に謝った後、私と女月と紗美は、図書室を出ようとした。
「全く、紗美さんも紗美さんだよ」
「いないならいないと、始めから言ってくれればよかったのに」
「そう言われましても、阪畑さんも尾神さんも、勢いよく言って、わたくしの話を聞かなかったではないですか」
確かに、私は紗美の話を聞く事なく、勢いで行ってしまった。
こうして、話をしながら図書室を出ようとした時、ちょうどすれ違いで誰かが図書室に入って来た。
あれ!? どこかであったような…… その、すれ違った子を思い出そうとして、私は、図書室の入り口で、立ち止まってしまった。
そんな感じで立ち止まっていると、図書室の方から声が聞こえてきた。
「遅かったじゃないの、詩鈴……」
その時、私はそのすれ違った人とどこで会ったのか思い出した。そう、今朝、歩きスマホをしていて私とぶつかった人だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます