第10話 参考になる歌動画探し
この日のアイドル活動の練習は、主に歌の練習で終わったが、女月の音痴だけはどうする事も出来なかった。
そして、練習が終わった今、私は女月と紗美と一緒にファーストフードバーガー店へと行っていた。
「わたくし、友達と学校の帰りにバーガー店に行ってみるのが憧れだったんです」
「そうだったの!?」
「えぇ、中学まではわたくしの親は、学校が終わったらすぐに帰って来いと言っていた為、友達とバーガー店に行く事が出来なかったのです」
「良かったじゃない。願いがかなって」
余程、制服姿で友達とバーガー店に行ってみたかったのか、紗美はバーガーやポテトやジュースを乗せたトレーを持った時から、とても嬉しそうな様子でいた。
そんな感じで、私達は席に座り、注文をしたバーガーを食べながら、楽しく話をしていたのだが、どうも、女月だけは楽しそうな雰囲気ではなかった。
「あれっ? 尾神さん、どうしたのかしら?」
「女月ちゃんが、食欲ないなんて珍しいわね」
あまり元気がない様子の女月を見た紗美と私は、元気がない様子の女月の事を心配した。
「だって…… 私、思っていたよりも、歌が下手だったんだもん」
「確かに、女月ちゃんの歌は音痴だったよ」
「音痴なら、練習をして、歌を上手くなればいいだけですわ」
「歌を上手くなるって言っても、歌なんて、どうやって上達したらいいのよ。ダンスとは違って難しそうだし」
運動神経は良い女月でも、それ以外の事はあまり得意ではないみたいであり、女月は歌の練習法について悩んでいた。
「難しく考えなくても、歌の練習もやってみると簡単ですわ」
「そうだよ。だったら、UTubeを使って、歌が上手くなる動画を探してみようよ」
「歌が上手くなる動画? あったら、観てみたいものね」
「探せばきっとあるよ」
そう言って、私はカバンの中からスマホを取り出し、早速、UTubeのアプリを開き、歌が上手くなると言われている動画を見せた。
「ほらっ、この動画だよ」
「どれどれ……」
「歌が上手くなる動画なんてあるのですね」
「探してみれば、いくらでもあるよ。それがUTubeなんだから」
そして、スマホの中の画面に映し出される歌が上手くなる動画を、私は女月と紗美にもイヤホンを渡し、一緒にその動画を観る事にした。
その動画もまた、一般人が投稿した動画であるが、確かに歌の上達法を語っていたものの、この動画は基礎的な事を言うだけで終わってしまうと、観ていて改めて思ってしまった。
そして、その動画はすぐに終わり、見終えた直後に、私は女月と紗美に、その動画の感想を聞いてみる事にした。
「でっ、どうだった? この動画。何か参考になる点はあった?」
「凄く参考になったよ!! これから、この動画を観て歌の練習をやるよ」
「そう。それはよかったね。為になる動画を観れて。あと、紗美さんはどうだった?」
「う~ん…… なんと言いますか、基礎的なところしか言っていなかったので、思った以上に参考にはならなかったですわ」
「なるほど。確かにこの動画は初心者には良いかも知れないけれども、それ以外の人からしてみたら、そうでもなさそうね」
感想を聞いてみた結果、歌の上手さで、個人差のある動画である事が分かった。そして、その後、女月は自分のスマホの中に、先程の動画をお気に入り登録をしていた。
その次に、私は実際に歌っている人の動画を観て参考にしようと思い、UTubeとは別の動画サイトであるNN動画から歌っている系の動画を探してみる事にした。
「このNN動画には、実際に歌を歌っている『歌い手さん』と呼ばれている人だって、たくさんいるんだよ。そんな人達の中には、プロの人以上に歌が上手い人だっているんだよ」
「そうなのですか? NN動画も凄いですね」
「そりゃあ、凄いわよ。なにしろ、このNN動画から歌動画を毎日投稿している人の中には、実際にプロダクションの人の目に止まって、プロデビューをした人だっているんだから」
「凄いですわね。もしかしたら、私達のアイドル活動も、運が良ければプロダクションの人の目に止まるかも知れませんわね」
「ホントに、そうなったら良いよね」
「でも、そんなのは、ほんの一握りの人間だけよ。いくら誰もが自由に投稿出来るUTubeやNN動画の様なネット動画でも、実際に有名になれるのは、今までと同様、ほんの一握りだけなのよ」
確かに、女月の言う通り、いくらUTubeやNN動画の登場により、多くの人が芸能人みたいに自分が映っている映像を世界中に配信できても、実際に有名になれるのは、それらのネット動画サイトが出てくる以前の時代と何ら変わる事もない、ほんの一握りの人間でしかないという事。
「でも、UTubeで投稿をやる事により、ほんの一握りのチャンスは少しでも可能性が上がると思うわよ」
「確かに、紗美さんの言っている事も、一理はあるよね。幾ら才能を持っていても、多くの人にその事を知ってもらわなければ、その才能は誰も知らないまま、その人は有名になれる事もなく終わってしまうけど、UTubeの様に誰もが自由に世界中に発信できるメディアを使う事によって、その逆だってあり得るんだからね」
「じゃあ、やっぱり、昔よりは有名人になれるチャンスはあるという事?」
「まぁ、女月ちゃんのいう通り、そうだと思うよ」
確かに女月の言うとおり、世界中の人とのコミュニケーションをとるのに便利なネットの登場だけでなく、UTubeの登場によりプロデビューをしなくても自分の歌を世界中に発信できるプラットフォームが出てきたのだから、少なからず、ネットのない時代に比べるとプロデビューが出来るチャンスはあると、私は思う。
そんな感じで、私は女月と紗美と一緒に話を見ながら、良い感じの動画を探していた。
「そう言えば、一般人の投稿者が歌を歌う動画って、ほとんどギターやピアノなどの、楽器を弾きながら歌っている動画がほとんどですわね」
「確かに、言われてみると、アイドルの様にダンスを踊りながら歌を歌っている動画なんて見た事が無いね」
確かに紗美のいう通り、一般人の投稿の歌動画と言えば、ほとんどはギターやピアノを弾きながらのバンド系の歌動画がメインである。
「言われてみれば確かに、ダンス系の動画と言ったら、今の私達がやっている様に、流行りの歌を流しながら踊るってのはあるけど、アイドルの様に歌いながら踊るっていうスタイルの動画はないわね」
「でしょう。やっぱり、難しいのかな? 歌って踊るってのが」
「そうかも知れないですし、もしかしたら、ダンス動画を投稿している人達のほとんどは、ダンス一本に専念している人ばかりだから、歌いながらやる動画なんてないのかも知れないですわね」
確かに、紗美の言うとおり、実際にUTubeやNN動画に投稿しているダンス動画を投稿している人の中には、かなり本格的なダンスを投稿している人もいる。
「まぁ、理由はともあれ、いくらUTubeの登場によって、誰もが自由に自分のやりたい事を投稿出来る時代になったとは言えども、アイドルの様に自分達で歌って踊りながらやるってのは、まだまだ芸能界だけの特権なのかも知れないね」
「そうね。確かにUTubeやNN動画でアイドルの様な動画を投稿している一般人なんて見た事が無いし、一般人にとっての歌動画と言ったらバンドがメインであったり、 また、ダンス動画と言ったらヒップホップ系であったり本格的な動画がメインであったりするわね」
「それだったら、私達のやるアイドル動画を、一般人で初めてUTubeでやった歌って踊れるアイドル動画にやりましょ!!」
「そりゃあ、やるに決まってるよ。なんたって、その為に私達はアイドル活動を始めたのだから」
「あれっ? そうだっけ?」
「まぁ、細かい事は良いんだよ。そんな事よりも、こんな動画なんてどうかな? 評価も良い見たいだし、結構為になると思うよ」
「そうね。それにしましょ」
「まぁ、私はなんでもいいわよ」
そんな感じで、練習終わりの放課後のバーガー店で、私達は歌が上手くなる動画を観ながら、楽しく一般人の女子高生らしく賑やかに話をしていた。
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