第4話 初めての投稿

 初めてのアイドル活動という名のダンス練習から数日後、私はこの日の為に、女月から渡された動画を見て、日々ダンスのレッスンに励んでいた。なぜなら、今日は私達がUTubeに動画を初めて投稿する日であるから。


「麻子、ダンスはきちんと出来る様になった?」


「大丈夫だよ!! 女月から渡された動画を見て、猛練習をしたんだから」


 この数日の練習の間に、身体中は筋肉痛にはなったものの、一通りのダンスが出来る様になったというお陰で、自信だけはあった。


「そう言えば、衣装とかどうするの?」


「衣装なんて、別に学校の制服でいいんじゃないかな?」


 そんな中、女月から初投稿となる、ダンス動画を撮影する際に着る衣装の事を聞かれてしまった。


 私は衣装の事に関しては、ここ数日のダンスの練習に夢中になりすぎていたせいで、初投稿のダンスの時に着る衣装なぞ、全く考えていなかった。


「でもさ、学校の制服だと、すぐに身元がバレてヤバいんじゃないのかな?」


「でも、そう簡単には身元なんてばれないでしょ」


「そういうものでもないみたいよ。中には女子高生の制服マニアなる人達がいて、そんな人達だと、制服を見ただけでどこの学校かすぐに分かる人がいるみたいよ」


「そうなの!?」


「そうよ」


 学校の制服を見ただけで、どこの学校の制服か分かってしまう、制服マニアなる人がいる事を、女月から聞いた私は、そんな変なマニアックな趣味の持ち主がいるという事に驚いた。


「じゃあ、体操服でやった方が良いんじゃないかな?」


「体操服の方が、余計に危ないと思うよ?」


「なんで?」


「なんでって。そりゃあ、体操服なんて制服とは違い、学校名が書いてあるし、何よりも体操服には名前が書いてあるじゃないの」


「あっ…… そうだった!!」


 確かに女月の言うとおり、体操服で投稿をするのは、制服以上に危険な行為である。


「じゃあさ、どんな衣装が良いんだよ!!」


「そうねぇ…… これからの季節にピッタリな衣装と言えば……」


「そうっ、水着!!」


「って、なんでそうなるの!!」


「だって、これからのにピッタリな衣装と言えば水着じゃない。それに、水着だと制服や体操服なんかよりもずっと動きやすくていいと思うよ」


「だからと言って、水着での投稿には反対よ!!」


 水着での投稿には、女月は断固として反対の意を見せた。


「えぇ~ 良いじゃない! 涼しくて絶対に良いと思うよ」


「そう言う問題じゃなくて、水着とか露出の高い衣装での投稿なんかやって、最悪、変な人に目を付けられたらどうするの?」


「女月…… そんな事言ってしまったらキリがないよ。私達だって、夏にはプールや海に行った時には、男の人の前で水着姿を晒すけど、今までなんともなかったじゃない」


「今まではそうであっても、これからは、UTubeでアイドル活動をやって行くのよ。もしそれらの動画が人気が出たら、私達は今までの私達とは異なってしまうのよ」


 確かに、女月の言うとおり、これからのUTubeでのアイドル活動が、もしもヒットをし人気が出た場合は、私や女月は今までの様な一般の素人とは異なり、立派なUTuberとなり、その動画を見ている一般人からしてみると私達はアイドルの様な存在となってしまうかも知れない。


「でもさ、本物のアイドルだって水着姿を披露しているわけなんだし、私達も水着ぐらいなっても大丈夫だと思うよ。それに、配信者の中には、スクール水着でダンスを踊ったりして、動画の再生回数を稼いでいる配信者もいるみたいだし」


「麻子の言いたい事も、だいたいは分かるわよ。でも、始めから水着で動画の投稿をやる必要はないと思うわ」


「どうして?」


「だって、これは始めての投稿でしょ。何もかも始めが大事。初めのイメージで、その後のイメージが勝手に作られていくのよ」


 今度も女月の言う通り、例え初めてだと思い込んで適当な動画を投稿してしまうと、場合によってはその初めての動画で、リスナーにはその後のイメージが勝手に作られてしまうケースもある。


「確かに女月の言う通りね。初めての投稿だからと言って、何でもやりたいようにやればいいってものじゃないね」


「そうよ。初めてだからこそ、大事に考えないといけないのよ」


 そして私は女月に言われるがまま、初めての投稿に着る衣装を、真剣に考える事にした。っと、その前に、私は女月がどうしても水着での投稿に反対をしていたのかが気になり、つい、その事を聞き出したくなってしまった。


「そう言えば、どうして女月は、水着での投稿に反対をしたの?」


「さっきも言ったじゃない。誰が見ているか分からないUTubeなんかで、うかつに水着姿を披露するのは危ないと……」


「でも、それ以上に理由があるでしょ?」


「ないわよ!?」


 ははぁ~ん…… この女月の様子は、絶対に隠し事があるな~


「そう言えばさ、女月は最近太った?」


「ふっ、太ってなんかないわよ。さっ、この話は止めるわよ……」


 女月の慌てぶりを見ていると…… 恐らく、女月が水着姿での投稿に反対をした本当に理由は、体重を気にし出したからに違いない!! 私は、そう確信をした。





 そして、話は水着から離れ、今度こそ真剣に初投稿で着る衣装について考え始めた。


「やっぱりさ、もう、このまま制服で行ってしまわない?」


「制服は危ないって、さっきも言ったじゃない!?」


「でも、これが初めての投稿だよ。初めての動画投稿には、最も私達らしい衣装で行こうよ」


「その、考え付いた先にある衣装が、制服だったと言うわけ?」


「そう」


 私は、どの衣装で初動画投稿に挑もうか考えた。そして、最も私達、女子高生らしい衣装と言えば制服であった。その為、私は初投稿には、この夏服の制服を着て撮影に挑もうと思った。


「確かに、制服を着ている方が、女子高生らしさは出ているわね」


「でしょ!? このまま、制服で行っちゃおうよ!!」


「でも、ちょっと待って!!」


「また? 今度は何なの?」


「さっきも言ったように、本当に制服でやるのなら、顔がバレない様にマスクを付けてやった方が良いわ」


「マスクねぇ…… そう言えば、他の配信者さんもマスクを付けてダンスを踊ったりしているもんね」


「まぁ、そのマスクね。マスクをしていれば、目から下の顔は隠せるので、完全に身元がバレる事はないと思うわ」


 確かに、女月のアイデアはよかった。ただ、本当にマスクを付けた状態が、初動画投稿になっても良いのだろうか? 私は、心のどこかでそう思っていたけれども、目から下の顔を隠しての動画投稿に別に悪いとは思わなかった為、私は特に反対をする事もなかった。なぜなら、マスクを付けたスタイルこそ、ネット動画での歌やダンスを披露する配信者さんに最も多いスタイルだからである。





 そして、初動画投稿で着る衣装が決まった後、私と女月はマスクを当て、その後にスマホのビデオカメラを起動した。


「いよいよ、私達のアイドル活動が始まるね……」


「あぁ、失敗は出来ないわね」


 スマホのカメラをセットした後、私と女月は先程とは異なり、物凄く緊張をしていた。この投稿が始めてだと思うと、失敗は出来ないと思い、更にこれから撮影をする動画がたくさんの人の目に止まると思うと、なおさら緊張はしてくる。


「それじゃあ、始めるわよ」


 そして、女月がスマホのビデオカメラの電源を入れた途端、私と女月の初めての投稿される動画は始まり、私と女月のUTubeでのアイドル活動が本格的に始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る