悪しき風習
肩を叩かれて振り向いて見ると、人差し指が俺の頬を突いた。
「一織……」
「ひっかかったー」
「小学生か……」
無邪気に笑う顔は昔とそれほど変わっていないように思える。
「で? 何か用?」
「用がなければ一緒にいちゃいけないのかね?」
「そう言うわけじゃないけど……」
「まぁ、用事あるけどね」
なら、早く言え。少しだけ悪い気がしたわ。
「ちょっと別件で職員室に呼ばれてたんだけど、ついでに私と千利君が同じ委員会に入ったってことを聞きましてね?」
「は?」
「ほら、よくあるじゃない。委員長とかその辺を当日休んでいた人にさせる悪しき風習」
「まさに悪しき風習だな」
次の日、学校に行ったら知らない間に役職与えられていて、先生から「嫌だったら言ってね?」って言われるやつ。
でも、空気がお前休んでたんだから仕方がないだろ? みたいな感じになって断れるわけがないやつ。
ちなみに俺は小学生の時に経験したのだけど、俺を学級委員に推薦しやがったのが今、目の前にいる。
「ちなみに何委員?」
「文化委員」
「うわっ、最悪……」
我らが
何も知らない一年生からは意外と人気があり、理由としては文化祭実行委員として色々と企画できるからなのだけど、それに見合わないレベルで働かされる。毎年、過労で倒れる者もいたりと、とにかく一度その辛さを経験した者はよほどの理由があるか、Mでもないと絶対に次年度はならないと聞くくらいだ。
「ってか、どうして俺は一織から聞いてんだ……。そういうのは先生から問題ないか聞かれるもんじゃないのか?」
「私が千利君も大丈夫ですと答えておきました! えへん!」
腰に手をやり、胸を張る一織の頬を軽くつねってやる。
「いひゃひゃひゃ、もぅ、なにすんだよぅ。どうせ断れるわけないからいいじゃない」
頬をスリスリしながら恨めしげに言う。
まぁ、その通りだけどさ。
はぁ、文化委員なんてイベント多そうな委員会はあのラブコメ集団にでもさせればいいんだ。
教室の後ろの方で和気藹々と集まる女子三人男子二人の愉快な仲間達を見ると、ちょうど小亀に萩井との仲を茶化された蔵内が赤面して慌てていた。
「でもさ、さっき職員室に萩井君もいてね。千利君が了承しないと、萩井君を文化委員にするって先生が言い出してさ」
「はぁ!?」
いつの間にフラグ立ってやがんだ!
ラブコメ野郎め。その運命力は本当に侮れん。
「よくやった一織。お前の判断はファインプレーだ」
「え? そんなに文化委員したかったの?」
「あぁ。超したかった。なんなら一万年と二千年前からしたかった」
「そんな神話レベルで……」
一織はこのネタが通じるのか。こいつもこいつで侮れん。
「で、さっそく今日集まりがあるらしいけど用事大丈夫?」
「なにもない」
「うん、知ってた」
「いや待て、俺にだって用事ある時くらいあるからな?」
まるで、年がら年中暇してるみたいな言い方しやがって。
……その通りだけど、なんとなく認めるのは気に食わない。
「まぁまぁ」
「それで済ますな」
いや、しかし長期的に見てみると文化委員というのはちょうど良かったのではないだろうか?
学校行事最大のリア充イベントと名高い文化祭。それを運営として走り回ることで萩井とのイベントが起こる心配は減る。
しかし、文化祭と言えば去年は確か……。
「どうしたの?」
「いや、去年の文化祭は楽しかったなって……」
「ん? そうだねー。うちの文化祭は規模が大きいからすっごい盛り上がるしね」
希志北の文化祭は夏休みが明けるとすぐにやって来る。そこでは一夏の恋を永遠の愛に進化させようとするリア充……リア獣共が牙をむき出し、また、夏を謳歌できなかった敗者達も勝者となるべく己を解き放つ。
そんな中、俺もまた意中の相手を誘うべく立ち上がったわけだ。
そして、即死した。
夏休み前に転校して来たはずなのに、夏の間に仲良くなり、果ては文化祭のミスコン一位に輝いた蔵内さんをお姫様抱っこして、廊下を走り抜けるなんてことをしでかしてくれた
真っ赤になりながらも首に手を回す姿を見せられて、かなりへこんだ。
そんな俺を連れ回したてくれたのが一織だったりする。
「あの時の千利君はゾンビみたいな顔してたもんね。その前に蔵内さんと萩井君のアレ見てたからすぐに察したよ」
ケラケラと思い出し笑いをするのは構わないけど、微妙に傷口を抉ってくるのはやめようよ。
「でも、正直あの時は助かった」
「そりゃ良かった。今年も一緒に回るかい?」
それもいいなと思う。
「時間があったらな。でも文化委員で忙しいだろ」
「それもそっかー。どれくらい大変なんだろ。噂ばっかりすごくてその実、内容全然知らないもんね」
「さぁね。なんでもいいよ」
「おいおい、さっき超文化委員したいとか言ってたじゃんか……」
そんなこと言ったっけ?
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