Flower of curse

夢売ばく

第1話 ガマズミ ハルカ

高校教師を始めて約3年目の春、無事3年生は学校を卒業し、初めて担任を持つことになった。


担当は2-2組だ。なぜ2年生なのか。

元担任はどうやら突然の事故で亡くなったらしいので、代わりに俺が入った。

クラスの皆も担任が大好きだったらしく、ひどく落ち込んでいるようだった。


――キーンコーン・・・。


「それじゃあ、HRを始めるぞ」

『・・・・・・』


クラス中が静まり返っている。

目をつぶればここは無人の教室と思えるだろう。咳払いをひとつ。


黒板に、白いチョークで大きく自分の名前を書く。

『桜斎 一樹(おうさい かずき)』


「はい、これ読める人」


静まり返る教室は何故かさらに静けさを増す。もう物音すら聞こえない。


自分が広い空間で大きな独り言でも言っているかのようだった。


「おうさい、かずき・・・先生ですか?」


俺にとって10分くらいの沈黙にも思えた空間の中から女の子の声がした。

声の方向を辿って見てみると、肩くらいまで伸びた綺麗な黒髪。チョコンと横に一つに結っている少女だ。


「お・・・!よく読めたな・・・えっと」

「莢迷(がまずみ)です、先生。よろしくね」


莢迷と名乗る少女はニッコリと笑って

生徒名簿を辿り、『ガマズミ ハルカ』と書かれていた。

莢迷という苗字は珍しいな。

自分の『桜斎』という苗字も中々ではないかと思っていたけど。


「まぁ、読みは莢迷が言ったとおりだ。じゃあこれからプリントを配るぞー。安心しろ、テストじゃないからな」


列ずつ、数を間違わないよう速く、的確に配っていく。

このプリントは早くこのクラスに慣れたい俺の自分勝手に作ったやつだ。

名前と性別、部活、委員会、趣味・・・など、簡単に言えばプロフィールだ。


「じゃあそうだな・・・20分経ったら集めるかな」


そういって、教卓の横にある一個の椅子にドカリと座った。

クラスはシーンとし、誰ひとり私語がない。

誰もなにもしないかなと思えばそんなこともなかった。

皆が顔を見合わせて誰かひとりが書き始めると皆がたどたどしくも書き始める。


次々とペンを置く音も聞こえる。

周りを見れば書いているのはあと3人くらいだ。まだ10分も経ってないが、みんながペンを置いているので回収することにした。


「全員書いたか?・・・早いが集めるぞ」


全員のを集め終わり、一人一人見ていく。

皆が名前を書き、空欄も目立つが無理もない・・・身近にいた人物が亡くなって本来であればこんなことをしている場合ではないだろうからな。


俺は反省しながら皆が書いた紙をまとめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Flower of curse 夢売ばく @yumeuribaku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る