ある日記の話(改訂版)
ジュオミシキ
ある日記の話
6月11日(火) 雨
ある人に会った。
傘が壊れてどうしようもなくて困っていた自分を助けてくれた。
その行動はとても綺麗で、あぁ自分もこうなりたいと思った。
まだお礼も言えていない、いつかまた会えるといいなと思う。
今はまだ言えないけど、もし、もう一度会えたなら、
ちゃんとお礼を言おうと思う。
とりあえずここに書いておこう。
‘ありがとう’
いつかこの声を届けられますように。
6月12日(水) 雨
あの人を探したけれど、見つからなかった。
お礼を言いたかったのにな。
明日はもっとよく探してみよう。
今度はちゃんとお礼言えるかな。
言えるといいな。
まだ言えてないからまたここに書いておこう。
‘ありがとう’
6月13日(木) くもり
あの人が見つかった。
嬉しかった。
けど、やっぱり恥ずかしくて、
声をかけることができなかった。
今度こそお礼を言うと思ってたのに、ダメだった。
やっぱりダメなのかな。
でもどうしてもお礼を言っておきたい。
練習しておかなくちゃ。
ありがとう ありがとう ありがとう ありがとう ありが
紙に書いても意味がないので声に出して練習することにした。
6月14日(金) 雨
やってしまった。
今思い返してもとても恥ずかしい。
今も絶賛床を転げ回り中だ。
昨日あんなに‘ありがとう’と言う練習をしたのが仇となった。
まさか‘ありがとう’と声をかけてしまうとは。
いやー恥ずかしい。恥ずかしい。
あの人も、え?ってなってたよ。
うわー恥ずかしい。
思わず逃げ出してしまった。
あーやっちゃった。
言えたけど!たしかに言えたけど!
あんな感じで言うもんじゃない。
お礼を言いたいのに。
やっぱり今日も言えなかったので、書いておこう。
‘ありがとう’
6月15日(土) 晴れ
やった、やっと言えた。
ちゃんとお礼を言えた。
あれからどう声をかけたらいいかわからなかったけど、
どうにか言えた。
嬉しい。
とても嬉しい。
お礼を言って、いろいろ話をした。
学校は違うけれど、意外と近くに住んでいるらしい。
また今度会いに行ってみよう。
やっと言えたよ。
‘ありがとう’
とある誰かの 6月15日(土) はれ
面白い人に会った。
「昨日、‘ありがとう’と声をかけた者ですが」
って言ってきたからとても驚いた。
6月16日(日) 雨
あの日、君が傘をくれたからとても嬉しいかった。
後で傘はくれたんじゃなくて貸しただけと
ちょっと拗ねたように言ったのがなんだか面白かった。
でも、傘を貸したから、次の日に風邪をひいたと聞いた時は、
とても申し訳なく思った。
まぁ君は笑って許してくれたけど。
6月17日(月) 雨
君が傘を忘れたって言ったから、今度は貸してあげた。
でも君は半分でいいと言った。
これはいわゆる相合傘というものではないかと思ったけど、
口には出さなかった。
いやぁなんかね。ねぇ。
6月18日(火) くもり
君の友達に会って、
「付き合ってるの?」
って聞かれたから、
「付き合ってないよ…まだ」
と言ったら、君は酷く狼狽えていたね。
なんだかちょっと可笑しかったね。
6月19日(水) くもり
君は誰にでも優しいね。
だからきっといろんな人に好かれるだろうね。
でも、たまには一人にだけ優しくしてくれてもいいんじゃないかな。
え?拗ねてないよ。ぜ〜んぜん。
……ちょっとだけ。
6月20日(木) 雨
あなたが傘を忘れそうになったから、
慌てて傘を渡したら、
「あの時と逆だね」
ってあなたは言ったね。
なんだか嬉しかったなぁ。
6月21日(金) くもり
あなたと一緒に映画を観に行ったね。
久しぶりに映画を観に行ったなぁ。
丁度観たい映画があるんだって日記につけてて、一緒に観に行こうと誘おうとしたら、
逆にあなたから誘ってくれるなんて。
まるで観たい映画があるって分かってたみたいに。
ん?分かってた……?
6月22日(土) 晴れ
とっても怒ってます。
あなたは親しき仲にも礼儀ありと言う言葉を知らないんですか?
勝手に人の日記を読んじゃって。
もう許しません。
あー恥ずかしい。
6月23日(日) くもり
読まれてしまったから、前の日記は処分して、新しく日記をつけます。
あなたもだいぶ反省したでしょう。
もし許して欲しかったら、この日記に
‘ごめんなさい’と書き込んでください。
ごめんなさい
6月24日(月) 晴れ
日記を見たら‘ごめんなさい’と書き込んであった。
…よし、
とある誰かの 6月24日(月) はれ
……しまった、罠だった。
「なんでこう書いていたのが分かったのか」
って…
晴れてたのにカミナリが落ちた。
6月25日(火) 雨
性懲りも無く日記を盗み見た罰として、
これからは二人で日記をつけることにした。
だからこれに書くのも最後。
…もちろん、こっそり別に一人用の日記もつけるけど。
6/26(水) くもり
お前が言っていた旅行に今度行くことにしよう。
旅行も久しぶりだな。
あまり旅行は好きではないが、お前との旅行は不思議と楽しみだ。
6/27(木) 雨
なんと、もう旅行に行くらしい。
旅行の準備が割と忙しい。
あー、でもなぜか楽しい。
お前との旅行だからだろうか。
自分でも不思議なくらいだ。
6/28(金) 雨
せっかく旅行に来たが、雨。
あー、つまらない。
あー、つまらない。
とある誰かの 6/28(金) あめ
どうしたのだろう。
一日中雨だったから、二人で旅館でゆっくりしているだけで、
観光もろくにできなかったから、
不機嫌になるかと思ったけれど、
どうしてか上機嫌だった。
まぁ理由を聞くのは野暮だろう。
6/29(土) 晴れ
今日は晴れたから観光が出来た。
景色が綺麗でよかった。
お前と一緒に見れてよかった。
6/30(日) 晴れ
旅行から帰ってきた。
またこれからも何気ない日常が続いていくのだろう。
お前と一緒にその日常を過ごすのが、
どれだけ退屈で、
どれだけ幸せか。
今日が終わり、明日が来る。
明日も何をしようか。
7/1(月) 雨
もうこの日記を書くのも最後にしよう。
あぁ、あの日も雨だったなぁ。
日記をつけ始めたのもその頃だったな。
いろいろ片付けていると処分したはずの日記が出てきた。
まさかこっそり回収していたんじゃ…。
ため息をつきつつ、せっかくだし、読んでみた。
あぁ、懐かしい。
70年ほど前、あの日、あの人に傘をもらって、それから…。
60年ほど前、君と相合傘もした。
50年ほど前、あなたは勝手に日記を読んで怒られた。
そして6年前、お前と旅行にも行った…。
あぁ、そうだったな。
いろんなことがあったな、なんだかんだ楽しかったな。
そういえば、一度も名前で呼んでやれなかったな。
なんとなく恥ずかしかったからな。
でも…
ありがとう、
※※※※
それは
ある日記の話(改訂版) ジュオミシキ @juomishiki
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