ガザニアの猫
夢売ばく
No title
「金になる猫って知ってるか?」
ザワついている街中、帽子をかぶった男とメガネの男が2人。周りをちらりと見た後に男は顔を近づけ、声を潜める。
「あんなもん、都市伝説じゃねぇのか?」
「馬鹿言え、お前は何年とこの街に住んでるんだよ。見ろ、あんま見かけなくなったから数は減ったがあちこちに張り紙貼ってんだ」
帽子を深く被った男は指を指す。
メガネの男は指が印した場所を見る。
それを見て不思議な顔をした。
「なんだ、ただの黒い猫じゃねぇか」
「ここ最近では猫自体珍しいんだ・・・特に、あの黒猫は珍しいんだ。話じゃ若返りの薬になるとか、不治の病が治るとか・・・だから欲しがるやつは跡を立たねぇんだ・・・って、おい!」
男はまた指を指す。
その先にはスラリとしながらも小柄な猫。
左右と違う色の目を見た男たちは1度怯む。
「間違いねぇ!あの目!追え!捕まえろ!これで大金持ちだぞ!」
男が声を荒らげ人混みをかき分けながら猫を目掛けて追いかける。それをメガネの男は慌ててついて行く。
猫は『ふぅ』と鼻で息を吐き、ゆっくり塀を登ってビルの隙間へと向かった。
「ちっ!逃げ足が早い・・・まだそう遠くはないからお前はあっちにいけ!」
「あ、あぁ!」
ここはボクの庭。
そう簡単には捕まるわけないよ。
遠くなる男たちの声を背後に、ボクはいつもの場所に向かう。塀をおり、人通りのない道に降りる。そして曲がり角を何回か曲がった所にビルで円状に囲まれた小さな噴水場がある。
多分この穴場知っているのは小さな鳥かボクくらいしか居ないだろう。
既に小鳥(せんきゃく)がいる中、ボクは水に軽く浸かる。所詮は猫だからすぐ水から出ないとあっという間に重たくなってしまう。毛は乾かないし。
身体を左右に揺らして水を落とす。
同時に鳥は一斉に空高く昇っていった。
それを目で軽く追ってから、少し水が染み付く身体をのそりと動かし、いつもの場所へと向かう。
また塀を登り、先とは違う方向へ近道をしていく。ぐるぐると迷路のような隙間を通った先に居たのは、マロン色の長い髪をした女がいつものように花に水をあげているのが上から見えた。
ボクは彼女を見下ろし、身体の水を左右に揺らして落とす。
「きゃ!ちょっ、冷たい!もー!君だなぁ?いつも意地悪してくるんだから」
キャッキャと笑いながらボクを見上げる。僕は得意げな顔をしながら毛繕いをする。
「そろそろ来ると思ったんだぁ。だからご飯、用意してるからね」
そう言いながら彼女は髪の毛を整え、服を軽くポンポンと叩きながら、目の前の建物に入っていった。それを見送った後、ボクは塀から降り、建物の前で座る。
目の前には花、草、花、花・・・たくさんの色に囲まれてる。
ここは『花屋』という場所だ。この街にはここしかないお店のようで、人間はここを『花屋』と呼んでいる。
奥からパタパタと慌ただしい音が近づいてくる。彼女がボクのエサを持ってきてくれる。
「お待たせ!猫くん、食べていいよ!」
彼女は店の中にオレンジ色の花が沢山咲いてる鉢の横に餌を置く。一呼吸置いてからボクは用意された餌をニコニコと見守る彼女を横に食べ始める。
これがいつものボクの幸せな日常。
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