第30話 その三十

ジンは戦の支度をしていた。

一人の女が手伝っている。

 女は鎧の胴の紐をギュッと力を込めてきつく締める。

ジンはあぐらをかきながら赤い牙の生えた面頬と長い兜をつけた。

 突然、後ろから抱きしめられた。

「愛しているわ」

 二人は強く抱きしめ合った。

















 本丸を出て大きく開けている広場に出ると一人の返り血を浴びて、着ていたものが汚れた青年が立っていた。

 周りでは兵たちが戦いを繰り広げている。

「やめろ、やめろ、俺とこいつの戦いだ。どちらかが死んで片がつく話だ。無駄な戦いはやめるんだ」

 一喝して周りの戦闘は止まった。

 ゆっくりと二人は近づいていった。

 青年が叫び声を上げて走り込んでくる。

 一瞬で終わった。

 大男は心臓を一突きにされ口から鮮血を吐き出して倒れた。

 


総一が血だらけになりながら突っ立ていると、御殿の方から、美しい女性が大男に走り寄ってくる。

「ああ、死なないで、お願い」

 大男はその女性の頬に触れながら愛していると言って死んでいった。

 女の頬には男の血が涙のようについていた。

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