第9話 その九

 青年二人の氣合いの入った声が聞こえる。

 木刀のぶつかり合う音。

 片方の木刀が円を描きながら飛んでいく。

「まだだめか」

総一は腰に手を当てる。

「残念だったね」

と言って金髪の青年はニタニタと笑っていた。




 総一の目の前には黄金色に輝く髪、女殺しのような顔、たくましい肉体を持った、マリアのいとこのこの国の王子様がいた。

「みてくれはいいのよねえ。あの二人」

「好きなくせに」

 マリアが母親を睨む。

「おばさま、こんなかんじでいいかしら」

「そうね。上出来、ずいぶん上手になったわね」

 無垢な笑顔を見せる女の子をマリアは眺めた。

 金色の美しい髪、小柄な体、非の打ち所のない顔の造作、守ってあげたくなるような女の子、いとこのお姫様。

「さて、ご飯にしましょ。マリア、二人を呼んできて」




「天土(あめつち)の恵みにありがたく、頂きます」

 出来立てのゴロゴロ野菜のシチュー。ゆげが立ちのぼっている。男共ははふはふ言いながら頬張っていく。

 食べるの早いなと思いながら眺める。

 総一と視線があった。

 総一はマリアと合っていた視線を外してエヴァの方を向く。

「うまいね」

 エヴァは屈託のない笑顔を見せて、もっと食べてねと言った。

 ジークがこちらを見てる。

「マリア結婚しないか」

 総一は横にいる青年の頬をぶん殴った。

 女性三人は無視して食事をする。

 シチューの香り漂う食卓だった。



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