♂♀悩みの種

ゴソゴソ・・・

一希は飲みすぎたせいかトイレに行きたくなって目が覚めた。

通路は薄暗く気味が悪い。

それと言うのも電気のないこの世界で明かりといえば松明だけなので仕方がない。

不気味な雰囲気の中恐る恐るトイレの方へ足を進めていると、突然背後から肩を叩かれる。

「うぎゃぁあぁぁ!!!」

驚きのあまり大声で叫んでしまった。

「落ち着けこのやろう!」


・・・この声は確か・・・

「ザルババじゃないか!脅かすなよ!」

「シシシ、わりぃ、ちょっと脅かしてやろうと思っただけなんだがそこまで驚くとは思わなかった」


あれだけ目の敵のように敵意むき出しだったのに毒気を抜かれたような雰囲気だ。

「あのさ、あれだけ復讐に躍起になっていたのに、なんで素直に戦わないこと受け入れたんだ?」

ザルババは拗ねた子供のような顔で言った。

「理由はいくつかあるが、まあ、魔王さんの言う事だからな」

魔王をさん呼ばわりするところなんか臣下のとる態度じゃないが、素直に命令を聞くところを見れば忠誠心は本物なんだろう。

「それに姫さん相手に本気でやれねえし、漆黒のが負けた上に、万が一俺が負けて魔族の存在にバツが着くのは我慢ならねえ・・・と言ったところだ。相手が姫さんじゃ無きゃ俺様の負けはありえないけどな」


脳筋バカかと思っていたが案外物事が考えれるやつなのかもしれない。

「で、それはそうと、お前らが言ってた"魔族の力を借りたい"ってのはどう言うことなんだ?」

「それは明日魔王様の前で話すよ」

『バカか!』

ザルババは突然大きな声で叫んだ。

「誰より早く知りてぇからこんな遅くにお前に声掛けたんだろ!それぐらい分かりやがれ!」

くそ、でっかい声でびっくりさせやがって・・・、少し見直したのに、こいつはやはりただの脳筋野郎だ。

「そうだな、単純に俺たちだけで勝てる見込みがないって事だ」

「誰と戦うんだって聞いてるだよ!勝てるなら力貸してくれなんて言わないだろ!お前本当にバカなのか?」

バカにバカと言われると実に腹が立つく・・・

「・・・ベルゾディア」

「はあん?ベルゾディア?なんだそりゃ?初めて聞く名前だそ」

やはり存在自体が世に出てないようだ。

「あーえーっと・・・"ウラクムモロス"ってのは知ってるか?」

!!!

今の反応を見るとウラクムモロスの事は知っているようだ。

「き、貴様あれと戦うってのか?」

「いや、好きで戦うわけじゃないさ。やつとは色々あって俺らが生き残るにはやつを倒すしかないって事だ」

「お前、自分が死にたくないってだけで魔界を巻き込むのか!?ふざけんなよ!」

そういうとザルババは胸ぐらを掴んできた。

「違う!!」

俺は冷静にそれを払い除け、真剣な顔でザルババの目を見た。

・・・・・・。

あまりに強く真剣な目に思わず気圧されたようだ。

「確かに死にたくないと言うのは間違ってないが、俺たちの知らないところで多くの人、ひょっとしたら魔族も奴に殺られてるって事だ」

ザルババは複雑な顔つきで答えた。

「ウラクムモロスが自ら人間を、魔族を襲ったなんて話聞いたことがねぇ・・・ただ、その強さだけは知ってるつもりだが・・・」

俺は目を瞑りながらため息を着いた。

「なんだよその意味深なため息は・・・。言うべきことがあるんならさっさと言いやがれ!」


「ウラクムモロスの本当の名前は"ベルゾディア"、そして奴は生きるための糧として生物の運命の糸を食している」

「なぜベルゾディアなんてご大層な名前を隠してる?運命の糸を食べるってどう言う事だ?そんな事実があるならなぜ俺たちはそれを知らない?」

子供のなんでなんでの質問攻めを受けてるようで俺はたじろいた。


「結論から言うと"運命を食べられた者はその存在自体この世界から消えてなくなる"という事だ」

「は?意味わかんねぇ、もっと分かりやすく説明しろや!」

なんか態度があからさまに戦いの前のようだ。


「奴に食われたらそいつは存在しなかったことになる。つまりみんなの記憶の中から消去されてしまうという事だ」

「そんな馬鹿な事が」

と言いかけたザルババの言葉を遮るように先んじて答えた。

「あるんだよ!ベルゾディア本人がそう言ったんだ。それにある村では村人がベルゾディアに殺されたのに誰もその村人の事を知らず何事も無かったかのような状態だ」

ザルババは疑いの目をしている。

「なら、なんでお前はその村人の存在を覚えているんだよ」

「それは、おらくだが、その村人の事を知らないからだよ。村人が生贄になるからウラクムモロスを退治して欲しいと言われ、翌日には生贄とはなんの事ですか?ウラクムモロスの討伐なんてとんでもない、なんの話しです?と言うような有様だ」


「なんか胡散臭ぇな」

「そうだな。目に見える事実や証拠がないからな」

「しかしだ、魔族とウラクム・・・ベルゾディアの接点がないだろ。お前たち人間に手を貸さなければ魔族は巻き込まれることはないんじゃねーのか?」

「そうだな。確かに接点がなければそうかもしれない・・・」

「・・・・・・」

「残念ながら接点は既に存在する。だからこうして協力を得るために動いてるんだ」

「なんだよその接点てのは」

「クラリアスだよ」

!?

「そう言えばクラリアスはどうしたんだ、姫と一緒だと聞いているぞ」

「・・・・・・死んだよ。ベルゾディアに殺された」

!!!!

「馬鹿な!クラリアスが殺されるだと!?奴はある意味魔族最強の男だぞ」

"ある意味"と言うのが少し気になったがそこはスルーした。

「それに、ベルゾディアに殺されたなら、なんでクラリアスの事を覚えているんだよ」

「ベルゾディアに殺されたら記憶から消え去る訳じゃない。記憶から消え去るのは運命の糸が世界と切り離された場合」

ザルババは"よく分からん"と言う顔をしている。


「俺とクラリアスは色々あって一戦交えることになったんだ。クラリアスは"イグゾニアス"と言う魔法を使った。それは"運命の世界"と呼ばれるところに転移する魔法だ。そこで運命の糸を切ってしまえば、そいつはこの世界から切り離され存在自体無かった事になる」

「てめぇそれじゃベルゾディアって奴と同じじゃねえか」

「そうだな。それにその世界はやつの住処"レグジュポット"と呼ばれる場所で、侵入者である俺たちを排除すべくその桁外れの力の前に為す術なく太刀打ちできなかった。倒すどころか逃げることすら不可能と理解したクラリアスは敵である俺に"レーティアを守ってくれ"と血の涙を流す想いで俺にその使命をたくし、命をかけて俺をこの世界に戻してくれたんだ」

・・・・・・。


「だからやつの事を覚えている・・・たとえ運命の糸が切られたとしても俺は奴の事を絶対に忘れる事は無い」

「なるほどな。その何とかって住処を荒らしたのが魔族だから俺達も敵ってわけか・・・」

俺は無言で頷いた。

ザルババはクラリアスを恨むのかと思いきやなんだか嬉しそうな様子だ。

「クラリアスやってくれたな!俺たち魔族がベルゾディアを倒して世界最強の種族だって証明してやるよ!命をかけてそんなすげえやつの存在を俺たちに伝えてくれるなんてカッケーじゃねえか!」


意外な反応だったが、脳筋バカとはこう言う物なんだろう。

それにこういう奴がいたらクラリアスもうかばれることだろう。


「よし!とりあえず事情はわかった。俺たち魔族はお前たち人間に協力してやる。魔王さんが首を振らなくても俺様は手伝うぜ!と言うかクラリアスの敵討ちだ」

「ああ、ありがとう」


そういうと肩をポンポン叩いて上機嫌で去っていった。

悪気はないんだろうけど偉く自己中なやつだ。

相方のゾルババはさぞ苦労しているだろうな・・・。

と、トイレトイレ・・・。

俺は不意の遭遇のため必死に我慢していたので駆け足でトイレに駆け込んだ。


・・・そして朝目が覚めると何やら重苦しい空気を感じ、ドアの隙間から様子を覗き見た。

何やらミューとレーティアが神妙な趣で話をしている。


「魔族の協力を得たとしても、具体的な打倒計画ってのがないんですよね」

「確かに、闇雲に戦っても犠牲者が増えるだけで致命的な攻撃になるとは思えませんし・・・ミューさんの戦いで使ったあの凄い魔法ってベルゾディアに使えないんですか?」

「うーん・・・使えない事はないですけど、あれって相手にかけると言うよりか自分の身を守る究極の護りの魔法なんですよね。相手に向けて使えるものでもないですし・・・それにありとあらゆるエネルギーを停止させるだけで倒すのとは違いますし・・・」

「死なないんですか?」

「はい。正確に言うと究極の停止魔法ですね」

「分かる様な分からないような・・・」

「まぁ、"解くことが極めて困難な封印"と言ったら近いでしょうか」

「という事はいずれは動いて復活するんですか?」

「理論上は有り得ます・・・現状私が知りうる限り不可能だと思うのですが。絶対静止が行えてるのですから"絶対可動の法"があってもおかしくない・・・という事です。死んだものの魂をこの世に映し出すカルヴァーニュさんのように一見不可能とも思える事さえ現に起きてる訳ですからね。私の知識を超えたところで元に戻す方法があってもおかしくはありませんよ」

そう言い終えたところで部屋のドアが空いた。


「確かに今の事だけを考えたらそれもありなのかもしれないが、問題を先送りしているだけと言えなくもないな」

「それに、あれはミューさんの命に関わりますしね」

ミューはこめかみををポリポリ掻きながら

「私の命ひとつで済めばそれはそれでいいのかもしれませんが、一希さんの言う通り完全に倒してない以上"事の先送り"とも言えますしね」


・・・・・・。

・・・・・・。

言葉が出てこない。


コンコン

「入るねー」

レイナスがノックとともに入ってきた。


「おはよぉー」

レーティアが笑顔で答えるとレイナスはレーティアに抱きついた。

「うひゃ!」

レーティアは驚きと恥ずかしさから変な声が出た。


レイナスはキリッと改めて真剣な表情になった。

「今の話の続きなんですけど、確かベルゾディアって時間を操る力があるんですよね?」

「そうだな」

「なら、同じ時間を操れるテレボ・ロアに話を聞いたら何か対抗策とか弱点みたいなものが見えてくるんじゃないかな?」


たしかに一理ある。

教えてくれるかどうかは分からないがヒントくらいは掴めるかもしれない。


「"時間"を操る能力に関してはいくつか師匠から聞いているのですが、ベルゾディアの時間を操る能力は一番厄介な"時間の流れを操る"ってとこなんですよね」

「時間の流れか・・・。そう言えばテレ・ボロアは時間を飛んでくるって能力だったよな」

「そうですね。時間の流れを操る能力はいくつか種類があって、その中でも時間の流れを操作されるのはある意味"時間を止める"よりもタチが悪いんですよ」

「イヤイヤ時間止めるってのが最強だろ。普通に考えたら無敵じゃん」

「時間を止めると言っても、止めてる間は自分が動くこと以外何も出来ないですよ・・・。仮に時間を止めて相手を殴ったとしてもその力は相手に伝わることはないんです。力の流れそのものが止まる訳ですから・・・」

「・・・なるほど。しかしトラップを仕掛けたり、こっちの攻撃を避けたりはできるわけだ」

「それに時間が止めれたとしても自分自身の何かが強くなる訳ではないので、相手の行動リズムと、思考をを読み切れれば対策は可能なんです」

「ただ、時間の流れを操作される・・・例えば相手の時間の流れだけを遅くされるなんてことになると、敵の攻撃が見えていても、攻撃の速さに自分の動きがついて来れず避けることが出来ないんですよ」


"見えているのに避けれない"か・・・

これはたしかに厄介だ。


レーティアはドキドキが納まったようだ。

「時間の流れを操作する事への対策ってあるんですか?・・・と言うか、正直こちらも時間を操作するしか対抗策なくないですか?」


ミューは首を傾げながらあきらめ顔でこたえた。

「師匠とも話をしていたんですがレーティアさんの言う通りこちらも"時間を操作する"しか対抗策は思い浮かびませんでした」


「それも踏まえた上で魔王さんに相談だな。俺たちの知識にはない秘策となりうる何かがあるかもしれないしな」

会話も一区切り着いたところで朝食をだべる。

朝食を終え、4人は半ばあきらめ顔な様子で魔王との対談に向かう準備をするのだった。

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