♀絶対と絶対
「一希頑張ったね!」
そう言いながら戻ってきた一希の肩をポンポン叩く。
ミュー、レーティア、レイナスが喜ぶ中、一希は冴えない表情だった。
「どうしたの?勝ったってのにあんまり嬉しそうじゃないね」
私は何となくその理由は分かっていたが、あえてストレートに聞いた。
「ああ。ミューのおかけで勝つことが出来たよ。ありがと」
「自分力だけでは勝てなかったと言う所に、素直に喜べない葛藤があるわけか」
一希は苦笑いしながら答えた。
「ははは、メギドの状態だと頭の中もお見通し・・・ってね。おかげで奴が最後の技を破る時随分助かったよ」
「そんな顔みたらメギドで繋がってなくったって誰でもわかるよ」
そう答えるとメギドを解除した。
おっ!?
「なんか魔力を感じていた変なストレスがなくなり体が軽くなった気がする」
「強力な魔力を身に纏うという事は、それだけ周囲からの魔力にも敏感になってしまうからね」
一希は両手をクルクルさせて感覚が変わったことを確認していた。
「次の戦いは私だから、回復はレイナスさんか、レーティアさんにお願いしてくださいね」
「ああ、、わかった。頑張ってこいよ!」
私は笑顔で返事をした。
作り笑顔でその場を後にしたものの、どうしたものか・・・。
いくら私が強大な魔力を持ってると言っても、一希が想定外の魔力の使い方をしたので魔力の残量が想定以上にへっている。
相手も似たような力量の"カルヴァーニュ"という魔法使い。
魔力の量が減ってるのは割ときついハンデだわ。
最悪私が負けても残りの2人で何とかしてくれるだろう。
元々、一希が負けて、私が勝ってと言う筋書きが逆転しただけだしね。
と、戦いの前にレーティアさんに少しアドバイス貰っておこうかな。
足早にレーティアの所へ駆け寄る。
「あのカルヴァーニュって人は何系の魔法使いなんですか?」
「何系ってのは?火とか水とか属性の事ですか?」
「あ、いや、おそらく最高位の魔法使いならどの属性でも難なく使えるでしょう。私が知りたいのは、どのように魔力を行使するタイプなのかですよ」
「あー・・・。そうですね、なんでもありな感じはあるのですが、あえて言うならイビルシャーマンって感じでしょうか」
「憑依術士か・・・。またレアなタイプですね。それに苦手なタイプです・・・」
レーティアはよく分からないと言う顔をしている。
「通常私たちが使ってる魔法ってイメージを具体化する"想像魔法"なんです。なので魔力の強さもさることながら、より具体的なイメージが大事になります。ところが憑依魔法は自分の身にそれを宿す事に魔力を使い、それらの能力を物理的に発動できる"現実魔法"なんです」
もうひとつピンと来ていないようだ。
「そうですね・・・。例えばファイアボールの魔法を使うとしましょう。その思い描く"炎"によってその効果がかわります。例えばレーティアさんがファイアボール唱える時どんな炎をイメージしてますか?」
「あまり深く考えてないような気もしますが、練習していた時はドラゴンのブレスのような荒々しさを想像していたような気がします」
「ちょうどいい感じの例が出ましたね。まさにそこなんです。炎と言っても人によっては油に火をつけたような炎をイメージする人もいれば、レーティアさんのようにドラゴンブレスのような業火をイメージする人、全てを焼き尽くす太陽の炎のような光炎をイメージできる人、考えるだけではなくその炎の揺らめき、温度まで具体的にイメージできるかどうかがその効果に直結します。"あつい"と言っても"温""熱""激熱""灼熱"など様々です」
レーティアはその説明を真剣に聞き頷いている。
メモでもとり出しそうな雰囲気だ。
「それに対し憑依魔法で同じように炎を発生させたい時、炎をイメージする必要はまったくないのす。その身に宿す物がドラゴンならばドラゴンのブレスを、九尾の狐を宿せば狐火のような炎を操ることが出来る。そこにイメージは必要なく、効果の大小は宿すものの持つ炎の強さがイコールになるわけです」
と私はなんの話しをしているんだ・・・。
「ま、まぁ、カルヴァーニュさんの事がわかったわ。ありがと!」
はぁ~・・・
溜息をつきながら訓練場へむかった。
小競り合いは無意味だろうし、スタート初っ端から魔力全開本気バトルになるよねぇ・・・。
禁呪使っちゃおうかしら・・・。
わーーわーー!
訓練場に出るとその盛り上がりは増しに増していた。
どうやらカルヴァーニュが観衆の前で既に憑依魔法を披露していたようだ。
雰囲気もさることながら、カルヴァーニュを見ただけで明らかにとんでもないものを、その身に宿しているのがわかった。
ひぇ~~あの例えようもない禍々しいオーラは、なんなのよぉ~
いくらハイエルフとは言え、いたいけな幼エルフに対するものじゃないでしょ!!
「幼きハイエルフよ、好敵手として全力で相手をさせていただく」
「程々にお願いします」
「では、試合開始!」
先手はカルヴァーニュ。
カルヴァーニュの方から一直線に空より針の雨が降りせまってくる。
サッと横にかわすも後をついてくるように軌道を変える。
カルヴァーニュが空に向かって左手をサッとあげるとミューの進路を遮るように石の壁が現れた。
なるほどね、石を・・・いや、大地のエネルギーを自由自在に操る精霊ってところかな?
・・・ちがう、それだけであの禍々しさは説明がつかない。
ミューは目の前に現れた石壁に手を当て粉々に粉砕した。
「ほほう、あれを壊すか。あれは魔界でもかなりの高度を誇るマグナトロンと言う溶岩の高熱で溶け合わされ生まれたかなりの硬度を持つ融合鉱物なんだがな」
針の雨が止まることなく向かってくるせいで一息つくこともできやしない・・・。
ミューは、屋根のように氷でアーチを作った。
ドドドドドド!!
針はここぞとばかりに突き刺さる。
それはまさにハリネズミのようになっていた。
そんな針山の中から扉が現れ中からミューが出てきた。
「はっはっは!なんと愉快な!楽しい、楽しいぞぉ!」
ハハハ・・・なんかこの人困った系の人、いや魔族なのかな・・・。
まぁ、そう思うのも無理はないか。
今の攻防、端から見れば空から針の雨を降らし壁で退路を断ち氷で針を防ぐ。
よくある小競り合いに見えるわけだけど、その中身は・・・
彼が降らした針は伝説級の金属オリハルコンだし、作った壁は世界で2番目に硬いと言われているマグナトロン鉱石、そして、それを破壊するためにマグニチュード9相当のエネルギー振動による粉砕、そしてオリハルコンの針の雨を防ぐため原子の活動を完全停止させる絶対零度、マイナス273.15度の極冷氷壁、やってる事は陳腐だかその質の濃さはまるで神と神が戦っているような、ありえない内容だ。
ここまで無茶苦茶をしても互角にやり合える相手が目の前にいる。
そこに憎しみがある訳でもなく、ただ、どちらが強いのかと戦っているだけ。
"楽しい"と感じても不思議じゃない。
全力で戦っても勝てるかどうか分からない相手の出現に、自分にも気づかない心のどこかで"楽しい"と感じている私がいるのかもしれない。
そう感じた瞬間私は右手を挙げた。
「ん?幼きハイエルフよなにかね?」
「えーっと、その幼いエルフってのやめていただけますか?私にはミューステアと言う名前があるんですけど」
「そうか、それは失礼した。で、ミューステアよ何かな?」
「おそらく今私もそうですが、貴方も純粋な強さ比べのこの戦いが楽しくてたまらないのではないでしょうか?」
「ああ。その通りだ。楽しくてたまらない」
「なら、つまらない駆け引き無しで、真っ向から"全力勝負"と言うのはいかがでしょう?」
「・・・・・・よろしい。受けてたちましょう」
2人は笑顔を見せあった。
それはお互い言葉として出さなかったが
"相手を殺す為にと小賢しい事はせず、お互いの持てる力をただぶつけ合おう"
と言う意思の同意だった。
これで何とか死なずにすむわ!
心の中で叫んだ!
カルヴァーニュは憑依を解いて別のものを取り込み始めた。
今度は何なのかしら
「ᘔЮ⋗ᘔЖЧΞΔΩΨφζζдЭςφБว∧юЁ・・・ジハード」
ジハードって最強の破壊神・・・しかし魔力を持たず、粋なエネルギーのみを駆使する戦いの神。
つまり、絶対零度の霊気で対応出来る・・・・・・はず。
そう、腹を括るとあたりは冷気に包まれたような冷たく静かな雰囲気になった。
"我は願う 凍てつく氷砂の精霊よ 絶対零度のその息吹 汝と我の力もて 我が身を守りし鎧とならん"
『アブソリュート・ゼロ・クライオニクス』
!!!
「おぉ、それが噂に聞きし、絶対不破を誇る絶対零度の鎧の魔法か」
「あら、ご存知でしたか。滅多に使うことが無いので知ってる人は少ないはずなんですけどね」
「すごい魔法ほど噂になるものよ。まさか自身の目で見、その体で体感するとは思わなんだがな」
「ふふふ、私も絶対破壊を誇るジハードの攻撃をこの身で受ける日が来るとは思いもしませんでした」
殺しは無しと言うことだけど、アブソリュートが破れたら私死ぬよね・・・
まあ、理論上絶対に破れないはず!
「では、始めますよ!」
ジハードがその姿を表した。
その姿は目に映るだけで心臓が止まりそうなほどの重圧だ。
とてつもない深淵の黒と言うのか、闇のエネルギーのようなオーラを纏っているが、そんな負の感じは全く無くむしろ神々しい。
両手にその黒より黒い漆黒のエネルギーが凝縮されていく。
過去にこれ程のプレッシャーを感じたことは無い。
その異様な漆黒のエネルギーがその拳に吸収されていく。
そしてそのエネルギーが全て拳の中に取り込まれた。
「では、いきます!」
"ジ・オ・ブレイク!"
・・・・・・
拳がミューに直撃した瞬間その拳は氷砂となり形を失っていた。
「さすがですね、絶対破壊の拳ジ・オ・ブレイクでも壊せませんか。その上こちらの拳が砕けるとは、いやはや・・・」
必殺技が通じなかったと言うのに、あの妙な余裕が気になる。
「絶対零度である以上その壁は突破できない・・・。しかし、逆を言えば"1℃でも温度を上げる事が出来れば破壊出来る"と言うことですな」
「そう・・・なりますね」
そう答えると、何やらまた憑依しようとしている。
「ジハードよりも強力な物があるのですか?」
「∦∌ᘔБЭбИθςωюыэΖдЯЯ・・・イーヴァ」
次は闇黒聖母イーヴァですか。
あのアフロディーテの再来とも言われる女神の力を持つ闇の聖母・・・。
ジハードよりも強いとは思えないですけどねぇ・・・。
カルヴァーニュがジハードを解除せずそのままイーヴァを取り込んだ。
!!!
多重憑依!?
まさかそんな事ができるなんて・・・。
ミューも初めて見る技に驚きにフリーズしていた。
ハッと気がつくと妙な違和感があった。
よく見ると先程氷砂となったジハードの拳が元に戻っている。
絶対破壊と絶対回復って訳ですか・・・ズルい・・・。
「私は今から放つ技"インフィニティ・デストラクション"を超える技をもっておりません。つまり、この技が突破出来れば私の勝ち、突破出来なければあなたの勝ちと言うことになります」
そんなに勝手に勝敗の線引きをされても困るんだけど・・・けど、技が破られたら私、絶対死ぬよね・・・。
しかし、耐え切れれば私の勝ちってのは逆に楽で良いかも!
「では、私の持てる終焉の絶技行かせていただきます!」
一瞬辺りがシーンと静まりかえった。
それは、辺りの音と言うエネルギーまでもが1点に吸い寄せられているためだった。
"インフィニティ・デストラクション!"
まさに空間までも破壊してしまいそうな恐ろしい力が襲いかかる。
さすがの私も"これはヤバイ"と感じた。
解き放たれたそのエネルギーがミューのアブソリュート・ゼロと衝突する。
今、目前では世界最強の絶対破壊と絶対防御の力が衝突している。
その様はまさに"異世界版の矛盾"と呼べるだろう。
はうぅぅ・・・ミューは辛そうだ。
ピシッ・・・
ひぇー空間に亀裂がっ!
さすがと言うのかミューは瞬時に状況把握と分析を行っていた。
僅かづつだけど破壊のエネルギーが蓄積されているようだ。
お互いのエネルギーが相殺されている中でエネルギーが蓄積しているという事は相手の力の方が勝っているという証、つまり、私の魔力が尽きるか相手の魔力が尽きるか・・・!?
そうか、イーヴァを憑依したのはその為なのね。
イーヴァのお陰で相手の魔力は永遠に回復している・・・つまり敵が沈黙するまで永遠に破壊し続ける・・・まさにインフィニティ・デストラクション!
こ、これは・・・ピンチってやつかしら。
これを止めるには破壊のエネルギーを制止させるのではなく"破壊"と言う活動原理をの根本を止めるしかないわね・・・。
はぁ~・・・若いうちからこの技使う時が来てしまったのかぁ・・・
生命エネルギーを魔力に変えて魔力の総量では無く質を大きくあげる技"オーバーソウル"
これ使うとしばらく活動不可になるのよね・・・寿命も縮まるし・・・。
ても、ここで負けたらどうせ破滅しかないんだし、やれる事はやった方がいいよね。
そう決心すると、ミューは目をつむり、大きく息を吸い深く吐いた。
するとミューの美しい金色の髪が透き通った銀色に色を変えた。
!!
ミューは閃いた。
カルヴァーニュさんもこれ以上の技はないって言ってたから、魔力が増えてもどうってことは無いか!
"メギド!"
ミューはカルヴァーニュにメギドをかけた。
ミューはイーヴァの無限の魔力とリンクする。
カルヴァーニュも違和感に気づいたが何が起きたか分かっていない。
すかさずオーバーソウルを発動。
無限の魔力から繰り出されるオーバーソウルはミューの想像を遥かに超えたものになった。
これなら間違いなく行ける!
それは絶対零度をたった-1℃温度を下げるだけの一見地味なものだった。
すると、ミューを攻撃していたインフィニティ・デストラクションはミューに触れた瞬間、凍りつくでもなく、それが持つ全てのエネルギーを停止させた。
そして、そこに残ったのは光のエネルギーすら失った真っ黒、いや、漆黒よりもさらに暗い表現出来ないほどの闇が重力と言う力を無視し空中に停滞している。
おまけに時間の流れからも解放され、それはピクリとも動かない。
「き、奇跡だ・・・」
カルヴァーニュは思わず本音でつぶやいた。
超えることの出来ない究極の氷点であるからこその"絶対零度"
これを超えるなんてありえない事が、今まさに目の前で起きたのだ。
この時点で勝敗は決した。
カルヴァーニュは憑依をとき敗北宣言をする。
そして、目の前の奇跡によって起こされた、時間の流れから開放されたエネルギー体に興味が移っていた。
それを触ろうとしても触れることが出来ない。
「そうか、ものに触るという事はその物質に抵抗があるということ、それさえ凍りつくとは恐るべき技。もはや凍結という状態を超越している」
カルヴァーニュは負けたのに嬉しそうだ。
審判はミューの勝利を宣言した。
一希とレーティアはミューの元へ駆け寄った。
「ミュー大丈夫か?」
「あはは・・・何とかね」
「その髪大丈夫なのか?」
「本来は命を削って魔力に変えるんだけど、今回はカルヴァーニュさんの無限の魔力を頂いたので問題ないと思います」
一希とレーティアはほっと胸をなでおろしていた。
「それより作り出してしまったあれ、どうしましょうか・・・」
「消せないのか?」
「消せないですね・・・そもそも全てのエネルギーが停止してますから・・・」
「ほっとけばいいんじゃないの?」
「まぁ、どうしょうもないので仕方ないですよね!」
ミューは開き直った。
「とりあえず2勝したから負けは無くなったな」
一希は魔王の方を向き大きな声で叫んだ。
「魔王様、これで俺たちの負けは無くなったわけだけど、まだ続けますか?」
「そうだな、引き分けでは勝ったことにはならんと思わんか?それにお主らの戦いを見ていると心躍るわ」
「せっかく無駄な戦いしなくていいと思ったの残念・・・」
ミューはため息をついた。
「だが、お主たちの想いの強さは理解した。力を貸してやろう」
「よっしゃ!」
一希は飛び跳ねて喜んだ。
「だがしかし、最後の戦い見てみたいと思わんか?」
(魔王はよっぽど戦いを見たいんでしょうね・・・)
(いや、油断させる作戦かも知らないぜ・・・)
(お父様はそんな卑怯者ではありません!)
そうだ、魔王魔王と思っていて、レーティアの父親だって事忘れていたよ。
そんな勘ぐりをしているとザルババがでかい声を上げた。
「王様よ、よそうぜ・・・漆黒のが勝てない相手だぜ、俺たちに勝てるわけないだろ」
思わぬところから助け舟のような横槍が入った。
「まぁ、相手があのエルフならそうかもしれんがな・・・」
「いやいや、王様の娘だぜ?あのエルフと大差ないって・・・」
「ハッハッハ!そうか。なら人間チームの勝ちということでこの勝負終了とする」
それににしても、リベンジに固執していたザルババさんがあんなこと言い出すなんてどういう風の吹き回しなんでしょうか・・・。
ともあれ、目的は達成という事でよしという所ですね。
何とか持ちこたえた一希達はその後親睦の宴と称して強制的に大宴会に参加させられる。
そこで、これでもかと言うほど飲み食いし、ベロンペロンになりながら用意してくれた部屋まで何とかたどり着いた。
明日は王様にベルゾディアの事話さないとな・・・そう思いながらも、緊張の糸が切れたのかそのまま眠りについたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます