♂ハッタリ
俺たちが訓練場へ入るとそこは魔族の歓声で盛り上がっていた。
と言っても、俺たちを歓迎してる訳ではなく俺たちがボコボコにされる所をみたいってな感じだ。
魔王は低い声で言った。
「準備は出来たようだな」
「はい。きっとご満足いただける戦いになるでしょう!」
ミューはくじ引きを否定した手前少し大きく出ざるおえなかった。
「では第一戦目の戦士を発表してもらおうか」
魔王のその言葉と共に歓声の声は一瞬で静まった。
今更ながらに魔王の権威がどれほどのものか伺える。
ミューは静まり返った訓練場の中で大きく息を吸った。
「第一戦目、人間側の戦士は"異世界より来る勇者の再来一希!"」
オイオイ盛りすぎだろ・・・。
「対するは同じ人間"時をかける戦士テレボ・ロア!"」
「なるほど。人間同士の戦いとは面白い組み合わせだ」
「ちっ・・・俺の相手は雑魚か・・・」
テレボ・ロアは思わず口元で呟いた。
「いいぞー!ロアよ魔族の力を見せつけてやれ!」
「人間がいかに弱い存在感かおしえてやれ!」
あの口ぶりだと、テレ・ボロアは本当に魔族の一員として鞍替えしたんだな。
それに魔族側も受け入れているかんじだ。
「オイオイ、俺の相手はそこの姫さんじゃなくて良いのか?こんなクソ野郎じゃ天地がひっくり返っても俺を倒す事は不可能だぞ?」
さっきから雑魚だのクソだの好き勝手言いやがって・・・。
ちょっとハッタリかましてやるか。
「ほほぅ、それは雑魚のクソ野郎から逃げるための口実か?いいぜ変わってやっても」
「はぁ?逃げるだ?寝言も大概にしろよ・・・」
ハーハッハッ
俺は大笑いした。
「お前は寝言の相手と会話するのか?変な野郎だな」
「っ貴様・・・ぶっ殺してやる!」
そう言うとテレボ・ロアは頭にきたのか物凄く力強いプレッシャーを放っていた。
おぉ・・・なんだかスーパーサイヤ人みたいだな。
俺は恐怖で震えているのを必死で抑えていたが、口元はわずかにニヤリと緩んでいた。
と言うのも
"テレ・ボロアは賊の頭だけに冷静さを装っていますが、自分の武力に絶対の自信を持つ典型的な猪武者です。挑発して熱くさせ周りの見えない状況で突っ込んで来させる。それに合わせカウンターの一撃を入れることが出来れば勝てるかも知れません。これが私の言った5%に満たないですが勝てる可能性です"
と言うミューの助言の言う通りに作戦がハマっているからだ。
"「速攻でその首跳ねてやる!」と言わせる事が出来れば上出来でしょう。頭に血が上り猪突猛進してくる事は間違いありません。勝機はそこです!"
まだだな・・・あともう一押し必要だ。
「ぶっ殺すか・・・。俺はお前を殺さない。殺す価値もないからだ。魔族側についたからと言っても人間は所詮人間なんだよ。勝手に勘違いしてるんじゃねーよ!」
「馬鹿か!殺さないんじゃなく殺せないの間違いだろ!勘違いヤローはお前の方だ!」
「いや、勘違いヤローはてめぇの方だ!そもそも俺を殺せるつもりでいる前提が既に大きな勘違いだ。俺を誰だと思ってるんだ?異世界から来た勇者様だぞ!命が惜しくて魔族になりさがったクソ野郎とは格が違うんだよ!軽く遊んでやるから死ぬ気でかかって来いよ」
ブチッ・・・
「おもしれぇ、お前なんて一瞬であの世に送ってやるよ!速攻で首を跳ねてやる!」
かかった!
これで最初の一撃でカウンターを入れる事ができればいいんだが・・・
やつの初手初は右か左か・・・
「ではそろそろ始めてもらおうか!」
魔王も痺れを切らしたのか戦闘開始を催促してきた。
「私が審判を努めます!」
大きな声を上げ1人の男が訓練場に歩いてきた。
「あの人は火山にいた隊長だ」
レーティアは思わず呟いた。
レイナスが少しムッとしながら聞き返した。
「あの人知り合いなの?」
「知り合いと言うか火山で一悶着あって戦ったんだ。確か・・・マグニスさんだったかな?魔族に忠誠を誓った人間の一人だよ」
「へー、テレ・ボロア以外にもそんな人間がいるんだね」
「細かい事情は聞かなかったから詳しいことは知らないけどね」
「よし、お前に任せる」
「ありがたき幸せ」
マグニスは早速訓練場の中央へ向かった。
「ハイエルフ殿あとは私が」
ミューは頭を下げ自分たちのエリアに向かった。
「ルールの確認です。戦闘中の殺しはあり、ただし敗北を宣言した後での殺しは反則とし勝ち負けなしとなる。外からの戦力的な力の援護は反則とし発覚次第、反則側戦士の敗北とする。戦闘開始後のアイテム補充は不可、ただし戦闘開始時に持ち込んだアイテムの使用は可能とする・・・」
一通り説明が終わった。
テレボ・ロアは痺れが切れているようだ。
可視化するぐらいイライラしている。
『では第1戦目開始!!』
お互いフィールドに入り中央に寄った。
やつは俺が自分の間合いに入ると、剣も抜かずにたちどころに向かってきた。
やつの剣は腰の左に、つまり右利き。
そして剣を収めたままの突進、それは抜刀からの攻撃「抜刀術」に違いない。
自分から見て右から左に斬撃がくるはず。
その斬撃を左へかわし、奴が空振りした所にカウンターで胴払い
そうシュミレートした。
しかし妙な違和感が残る。
何だこの妙な胸に引っかかる違和感は・・・
そんな事を考える暇まもなくやつはすぐ近くまで来ていた。
そしてロアは右手で剣を握り左手で鞘を握った。
やはり抜刀術。
抜刀術は鞘走りの力を利用した、神速の一撃。
刹那の瞬間を見切りカウンターの一撃を入れるため雑念を捨て全力集中した。
それでも違和感が付きまとう。
"刀でもない両刃の剣で抜刀術とか意味あるのか?"
違和感の正体はこれだった。
と思っていた瞬間奴の右手がピクっと動いた。
それに気づいた俺はシュミレーション通り左方向への回避動作に入る。
とその瞬間、視界の中に突如黒い影が現れた。
鞘!?
斬撃が来るとばかり思い込んでいたせいで、体は回避のために左へ動き始めていた。
しかしなぜ突然鞘が・・・
これが時間を飛んでくるという事なのか!?
ロアはその僅かな俺の動きを見て即時に左へ身をかわすと察知した。
故にそれに合わせて斬撃を繰り出していた。
た、だめだ!
このまま左へ移動するとやつの斬撃の餌食になる。
体は脳から下された左への回避行動を忠実に行っている。
く、くそっ、体が勝手に左へ・・・・・・
っっ!!
俺は力をふりしぼり頭を右に倒す。
それに引っ張られるように体が左から右に反転する。
その瞬間飛んできた鞘は顔面に直撃。
そして、ロアの斬撃は一希ではなく空を切った。
「はあぁ?貴様なんで俺様の斬撃がよけれた?」
俺も必死だったからな・・・なんでと聞かれてもよく分からん。
ただ、鞘を囮に動いた方へ切りに来るのはわかった。
ちょいとハッタリでも噛ましとくか。
「さあ、なんでだろうな・・・」
少し考えるふりをした。
「悪ぃ、あまりにもクソすぎる斬撃なんで考えるまでもなくよけてたわ」
クククッ・・・
「鼻血出しながら何言ってやがる。ハッタリにもなってないぞ」
ロアはバカバカしい返事に笑いを堪えていた。
「あーこれね。お前の一撃がどのくらいの物か興味あってわざとくらってやったんだよ。気づけよ」
ぺっ!
「お前の戯言には反吐が出る。バカ言ったまま死ねや!」
ロアはそう叫ぶと一直線に向かってきた。
そして、とにかく切る切る切る。
斬撃の嵐だ。
しかし、致命傷を狙った斬撃と言うわけではなく、数打ちゃ当たるの乱撃だ。
剣の軌道を読み回避と受けでかわしていく。
流石に俺でもこの程度なら何とか対処でき・・・
と思った瞬間、斬撃が右肩をかすめた。
!?
ロアの口元は緩んだ。
一体何が起きた!?
奴の攻撃は全て見切って対処したはず。
いや、見切ってないから切られたんだ。
・・・時間か。
やつは時間を飛んでるんだ。
さっきの鞘が飛んできたのは、投げる動作の時間を飛んだ事で"投げる"という動作が認識出来なかった。
今回のは恐らく"切る"と言う動作その物を飛んだに違いない。
つまり見えない斬撃!
動きそのものが飛ばされたら回避しようがない。
などと、攻撃をかわしながら状況を分析しているが、その間にも小さくはあるが、見えない斬撃が一撃一撃と俺の体に着実なダメージを与えていた。
くそっ・・・
俺は大きく後ろに三度バックステップし、大きく間合いを取った。
ロアはこの見えない攻撃に勝利が見えたのか、やや余裕な態度で追ってこなかった。
「あれだけ人を雑魚呼ばわりしといて、自らビビって逃げるとは勝負も見えたな」
ハッハッハ!
くそ、返す言葉もないがこの雰囲気に飲まれて気圧されたらやつのペースになってしまう。
気勢だけは譲っちゃダメだ。
「お前本当に馬鹿だよな。自分とって不利な状況だと判断し間合いを取るなんて事は戦いの常だろ。まぁお前みたいに死ぬまで突っ込んでいくしかできない脳筋野郎にはわからんだろうけどな」
今の一言に刺激されたのか、笑いを浮かべていたロアの表情が一変し怒り顔に変化した。
「全くその口はいちいちいちいち腹が立つ・・・まず、その口から切り刻んでやる!」
そう叫ぶと、また一瞬で目の前に現れ攻撃を開始する。
くそっ、また時間を飛んで・・・。
じみに時間を飛んで来るのが鬱陶しい。
そしてさっきと同様上下左右不規則な斬撃の中に見えない一撃が混じっている。
キレて本気でこの感じだと飛ばせる時間は極わずかの一瞬が限界なんだろう。
何度か間合いを開ける努力はしたが今回はねちっこく詰めてくる。
おかけでこの攻防は十数分続いた。
俺もさすがにこのイライラに火がつき爆発した。
「だぁぁぁあ!!」
堪忍袋の緒が切れ、無意識のうちに突然大声をあげた。
ロアも突然の事に驚き一瞬動きが止まった。
単調な動きの中ではただの雄叫びでさえ武器になるようだ。
俺はその隙にまた大きく間合いを取る。
ハァハァハァハァ・・・
よく見ると、全身切り傷だらけになっている。
どれも有効な一撃という訳ではなく、どちらかと言うとかすり傷に近いものばかりだ。
悔しいがこのまま続けられると、その出血量から機動力を失い致命の一撃を貰ってしまうのは明白だ。
ロアは今のが間合いを開けるための悪足掻きの雄叫びだと分かると、再びこちらに向かってくる。
くそっ!奴はまた時間を飛んで間合いを・・・・・・
!?
そうだ!向こうから突っ込んで来るんだ、時間を飛んだ先に合わせて剣を向けるだけでカウンターの一撃になるはずだ!
そう閃いた俺は、奴が剣2本分の間合いに入った瞬間真っ直ぐに剣を伸ばし突き出した。
ブシャっっ!!
その瞬間、空に血飛沫が舞った。
そしてロアは、その場で右腕を抑えながらしゃがみこんでいる。
「貴様一体何をしたぁぁ!!」
俺は奴のこの反応を見てひとつ確信した。
"飛んでる時間の出来事は奴にも認識できていない"
あの反応は飛んだ時間の間に起きた事が見えてない証拠だ。
と、それがわかった所で対処する事はできない訳けだが・・・。
ザッザッ
あの見えない斬撃乱舞が怖いのでとりあえず間合いを取った。
その距離はさっきの倍以上だった。
「またか・・・」
「・・・・・・」
「鬼ごっこが好きなら死ぬまで付き合ってやろうか?」
確かにこのまま膠着状態が続けば奴は本当に死ぬまで追いかけてくるだろう。
出来れば使いたくなかったがミューから貰った奥の手使って一気に勝負をつけるのがベストなのかもしれない。
「なんだよ今度はだんまりか?」
「・・・・・・」
「諦めたんなら負けを申告すれば命までは取らないでやるが?」
「・・・・・・」
俺の無反応が観客にも苛立ちを覚えさせていた。
「やらねえなら、とっとと降参しやがれ!」
「死ね死ね死ね」
「さっさと殺っちまえ!」
ブーイングの嵐だ。
「フゥ〜・・・」
やるせない状況に思わずため息がでた。
ロアは俺のため息に反応する。
「てめぇ何考えてんだ?やるのかやらねえのかはっきりしろや」
「もう・・・いい」
「あぁ?」
「もう疲れたから終わりにしよう」
「てめぇ、諦めたんならちゃんと"私の負けです"とハッキリ意思表明しやがれ。最後までウザったらしい野郎だな」
「そうだな・・・・・・。今ならこの辺で勘弁してやるがどうだ?」
「は?」
「お前頭だけじゃなく耳も悪いんだな」
「聞こえてねえんじゃねえ!意味わかんねぇつってんだよ」
「本当に面倒臭い奴だな。今降参したら許してやるって言ってるんだよ」
「・・・・・・・・・」
ロアは意味がわからないが一周して固まっていた。
「・・・意味わかんねぇ。もういい、お前面倒臭せぇから死ね」
そう言うと猛スピードで向かって来た。
俺は一瞬ミューの方を見る。
ミューは頷き、俺も答えるように頷いた。
そして向かってくるロアに対して剣を捨て両手をあげた。
「はぁ??なんだそりゃ?今さら降参しても遅せぇよ」
出来れば使いたくなかったミューに借りた魔法の力存分に見せてやるよ。
そう心の中で言い放つ。
対テレボロア戦第2幕の開始だ。
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