♀初めてのお友達

洞窟を抜けたレーティアは辺りをクルクル見回す。

そこは木々が生い茂る広大な森だった。


ここ、どこ?

そうか、前回来た時は結局洞窟から出なかったもんね。

私ってばいきなり迷子じゃない!?


取り敢えず周囲を確認っと。

とは言えあまり派手な動きを見せる訳にも行かないしなぁ・・・。

まぁ、ちょっとくらいならいいか。


"レヴィ・ウイング"


そう唱えるとレーティアの背中に漆黒ながらとても美しい翼が生えた。

よし、これで空から周辺を確認できる!


レーティアは大空へ向かってものすごい速さで飛び上がった。

何メートルぐらい飛び上がったのか分からないけど地上の様子がよく分かる!

この辺一帯は大森林になってるのね。

あ!

あそこに村らしきものがある!

それを見つけると何事も無かったかのように猛スピードで地上に舞い降りた。

このスピードだし、一瞬だし誰にも見つかってないよね・・・。

そう思いながら翼をしまった。


レーティアは周りをキョロキョロ見回す。

よし、誰にも見つかってないわね。

安心したレーティアは先程見つけた村の方へ歩き出した。

30分ほど歩いた。

うぅぅ・・・なんか近いように思ったけど意外と遠いよぉ・・・。

そう思いながら歩いていると少し開けた場所にでた。

何やら木を組んだテーブルの様なものや、椅子の代わりに座っていたと思われる切り株など、キャンプ跡のような残骸が残っていた。

とりあえず切り株に座って一休みしようと思い近くまで行くと、奥にハンモックの様なものがあった。

あれに乗って少し横になって休憩しよう!

そう思うとハンモックを広げ乗っかり横になった。


あぁぁー気持ちいいー


ユサユサ揺らしながらハンモックで休憩していたら、あまりの気持ちよさに、ついウトウトっとしてきた。


・・・・・・。

・・・・・・。

レーティアはあまりの心地良さに寝てしまった。


・・・・・・。

・・・・・・。


はっ!?

レーティアは突然体を起こした。

しまった、つい気持ちよくて寝てしまった・・・。

小一時間寝てたようだ。

村までどのくらいかかるか分からないけど、早く行かないと夜になったら大変だ。


ガサガサ

背後の木の影で物音がした。


なに!?


小柄な3人が姿を見せた。

2人は剣、斧を構え、もう1人は短いロッドのようなものを持っていた。

3人は殺気とは言わないまでも戦闘態勢を取り物凄い覇気を放っていた。


うぇ・・・あれ絶対私を殺るつもりだよね・・・。

「あ、あのぉ、私に何か御用でしょうか?」


「異様な魔力を漂わせおって、人間の姿に化けた魔物か妖怪じゃろ?」

「よ、よ、妖怪とか魔物とか違いますよ!」

とは言ってみたものの、この人たち鋭いなぁ・・・。

私の魔力を感じ取ってるようだし、適当な事言って誤魔化しても聞く耳持たないだろうなぁ・・・。


「ワシらはドワーフ村を護るガーディアンがひとつ、ブラハッド特戦隊!害物は排除する!」


問答無用って訳ね。


"モーゼルフィアー"

聞いたことの無い魔法、何かは分からないがロッドを持ったドワーフが先制で魔法を放ってきた。


うぅ・・・なんだか全身が重い。

体が重力に潰されそうな感じがする。

身体的負荷をかけ機動力を奪う魔法かな?

でも、こんなもの・・・えいっ!


レーティアは気合いで魔法を吹き飛ばした。

!!!


「かき消した!?」

「馬鹿な、レイナスの魔法を破るなんて部隊長でも無理だぞ・・・。手を抜いたな!」

「抜いてないわよ!得体の知れない敵にそんな事する訳ないじゃないさ!もう一度」

"モーゼル・・・"


魔法を唱えようとした瞬間、目の前からレーティアの姿が消えた。

「あ、え??消えた・・・」

「レイナス後ろだ!!」

レイナスがその声に反応し振り返ると、口元に人差し指を当てられた。

「ダメですよ!なりふり構わずいきなり攻撃するなんて」

レイナスは10数歩バックステップで間合いを取った。


「こ、こいつ何者!?」

「速すぎて動きが見えなかったぞい・・・」

「・・・危険だ」


3人は危機感を感じ、闘気200%と言った感じで、さっきよりも凄いプレッシャーを放ち臨戦態勢を取った。


ありゃ・・・逆に火をつけちゃったか。

レーティアは両手を上げ戦う気が無い意思表示をした。


が、そんな事にはお構い無しの様だ。

剣を持った男が何やら気合いを貯めているようだ。


もう・・・目立つようなことは控えるように言われてるのに・・・・・・。

ドワーフには、戦闘好きのあばれはっちゃくが多いとは聞いていたけど、本当なのね。

「ハイハイわかりました。戦えばいいんでしょ」

レーティアは抑え込んでる魔力を解放した。

気合いを貯めていた剣士を一睨みする。


ドワーフの剣士はレーティアと目が合った瞬間、自分の周りの空気がなくなったと言うか、まるで真空パックされたようなとてつもない重圧に襲われた。その瞬間意識を失いその場に倒れた。


!!!!

「貴様一体何を・・・・・・」


斧を持ったドワーフがレーティアに向かって大声をあげようとした瞬間、レーティアと目が合い、殺気等とは比べ物にならない程の重圧、睨むだけで人が死ぬと思えるほどのプレッシャーを感じた。

「な、なるほど・・・これはヤバいな・・・とんでもない化け物を相手にしてしま・・・・・・」

と言いながら途中で意識を失った。


レーティアはレイナスの方へ視線を向ける。

「こっち見ないでーー!」

そう叫びながら手に持っていたロッドを投げつける。

怯えながら投げるロッドはレーティアに届くことも無く地面に落ちる。

レーティアはロッドを拾った。

そしてレイナスをみた。

「ひーーこ、殺される・・・」

レイナスは完全に戦意喪失していた。


レーティアは魔力を収めた。

「殺しません!」

そう言いながら魔法使いの方へ歩いた。

「こ、来ないで、助けて、殺さないで・・・」

レイナスは声にもならない声で大泣きしながらて助けを乞う。

恐怖のあまりレーティアの声は届いていなかったようだ。


ついにレーティアはレイナスの側にきた。

レイナスは逃げ出したくても腰が抜けて動くことが出来ない。

「助けてください、殺さないでください・・・」


レーティアは自分の声が届いてないことに呆れて頭をかいた。

「はい、これあなたの大事なロッドでしょ?」

そう言いながらロッドを差し出した。


「え!?」

「だから殺しませんって言ってるじゃない」

「ほ、本当に助けてくれるんですか?」

はぁ~・・・

「助けるも何も、あなた達が勝手に攻撃してきただけでしょう」

「す、すみませんでした」

「分かればよし!」

レーティアは手を差し出し握手を求めた。

レイナスはそれに答え手を握った。


!!!!

握った瞬間レイナスは思わず手を離した。


???

レーティアは何が起きたのかよく分かっていない。


「あ、あなたは、ま、ま、魔族・・・ですよね・・・」

さすが魔法使い、直接触れたことで、魔力の質の違いに気づいたようだ。


「んーー・・・そうですね。で、それを知ってどうするおつもりですか?」


「・・・・・・私では・・・どうも出来ない・・・」

「ですよねー」

「私は人探しで人間界に来てるだけなんです。特に人間界でなにかしようとか思ってるわけじゃないんですよ」

「人探し・・・ですか?」

「はい!」

「なら、さっき空から何をしようとしてたんですか?」

「あぁ・・・あれはですね、ここがどこか分からなかったので辺を確認していただけです」

「本当に何もしないんですか?」

「はい、しません」

レイナスなその言葉を聞くと少し安心した様だ。

強ばった表情がやや緩んだ。


レーティアは倒れてる2人の元へ向かった。

「2人に何をするんですか?」

レーティアは指先で2人の頭をチョンチョンとつついた。

「あぁ、私と出会った今の記憶を消しました」

「記憶を消した?」

「はい。で、私は今からあなたに対して2つの選択肢があるわけですけど・・・」

レイナスは証拠隠滅のため殺されると勘違いした。

「殺さないって・・・」

「殺したりしませんよ。その気があるならとっくに殺ってます」

レイナスは何をされるのか怯えている。

「ひとつは、あなたから2人と同じく記憶を消し今の出来事を忘れてもらう。もうひとつは絶対に誰にも話さないと約束して貰えるなら・・・」

「約束するなら??」

「約束してくれるなら、私たち友達ですね!」


・・・・・・。

「と、友達?」

「はい、秘密を知る仲じゃないですか!友達ですよ!」


「もし、誰かに話したら・・・」

「どうなるかぐらい分かりますよね?」

レイナスは恐ろしくなって記憶を消してもらおうと考えた。


「わ、私から記憶を・・・」

と言いかけた時

「あのね、ある人間が魔族の私と結婚すると言ってくれたんです」

「魔族と結婚・・・?」

ドワーフ族には結婚と言う文化があるようで意味は通じたようだ。

「そんな事あるわけない」

「まぁ、普通ならそうなんでしょうけど事実なんです」

「そんな馬鹿な・・・」


「人間と魔族、仲良く・・・なれないんでしょうか?」

レーティアの目にはうっすら涙がうるうるしていた。


その涙を見たレイナスは、レーティアが本当に人間に対して害意を持っていない、むしろ歩み寄りたいと言う想いは本物だと確信した。


「人間と魔族が仲良くなれるかは分かりません。ただ・・・ただ、あなたと結婚すると言った人間とあなたは絶対に上手くいく。そう思います」

「ありがとう」

「えっと・・・・・・」

「あ、私はレーティアと申します」

「レーティアさん、私の記憶は消さないでください」

「わかりました」


レイナスは耳につけていたピアスを片方外しレーティアに差し出した。

「これは?」

「"フィンブルビット"って言う魔道具です。お互いの魔力を記憶させておくことで、呼びかけたい時に魔力を使って精神メッセージを送ることができるんです」

「なぜ私に?」


レイナスは満面の笑みで答えた。

「なぜだか分からないけど、あなたは必ず私の力を必要とする時が来る、そんな気がするんです」

「ありがと!」

そう言ってフィンブルビットを受け取った。


"レヴィ・ウイング"

レーティアは魔族の翼を出した。

「こ、これが魔族の翼・・・・・・」

レイナスは初めて見る魔族の煌々たる翼に言葉を失った。

翼から鱗を一鱗取りレイナスに差し出した。

「これ、お守り!」

燃えるような緋色、飲み込まれるような漆黒。

見ているだけで、えも言われぬ感じになる不思議な鱗だった。

「ありがとう!大事にするから!」


「じゃあ私は行くね!」

レーティアはそう言って手を振った。


「このバカ2人には上手いこと言って誤魔化しとくからー」

レイナスもそう言いながら手を振った。



レーティアは10分ほど歩いたところでふと思った。

レイナスに村まで案内してもらったら良かったな。

あ、このフィンブルビットで村までの行き方を聞けばいいんだ!

早速役に立つね。


フィンブルビットを両手で握り魔力を込めレイナスを思い浮かべた。

"レイナス!レイナス!近くの村までの行き方教えて欲しいんだけど・・・"

そう問いかけた。


返事がない。

うーん・・・やり方が悪いのかな・・・。

確かに魔力を使って精神メッセージを送るって言われても具体的にどうしていいか分からないよね・・・。


と、思っていたら頭の中で声が聞こえた。

"たすけて・・・レーティア・・・たすけて・・・"


!?

なに?

何があったの?

レーティアは思念ではなく声に出していた。

とにかく急いで戻ろう。


レーティアは猛スピードで戻った。

10分かかった道のりをわずか1分足らずで帰る。

そこにはさっきの2人が血まみれで倒れていた。


レイナスはどこ!?

レイナスーーー!!


ドスン!

ザザザーーー


あっちだ!

レーティアは音の方へ向かった。


!!!

そこには全身フードで、いかにも隠密部隊ですよと言わんばかりの人影が7つほどあった。

リーダーらしき者は、レーティアの姿を見るなりうすら笑いを浮かべた。

「お前はさっきの化け物・・・丁度いい」


!!!

「あなた達は何者ですか?レイナスをどうしたんですか?」

と問いかけたが、聞く耳持たぬというところだ。

リーダーと思わしき1人が手を挙げ合図すると、周りにいた3人が一斉にレーティアに襲いかかる。


1人は物凄い速さで真正面から向かってくる。

「問答無用ですか・・・」


その速さは、自分の影を残し分身の様な幻覚を作り出す程だ。

そのまま左の残像から短刀一撃が繰り出される。

瞬時に反応し短刀を捌く。

!!!

武器の衝突がない。

と、その瞬間レーティアの背後から短刀が後頭部を襲う。

「クッ、残像か」

「貰ったぁっ!」

トドメの一撃が決まるその瞬間レーティアの姿が消えた。

!?

「き、消えた・・・。確かに後頭部をとらえたはず」

短刀の男は周囲を確認する。


ズドォーン!

その瞬間レーティアが頭上から降ってきて脳天に重い一撃を食らわした。

短刀使いは地面にめり込み気を失った。

一緒に襲いかかった2人もその圧倒的な強さに気圧され動きが止まった。


この場にいた誰もが、何が起きたか見えなかったようだが、リーダーらしき者だけは見えていたようだ。


「お前らじゃダメだ、俺がやる。下がっていろ」

そう言うと残りの5人は後ろに下がり森の奥へと逃げていった。


「木の上の2人と、森の中に潜んでいる1人は逃がさないんですか?」

レーティアは、初めから潜んでいた3人も感知していた。


「・・・ふははは、それに気づくとはやはり只者じゃないな」


!!!!

ドサドサっ


木の上の2人は木から落ち、森に潜んでいた1人もその場に倒れた。

「貴様今何をした!?」

「何ってほどじゃないですよ。少し眠ってもらっただけです。もちろん逃げて行った5人全員もですけどね」

レーティアは魔力を思念に変える術を身につけたのでそれを応用し、敵の精神に直接魔力を流し込み意識を飛ばしたのだった。


「・・・まさにバケモノ。本気で行かせてもらう」

その男は腰から細身の剣を抜き構えた。

見たことはないけど、何かの剣術の構えのようだ。


!!!

一瞬相手の目付きが重く鋭くなったように感じた・・・

と、その瞬間、相手の剣はレーティアの左肩を貫いていた。


「い、いたいぃぃーー」

相手はレーティアの肩から剣を抜き大きく後ろに飛んだ。


「ふむ、速さで押せるか・・・」

そう呟くと、またあの構えをとった。


レーティアは、またあの見えない速さの突きが来ると警戒した。

!!!

その瞬間、目の前を血飛沫が舞う。

正確無比に先程と同じ箇所に剣が刺さっていた。

「うぐぅあぁぁぁーーー!」

傷口を再びえぐられるのは相当な激痛だった。

レーティアは大きな叫び声をあげた。


「化け物かと思ったのだがこの程度か・・・」

そう呟くと三度あの構えをとる。


クスクスっ

レーティアは叫び声を止め笑った。


「気でも触れたか」

「馬鹿の一つ覚えも大概ですよ」

「負け惜しみにもなってないな」


その言葉を発した瞬間、剣はまたもやレーティアを襲う・・・

はずだったが、そこには折れた剣先が左足に刺さったリーダーが地面に転がっていた。


「ば、馬鹿な・・・一体何が!?」

「あなた、時間をスキップしてるんでしょ?」

!!!

「何故それを・・・」

「あんな不自然な動き何回も見せられたら馬鹿でも何かあるのに気づくわよ。私の先生が時間をスキップする能力が存在する事を教えてくれていましたからね。もちろん対処法も。まさかその能力に出くわすとは思いもしなかったですけど」


「クソっ!無敵の能力のはずなのに、こんな小娘に破られるとは・・・・・・」

相手に戦意が無くなったと分かると、レーティアはレイナスの元へ急いだ。


「・・・殺さないのか?」

レーティアは軽く首を傾げ考えた。

「あなたを殺す事になんのメリットもないわ。むしろ後始末が大変」

「ダメージが回復したら殺しに行くぞ」

「うーん・・・死にたいならそうすれば?」

レーティアは凍るような目付きで問いかけた。


蛇に睨まれたカエルとはこの事を言うのだろう。

死をも意識させるほど冷酷な目力に押しつぶされ何も言い返せなかった。


レーティアはレイナスの元へ駆け寄った。

「レイナス!大丈夫!?」

「あぁ・・・レーティア助けに来てくれたのね、ありがとう」

「私の鱗の魔力のせいで、魔族と間違われたのね」


ふるふる

レイナスは首を横に振った。

「私とレーティアが戦ってるところを見られていたようで、あの後無事だった事に疑問を持った奴らがなにか特別な取引でもしたと勘違いしたみたい。色々情報を聞き出そうと迫ってきて、それを否定していたら、とうとうキレて私たちを消し去ろうと強力な火炎魔法を打ってきたの。そしたらレーティアにもらったお守りの鱗の不思議な力で守られてた。奴はそれを見て鱗を奪おうとしてこんな事に・・・・・・」

「それってやっぱり私の鱗のせいじゃん!」

レーティアは思わず突っ込んだ。


アハハ

「そう言えなくもないかもだけど、鱗があってもなくてもどうせこうなってたから・・・」

レーティアはレイナスを優しく抱きしめた。

「ごめんね私と関わったせいでこんな酷い目に・・・」

「それは違うよ。ちょっかいかけたの私の方だから」

「レイナス・・・優しいのね」

レイナスは微笑んだ。


「レイナスの怪我治してあげたいけど、私治癒魔法使えないの・・・」

「村に戻れば治癒術師がいるんだけど・・・」

レーティアは手をポンと叩いた。

「私が連れていくよ!私も村に向かうところなの」

「ありがと!あの二人は少し小突かれただけだから、少しして目覚ましたら勝手に村に戻るでしょ!」


「ハハハ・・・結構血まみれだったけど」

レーティアは苦笑いしていた


レーティアはレイナスをお姫様抱っこした。

「ちょちょちょ、なんでお姫様抱っこなのよ」

レイナスは顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。

「あらら、こんなの初めてだった?照れちゃって」

「私たちは勇猛な種族だから、こんなメルヘンチックな事をするやつはいないのよ」

「やめようか?」

「恥ずかしいけど、こんな事されるなんて思いもしなかったから、ちょっぴり嬉しいかも・・・」

「なら、このまま行くね」


そう言うとレーティアは超スピードで村へ向かった。

「ひえぇーーーあばばばばぁうぉおぁぁーーー」

レイナスの顔は物凄い風圧で顔芸かと思えるほど酷い顔になっていた。

そのスピードの凄さに、ときめいていた乙女心は全て吹き飛んだ


その甲斐あって、ものの数分で村に着いた。

村の入口に看板があり"ルルブッチ村"と書かれていた。

レーティアが村に入ろうとしたら、レイナスがストップをかけた。

「さすがにこの状態を村の連中に見られたら恥ずかしい・・・」

「なるほど。なら歩ける?」

レイナスは足をクニクニ動かしてみた。

「うーん・・・歩くのは無理かな・・・」

レーティアはレイナスをひょいと持ち替えておんぶした。

「これでいい?」

「うん、さっきよりマシかな」

・・・・・・。

レーティアは固まっている。

レイナスが顔を覗き込むと、レーティアは何やら落ち込んだような表情だった。

「何?何があったの??」

少し間があったが、レーティアは呟いた。


『おっぱいでかい・・・』


レイナスは思いもよらない言葉に恥ずかしくなり、レーティアの頭をポコポコ殴った。

「痛い痛い」

「レーティアが悪いのよ!突然変な事言うから・・・」

レーティアの背後にいることをいい事に、レイナスは後ろから手を回しレーティアの胸に手をやった。

「ひぃぁ!」

想定外の反撃で不意打ちされたレーティアは声にならない声で驚いた。

「もう!何するのよ!」

「お互い様だよ!」

レイナスはニヤニヤ笑っている。


レーティアは、ほっぺたを膨らましプリプリしていた。

「むーー私は触ってないのに!こうなったら、えいっ!」

レイナスを背中から持ち替えた。

フニフニ

「ひーーーー」

レイナスも裏返った声で驚きの悲鳴をあげた。

「や、柔らかい・・・・・・」

レーティアは、自分の胸を揉んでみたがそのぺったんこの胸には、レイナスのような極上の柔らかさはなかった。


「うぅぅ・・・・・・」

レーティアは涙こそ出ていないが敗北感全開で泣いている。

「レ、レーティア、その、大きければいいってモノじゃないから」

「でもぉ・・・」

レーティアはさらにフニフニした。

「はうぅぅ、レーティアやめてー」

レイナスも負けじとやり返す

フニフニ・・・

(とは言うものの、揉めるほどない・・・)

「んむむ・・・」

レーティアは、レイナスの微妙な顔つきが目に入った。

「あーーー、今絶対胸ない、ぺったんこで揉めないって思ったでしょ!」

「え!?あ、えっとー・・・・・・思った・・・」


・・・・・・。

・・・・・・。


「「アハハハハ!」」

2人はお互い通じあった事が楽しくて嬉しくなっていた。


「お主ら村の入口で何をやっとるんじゃ?」

「うげっ、村長・・・これは、その、あの・・・」

「年頃の娘が白昼堂々と・・・・・・」

「あ、う・・・・・・」

「わしも混ぜてくれ!」

村長の手が2人へ伸びる。


パァン!

レイナスとレーティアは村長の顔をひっぱたいた。

「ひょえーー」

村長の顔は両側からのビンタでサンドイッチ状態

「馬鹿かお主らは!冗談に決まっとるじゃろ!」

そうは言うものの目は嘘をつかないものだ。

2人は白い目で見ている。

「・・・・・・ごめんなさい」

村長は謝った。


「と、レイナスよ、えらくボロボロじゃが何かあったのかな?」

「ええ。森でレーティアと別れたあと、何者か分かりませんがフードとローブで身を隠した7人ほどの集団に襲われました。そいつらに殺されそうになった所にレーティアが戻ってきて助けてもらったんです」


村長は目をつむりながら考えている。

「なるほどの。それで体で礼をしておったわけか」


ドカッ!

レイナスはグーで殴った。


「イタタタ、本当に冗談の通じんやつじゃの。だからいつまでたっても嫁に貰ってもらえんのじゃ」

「余計なお世話です!」


「と、そいつらに心当たりはあるのか?」

「いえ、全く・・・。ただ・・・・・・」

(レーティアとのこと話したらレーティアが魔族だとバレてしまう)

「ただ?」

「以前どこかで手に入れたこれを奪おうとしてきました」

そう言ってレーティアから貰った鱗を見せた。

「ほう・・・これは何かの鱗かの?なんの鱗かわからんがとてつもない魔力が宿っておるのぉ」


「奴らはこれをよこせとしつこくて、鱗を渡すのを拒んでいたら、痺れが切れたのか一撃で消し炭になるかと思うほどの火炎魔法を打って来たんです。しかしこの鱗が守ってくれた」

「これをどこで?」

「ただ、キレイだなと思って拾っただけなので、いつどこでだったか全く覚えてなくて・・・」

レーティアは自分の事を隠して庇ってくれていることにホッとしていた。


「ふむ・・・。恐らくじゃが、そいつらはイルクリプスの裏の者達じゃろう」

「「イルクリプス?」」

2人共初めて聞く名前だった。


「イルクリプスとは、まあ、あれじゃ。ざくっと言えば、世の中の希少なお宝や貴重品を収集する集団じゃ。そこには表と裏があり、表は遺跡やダンジョンでのお宝発掘、人々を苦しめる妖魔や魔獣を退治し魔力の源になるコアや希少部位の収集など純粋な冒険者集団としての顔、裏は狩猟禁止指定されている善良妖魔・魔獣の密猟、進入禁止区域への密入、殺人強盗などの不正搾取などアンダーグラウンドの活動をしている顔、ただこちらはなかなか表沙汰にならないのでその存在自体不明瞭なんじゃ。レイナスのそれを奪おうとする所を見ると裏の者たちの仕業じゃろ。ココ最近は怪しい動きをしておるようじゃて」


レーティアは困った顔付きをしている。

「厄介なのに目をつけられちゃったね」

「うぅ・・・私何も悪いことしてないのに、酷いよ」


長老はボロボロのレイナスの姿をみておられず声をかける。

「まぁとりあえず治療院でその怪我を見てもらいなさい」

村長がそう言うと共の者が乗っていた馬車にレイナスとレーティアを乗せ、治療院に向かった。


レイナスはふと思い出した。

「そう言えばレーティアって人を探してたんじゃないの?」

「あーーー!そうだった。クラリアスって名前なんだけど背が高い割とイケメンな感じなんだけど、どこにいるのか分からないのよ・・・」

(もしかしてその人も魔族?)

(そうだよ)

「なんじゃ2人してひそひそ話とは」

「あ、いや、そのイルクリプスってのに狙われないようにするにはどうしたらいいかなって」

レイナスのアドリブにレーティアはホット胸をなでおろしていた。

「そうじゃのぉ・・・襲ってきたヤツらが仲間に報告してなければ、敵はそいつらだけになると思うんじゃが・・・」

「あの時あいつに留めをさしとけば良かったかな」


!!!

!!!


「レーティアアイツらと戦って倒したの?」

「ま、まぁね」

レーティアは苦笑いしている。


「なんじゃと!!」

村長は鼓膜が破れるかと思うほどの大声を出した。

「村長いきなりそんなでかい声出すなよ!びっくりするじゃない!」

「馬鹿かお前は!これが驚かずにおれるか!イルクリプスの裏の者を倒せるやつなんて、そうそういるもんじゃない・・・レーティアと言ったか?お主何者じゃ?」


うぅぅぅ・・・参ったなぁ・・・。

(ごめん、私じゃもうフォローしきれない、何とか自力で切り抜けて!)

レイナスがそう言ってるよう思えて仕方ない。


レーティアは焦りに焦って動揺しまくっている。

「な、何者と言われましても、ひ、人探しをしてる、た、ただの冒険じゃですぅ」

冒険者のとこ噛んだ・・・恥ずかしい・・・。


村長は首を傾げていた。

「な、なるほど・・・ボウケンジャー・・・ですか。なんだかとても強そうなご職業ですな」


「そ、そうなんです!魔の手から弱者を守る正義の冒険者"ボウケンジャー"なんです!」

普段ならアホとしか思えないところだが、レーティア渾身の起死回生の一打だった。

「そうなのよ!レーティアはボウケンジャーなの。最初盗賊と間違ってレーティアと戦ったんだけど、私なんか一瞬で負けちゃった!あと、グラビーとフォルカスもあっさりやられちゃうほどよ!」

レイナスは乗っかるようにフォローをいれた。


「あの二人でもか・・・。レーティアさん、そのボウケンジャーと言うのは魔獣の類なども討伐していただけるのでしょうか?」


なんだか話が変な方向に向いてきたわね。

かと言ってこの流れを止めると不自然になるし・・・はぁ・・・仕方ないか。

「はい!魔獣討伐もお受けしております!」


「そ、村長、まさかウラクムモロスを倒せって言うつもりじゃないでしょうね!?」

「そのまさかじゃよ。普通ならこんな若い女の子に依頼するような内容ではないんじゃが、裏イルクリプスの奴らを倒せるお方となると話は別じゃよ」

「レーティア、本当にイルクリプスの奴を倒したの?」


まぁ、そこに関しては嘘じゃないから素直に答えても問題ないかな・・・

「なんか時間をスキップする変わったやつだったけど、大したことはなかったよ。油断して2発貰ったけど余裕だった」


『時間をスキップじゃと!?』

2人はその声のでかさに再び驚いた。

「おい、村長!さっきからでかい声出しすぎんん!ショック死させるつもりか!」


「そんなことが出来るのはデケムファングの頭のテレボ・ロアしかおらんぞ!」


・・・・・・。


「すまん村長、さっきから聞いたことない名前ばかり出てきて、私には何が何だかサッパリだわ」

「私もです」


「全く・・・お主らも冒険者ならそう言う所の情報は知っておくもんじゃよ。デケムファングと言うのは裏のイルクリプスでありながら唯一、裏に徹せず堂々と非道の限りを尽くす最悪最狂の無法集団じゃよ。その頭がテレボ・ロア、時間を飛び越える能力を持っておるが故に無敵無敗の男として有名じゃ。奴と刃を混じえて生きておるだけでも奇跡と言うのに倒してしまうとはのぉ・・・」


2人は返す言葉もなく黙りこくっていた。

そんな話をしているうちに治療院に着いた。


「ほれ着いたぞ」

レーティアはレイナスを抱きかかえ中に運んだ。


中から受付の人がでてきた。

「あらら、なんてボロボロなの!?死んでる?」

「死んでません!」

レイナスは思わず突っ込んだ


受付の人に案内され、奥の治療室に向かった。

「ここから先は一般の人は入れませんので外でお持ちください」

そう言われ、レーティアは待合室に戻った。


5分ほどした頃、さっきの受付の人がきた。

「安心してください、命に別状はないそうです。ただ、肉体へのダメージがかなり酷いようで5日間はヒーリングルームから出られないそうです。ですので今日のところはお帰りになって、5日後に迎えに来てくださいますか?」


まあ、さっきまであの様子だったのでそこまで心配はしていなかったけど、命に別状はないと聞いてホッとした。

「わかりました。5日後に迎えに来ますのでよろしくお願い致します」

深々と頭を下げ、治療院を後にした。


よくよく考えたら、行くところもないし、泊まるところもない。

今日明日の宿代くらいはあるけど5日は厳しい・・・。

村長さんに声掛けとけば良かったな。

とりあえず、今日は宿に泊まって後のことは明日考えよう!

そうと決めたら早速宿屋へ向かう。

宿泊の手続きをして部屋に入り一日の疲れを癒すのだった。

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