第121話 親友の幸せ

「この人が俺の彼女の柊椿さんだ」


「純君から常々お話は聞いております。はじめまして、柊椿と申します」


「お、おう? あ、はい。純の友人の欅颯です。……あー、純。ちょいこっちこい」




「なんか久しぶりにストバス誘わて来たけど、どういうこと?」


「ん? 彼女自慢」


「帰っていい?」


「ごめんごめん。9割本気だけど、一緒に3on3に付き合って欲しくて」


「何故俺。ここにいる奴適当に捕まえればいいだろ」


「椿さんさ、第一印象どう思った?」


「おっとりしてる」


「……そういうの颯のいいところだけど、見た目的に」


「可愛い人だな。年上とは思えない」


「はあ……。えっとな、椿さんな、身長140後半なんだよ。バスケって身長は悔しいけど大事な要素じゃん。多少小さくてもいいかもだけど、椿さんぐらいになると、ね」


「そういうもんか。体格より技術と精神力だと思うんだが。まあ、そういう意味だとストバス続けてるお前の彼女さんってすげえメンタルだな」


「そう。そこに惚れた! 好きな事を周りになんと言われようとも続ける気持ち! そして体格差を埋めるための技術!」


「なんとなくわかったから。一々惚気るな。3人目が中々見つからないから手っ取り早く俺を呼んだんだろ」


「んー。まあ、今はそれでいいか。で、一緒に組んでくれる?」


「このクソ暑い中コートに来て、そのまま帰るほうがアホらしいわ」


「よっしゃ!」




「おチビお姉さん懲りずに彼氏に頼ってバスケしにきたの? しかも助っ人? でそんなガタイの良い兄ちゃんまで呼んで? そこまでしてバスケしたいの?」


「――あ?」


「颯、ステイ。大丈夫だから」


「はい。私はバスケが大好きですから」


「彼氏さんと見慣れない顔の兄ちゃんさー。女の前で格好つけたいのはわかるけど、ちゃんと言ってあげないと。『好きだからって理由で巻き込まれても困る』って。俺らも迷惑だしさ。こんなオチビがいるのはさ」


「よし、潰す」


「あ、颯のスイッチが入った」


「どうせなら賭けようぜ。俺らが負けたら3人ともコートに一切来ない。代わりに、あんたらも同じリスクを負え」


「はあ? このコートで一番の俺がなんでそんな――」


「友人の彼女をそんな馬鹿にする口はあるのに、プレイに自信はないと。笑うしかねえわ」


「……後悔するなよ? 新顔にそこまで言われたら引き下がれねえ。こっちのメンツは最強で行くぞ」


「はいはい。コート空いたらさっさよはじめようか」




「ちょっと! 聞いてねえっすよ! あの欅がいるなんて、無理っすよ!」


「はあ? あんな身長だけでかいだけの奴に何ビビってるんだよ」


「パース。あの欅と榊が組んでる時点で無理ー。せめてその『負けたらこのコートに来ない』みたいな賭けはあんただけならやってあげてもいいけど」


「お前まで!? オチビ女のハンデまであるんだぞ!?」


「じゃあ、負けたらこの後オールで飲みで。全部あんたが支払い。あと次のコートも探してね」


「あ、それなら俺もやる!」


「負ける訳ねえんだからそれはいいが」


「あーあ。家から近くて、最近やっと周りのレベル下がって勝ちやすいコートになったのに。安い居酒屋で済ませないからな」




「先行後攻はコイントスでいいんだよな」


「ああ、もちろ――」


「ジャンケンとかダメっすか!?」


「おい、なんで」


「やめとけ。コイントスがこのコートの基本ルールだ。小細工したら余計に居辛くなる」


「……? まあ、審判、投げてくれ」


「ハンデだ、裏表選ばせてやるよ」


「は? じゃあ裏だ」


「あざーっす」


「コイン表、榊チームの先行!」


「出た出た。『コイントスの意味がない男』」




「欅を二人でマークだな。榊がポイントガードなら一瞬でスリー決められる」


「とはいえオチビのお嬢さんを無視ってどうなの。あの榊だぞ。それぐらい読まれてるだろ」


「俺がオチビさんに付けばいいだろ。190cmがマークつけばあのノッポ君にパスがいくだろ」


「だと良いんすけどねえ」




「ほい、颯」


 パスを貰うが、二人にマークされスリーもドリブルも難しい状況だった。

 ちらっと状況を見るが、柊さんには喧嘩を売ってきたガタイの良い男がぴったりマークしていた。

 馬鹿にしていたくせに、マークしないなんて愚考をしないあたりある程度まともなのかもしれない。

 だが、俺から言えばある程度でしかない。

 マークを外す動作をフェイントで行い数秒稼ぐと、純は当たり前のようにゴール下、しかもこの位置からパスのしやすい位置に走る。

 それを察したガタイの良い男は柊さんから純にマークを変えようと全力で走る。

 その隙に、俺は柊さんにパスを出す。

 

「ありがと」


 そういうと柊さんは見惚れるほど綺麗なフォームでスリーを投げた。

 すぱっと、リングに触れずネットの音だけ響いた。


「楽しいよね、バスケって」




 あとは一方的だった。

 柊さんはその体躯と持ち前の俊敏性でオフェンスファールを誘い、相手はどんどんと追い込まれていく。

 俺と純はいつも通り、いや柊さんのおかげでさらに動きやすくなった。

 相手の得点を許さず、こちらはスリーを含めて点を決めていけば勝負の結果なんて目に見えていた。




「言い訳ぐらい聞くけど?」


「榊欅ペアがやべえのなんてこのコートじゃ有名だし! 元々無理ゲーだっての!!」


「そもそも俺は柊さんがこのコートにいるのは問題ないと思ってる。というか、ちょっと尊敬してる」


「おい、お前らっ!?」


「確かにさー、確かにバスケって身長って大事じゃん? でもそれってストバスに関係ある? 好きだからバスケするんしょ?」


「だから参加した。俺らが参加断ったら、適当な奴とチーム組んでこの馬鹿はやってただろ。それだと、周りは見ていて納得しない」


「で、あんたは? 身長だけの人?」


「……まぐれだろ」


「負けた時、奢れって言ったでしょ? いいや。もうあんたと顔合わせたくないっすわ」


「同じく。身長しかない奴とバスケも、そもそも一緒にいくたくねえ」


「今更っすけど、柊さん。俺はこのコートで自由に遊んでいてください」


「スリーの成功率もですけど、その瞬発力は武器です。このコートでも上位のプレイヤーです」




「んー、なんか私の事のなのに、私が置いてけぼりなんだけど?」




 俺も含めぽかーんとした。




「負ける気がしなかったから、もし私たちが負けたらって話は納得よ? でも私たちが勝ったらってのは何かおかしくない?」


「いや、でもそういう約束で」


「うん、対等な約束がないと今日の試合できなかったかもね? だから? 私は別に君たちがコートを去って欲しいなんて思ってないから」


 だから、また一緒に試合しましょ。

 そういう自愛に満ちた柊さんの笑顔でこの場が収まった。




「純が柊さんと付き合った理由なんとなくわかった」


「でしょ?」

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