第27話 鎌倉良い所ぜひおいで※平日に
「ねえ知ってる? 鎌倉駅で降りると人混みが凄いから、北鎌倉で降りてちょっと歩いたほうが鶴岡八幡宮に辿り着きやすいんだって」
「はあ、そうっすか。でも今日は一般的には平日なんで鎌倉駅で降りますからね。あと東口に行くつもりないっすから」
「えっ? 鎌倉っていったら小町通りと鶴岡八幡宮でしょ」
「まあ、なんとなくそんな気がしてたんで今日はセンパイに鎌倉の良さを教えてあげます」
「あれ? キミ結構鎌倉通ってるの? てかちゃんとデートコース考えてくれたんだ」
「鎌倉は好きですよ。人混みさえなければね。で、その『多分鎌倉って東口出ておけばいいんでしょ』って所は飽きるほど来てるんで。デートコースと言われると、まあそうかもしれませんが、今日は俺に付いてきてくれますか?」
「もちろん! でも意外。キミなら『センパイが行きたいところ行けばんじゃないっすか』って気乗りしてくれないと思ってた」
「わざわざ外出してそんな無気力で観光地に行くとか正気かよ。だったら断って家に引きこもるわ」
「そういう真面目な所、キミのいい所」
「あざっす」
横須賀線自体の乗客率は平日ということもあり、一車両に十数人程度だった。
だがグリーン車を含め15両編成の長い車両だ。そのうちの大多数が鎌倉で降りたら?
それが十分間隔ぐらいに走っていたら?
鎌倉駅は平日にも関わらず観光客でいっぱいだった。
日本人より海外の観光客が多いように見える。
東京駅、もしくは品川駅から電車一本で行ける日本らしい観光地と思えば、まあそうもなる。
ホームの長蛇の列をゆっくりとしたペースで降りると、周りの大半は東口に向かって行った。
一方で俺とセンパイは反対の西口へ。
ほとんど、というか俺たちぐらいしか西口改札に向かわなかった。
改札を出ると、わりと普通の田舎町と言った風景だ。
まあ、駅出てはい観光地ってのはむしろ珍しいと思う。
そんな人気のない西口だが、見所はたくさんある。
その中でも、あまり知名度が高くないところをセンパイに案内しよう。
「ここが佐助稲荷神社です。鎌倉の穴場ですが、パワースポットなるものでは鎌倉で一番だそうです」
「凄い。鳥居がずーっと続いてる。あと狐のちっちゃい置物がたくさん」
「じゃあ行きましょう。結構階段長いんで気をつけてください」
俺は手を差し伸べた。
センパイは添える程度に握ってくれた。
「なにそれ。キミらしくない。私と手を繋ぎたいの?」
「センパイの靴だと階段危ないかなって。すんません、スニーカーみたいな、歩きやすい靴にしてって言っておけばよかったですね」
センパイの靴は平べったいパンプスだった。
ヒールよりはマシだろうけど、この足元がおぼつかない階段だと転ぶ可能性がある。
「いいけど。てか本当にデートとしてエスコートしてくれるんだ」
「男女が遊びに行く事をデートと言うなら、これは周囲から見たらデートなんですかね。俺は付き合っている男女が遊びに行く事をデートだと思ってるんで微塵も思ってませんが」
「ごめんキミの性格を考えたら水をさすべきじゃなかった。さ、案内してね」
「うっす」
幾つもの鳥居と無数の狐の置物に迎えられ、センパイとゆっくり階段を昇る。
実の事、連休やましてやゴールデンウィークですら閑散としている穴場なので、俺たち以外の参拝客はいなかった。
誰ともすれ違うことなく昇りきる。
そしてお互い手水をすませ拝殿へ向かいお賽銭と二拝二拍手一拝を行う。
「神様に何かお願いした?」
「彼女できますように」
「神頼みか!」
「本当に神頼みしたいなら、階段前の下社が縁結びとして有名なんでそっちに寄りますから、お気持ち程度です」
「その情報先に言おうよ!? それなら私もそっちにも行きたかったよ!」
「男嫌いなのに縁結び? まあどうせ降りるんでその時寄りましょうか。本当はこのまま昇ってハイキングコースと合流してもいいんですけど、多分その靴じゃ無理っすね」
「あー、なんかごめん」
「謝られる理由がわかりません」
「私の靴で、手を繋いでもらったり、行きたいところ変えたり――」
「変にしおらしくするな。いつも通りでいてください。靴の事は俺がセンパイの普段着をまったく想定しないで、俺の勝手でルート決めただけです。どっちも悪い――いえ悪くないです。ちょっと遠くに出かける時ぐらい、多少のルート変更は当たり前です」
「……ほんと、キミに彼女ができたら、その彼女さんは幸せだろうね」
「出来ない理由センパイですけど!?」
最後に二人でおみくじを引いた。
驚くことに、お互い大吉。
「恋愛、すぐそばに」
「恋愛、待て」
おみくじって大吉でも言われてる事が大吉っぽくないこと多いよね
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