第五話―⑥ 予期せぬ再会
「ちょっと、双葉! いきなりあたし
「うわ、ごめん、みんな!」
怒鳴り声と共に、三人の少女がこちらに走り寄ってきた。
「……ったく、しょうがないんだから!」
先頭に立っている三つ編みの女の子が、彼女達のリーダー格なのかな。ムスッとした顔をしつつも、その表情にはどこか諦めが混じっている。きっと、双葉の奇行にも慣れっこなのだろう。うん、妹がいつも面倒をかけてごめんなさい……
「ごめんね、晴斗くん。双葉は、ちょっとそそっかしいところが──」
──って、あれ? どうしたんだろう? 晴斗くんがぽかん、と口を開けて三つ編みの女の子の方を凝視しているみたい。彼女に見とれてる? いや、まさか──
「あはは、ふたちゃん、足が速いですねえ……」
「まあまあ、
私が晴斗くんの態度にうろたえているあいだに、三つ編みの子の後ろにいる、残りの二人が会話に加わってきた。どうやら、彼女を
おっとりした
ああ、そうだ! いつぞや、コンビニの前で
今日も双葉と一緒だったみたいだし、仲良しの友達グループってやつなのかな?
なんとなく彼女達をながめていると、その中のひとり、ショートカットの女の子と目があった。
「んん? おやおや、そちらにいるおじょーさんは誰なん?」
女の子が、私の方を見て首を
「ああ、紹介するね! 私の双子のお姉ちゃん!
わー、と双葉が両手を挙げて叫ぶ。その後ろでは、
「わあ、本当にそっくりさんなんですね。初めまして、私は
「
遠野さんの頭をぽんぽんと
「ボクは
怪しげな笑みを
「ったく、アンタは初対面の人に何を言ってんのよ。ごめんね、若葉さん」
私の
「って、あれ? お姉さんと一緒にいる男の子は──」
有森さんの言葉が途中で途切れる。どうやら、ようやく晴斗くんの存在に気が付いたようだった。
「ああ、この人はね、お姉ちゃんとお付き合いをしている
「
有森さんがいきなり血相を変えて、晴斗くんの前に飛び出した。
「ほ、ほんとだ! 入間くんだ! どうして、ここに!?」
おっとりとしていた遠野さんも、驚いた
ど、どうしたんだろう。気のせいか、目に涙も浮かんでるような……?
「やっぱり、有森さんに、遠野さんかぁ。えっと、本当に久しぶり。元気そうで良かったよ、うんうん」
「あ、あれ? 晴斗君の知り合い……なの?」
まるで死人にでも会ったかのように、有森さん達は慌てている。対して晴斗くんは何だか腰が引けているように見えた。どことなく、ばつが悪そうな顔をしているのは……気のせいだろうか。
「久しぶり、じゃあないわよ、この馬鹿!」
「本当に、心配してたんですよ、
あからさまにホッとした様子で、
「アンタ、携帯の番号もメアドも変えてたでしょ。こっちから連絡する方法もなかったし、どうしているか、気が気じゃなかったのよ!」
「ど、どうしたのさ、二人とも。
「そ、そうだよ、かずっち。何があったのさ」
助けを求めるように、
「……いや、何でもないよ。彼女達とは中学が一緒でね。俺は、途中で転校しちゃったけど」
雲行きの怪しさに気付いたか、晴斗くんがそう、さらっと説明してくれる。
「有森さん、
ぱん、と両手を合わせて、晴斗くんが有森さん達に謝った。
けど、彼女達はだんまりだ。頭を下げる晴斗くんに対してノーリアクションである。
さっきまですごい
そう思ってちらりと見ると、彼女達は目を見開き、戸惑ったように立ち尽くしていた。
あれ、なんでだろ。有森さん達、すごくびっくりしているような……?
「そういうことだから……ね?」
「あ、う、うん」
晴斗くんが片目をつむると、有森さんと遠野さんはお互いに顔を見合わせた。
そうして、おずおずと
あの、意味ありげな視線はなんだろう? 彼女達と晴斗くんの間に、何かあったのかな。何だか、仲間外れにされたみたいでもやもやする……むう。
「おっと、ごめん」
私の視線に気付いたのか、晴斗くんがおどけたように笑った。
「心配しなくても、俺は
「んなっ!?」
ば、ばかっ! こんなところでいきなり何を言うの!?
「まったく、俺の彼女はやきもち焼き屋さんでしかたないなあ!」
モテる男は
「な、何よ! 私に隠れて、え、えっちなゲームとかしてるくせにっ! そんなんでイケメンを気取るとか、なんなの!? 調子にのらないで!」
「わわわっ! そそ、それは言わないお約束でしょ!?」
途端にモテ男の仮面が外れ、慌てだす
「あれ、お兄さん。エロゲーとかするん?」
「あ、その。紳士の
目をきらり、と光らせて
「へえ、どんなジャンルが好みなの? その辺を語らせたら、ボクはちょっとうるさいよ? 調教系とかいいよね!」
「いや、俺は純愛専門っすから! 鬼畜お断り!」
「またまた、彼女の前だからって気取らなくてもいいんよ?」
うへへ、と
「もう、ちなっちゃんはそういう会話になると、目の輝きがちがうよね。ていうか、それ十八歳未満はやっちゃいけないゲームじゃないの……?」
双葉の疑問を華麗にスルーし、新田さんは晴斗くんにお
どうやら、彼女はゲームやアニメが好きらしい。初対面にもかかわらず、二人はすっかりそれらの話題で盛り上がっている。
若い女の子たちに人気なケーキ屋さんのその前で、女子高生と男子高校生が十八禁なゲーム談義をしている姿は、絶妙にシュールだ。お客さんとおぼしき人々が、珍獣を見るような目でこちらをチラ見しつつ、そそくさとお店の中に入っていく。
……これ、営業妨害にはならないよね?
そう心配していると、いつのまにやら、双葉も彼ら二人の会話の輪に入り、お喋りを楽しんでいるのだから、たいしたものだ。周りの目なんて、気にもしていない。
意外な事に、双葉もそこそこゲームを(えっちなのではなく!)やっているようで、晴斗くん達の会話に入り、時折
相変わらず、誰とでも仲良くなっちゃう人だ。
ちょっとだけ、新田さんや双葉が羨ましいかもしれない。
うーん……私も、もっとアニメやゲームに触れておくべきなのかな?
そう思い、取り残され組である
「あ、あいつ……変わったわね」
「本当に……別人みたいです」
彼の様子を見て、有森さん達は目を見張っているようだ。
先ほどからの会話や、意味ありげな態度。ああ、もう! 我慢も限界だ。
「あ、あのっ!
「え? あ、うん」
「彼って、中学時代はどうだったんですか?」
「あいつの中学の頃? そうねえ……」
ふっ、と。有森さんが遠い目をする。
「何というか、今のアイツとは全然違うわね。昔は、もっとオドオドしてたし、どちらかと言えば根暗だったわ」
「うん、大人しい人でしたよ。何かあるたびに、
有森さんの後を引き継いで、
え、昔の晴斗くんはそんな性格だったの? それじゃあ、まるで──
「でもね、ちょっとずつ頑張っていましたよ、
「そうね、中二に進級した頃にはイジメも軽くなってきたし……気弱な所だけは、なかなか変わらなかったけどね。もう少し、あのウジウジした態度が何とかなれば、といつも思ってたわ」
「ふふ、和ちゃん、波川くんと一緒によく勉強や宿題、手伝ってあげてたものね」
「あんまり駄目のダメダメだったから、見兼ねてね。その代わり、英語だけはアイツ得意だったから、教えてもらえたし。まあ、持ちつ持たれつだったわ」
二人は顔を見合わせ、懐かしそうに笑い合った。
「お父さんが英語の教師だから、それだけは得意なんだって照れてましたっけ。ほら、入間くん、お母さんがいないじゃないですか。だから、家事とかやらなくちゃいけなかったみたいで、勉強にまでなかなか身が入らなかったとか」
「──え?」
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