チセさん、愛してるよ

早藤 祐

第1話 2020年5月24日(日) 神戸総合大学深江キャンパス

 大学祭閉会式。ティエンフェイは前日に音楽ライブ部門のベストアクトに選ばれており締めのライブ演奏を任されていた。その演奏も大盛り上がりの中終えて楽屋にしていた体育館の部屋へ戻った所、ミフユの妹のミアキが両親を引き連れてやって来た。昨日もミアキは来ていたので二人を案内して来たのだ。


 ミフユを見た母親の春海は苦笑しながら言った。


「ミフユ、歌はとっても良かったわよ。こんなに歌が上手いだなんて、よっぽどバンドの人の練習法が良かったんだ」


「ねえ、お父さんはどう思ったの?」

 ミアキが父親の守雄に尋ねた。守雄は微笑みながら肩に掛けていた小型のバッグを大事そうに担ぎ直した。


「ミフユも、ミアキだったとしてもそうだけど、どんなに歌が上手くても下手でも全部よく聞こえるからお父さんには答えられないな。親の贔屓ひいきの引き倒しって奴で公平じゃないからね。バンドの人たちは皆さんいい音楽だと思うよ」


 お父さん、そういう所は普通に誉めておけば良いのに。真面目なんだからと思うミアキ。


 春海は少し遠い目をしながら言った。


「ミフユ、バンド内の名前にお母さんの名前使ったんだ。私も音痴で千裕父さんも大概だったけど、お母さんどうだったかなあ」


 そんな会話をしているうちに守雄がバッグからカメラを取り出した。中にはビデオカメラも入っているのが見えた。


「記念にみんなで一枚撮っておこうか」

「ちょ、お父さん。まさかステージ撮ってないよね?」


 青ざめるミフユ。それを見た妹が満面の笑顔で威張って答えた。


「私が昨日、バンドの人通じて撮影とかダメ?って聞いてもらって許可は取ってもらったよ」


 そういってミアキは「撮影許可」と書いてある大学祭実行委員会の許可腕章を自慢げに見せて来た。


 あー。誰よ。そんな余計な手伝いしたのは!

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