古からのイニシエーション

~~~~~~~~~~~~~~ツクヤ視点~~~~~~~~~~~~~~~



「仮面フレンズ・デオキシ!

パークもお前も、必ず救ってみせる!」


ヒーローが現れた。

デオキシ…悪を力で駆逐する粛清者の名前ではなく、パークの自由と平和を守る守護者の名前だ。


目の前の怪物イビルズは俺が昔聞いた話ではデオキシが持つカプセルと同じ物を遺伝子に適応できなかったヒトに注がれることで生まれるらしい。


俺はヨウにその説明をした。


「…そういうことで、あの怪物も元はヒトなんだ…。」

「そうだった…前にチラッと聞いた気がするね…」


だからヨウの父さんケイスケおじさんは『お前も』と言ったのか…


「二人とも、安全なところに隠れていろ?

こいつは俺がなんとかするからさ。」


おじさんはそう言って俺たちを安全なところに隠したが…傍観するのが好きじゃないヨウがそれを黙って聞くかどうか…


「離して!ツクヤー!」


…なんて考える暇もありませんでした。

今俺がヨウを引っ張って連れて行っているところだった。


「セルリアンとは訳が違うんだ、だいいち俺たちは武器も出せないしフレンズの力を使うわけにもいかないんだ。」

「どうして?」

「この時代にはフレンズとヒトのハーフなんて存在しなかったはずだ、俺たち以外のハーフなんて聞いたことがない。」


ヨウは散乱するカフェテーブルに隠れながら俺の話を聞いていた。

…そうこうしている間にもおじさんはイビルズとの戦いを繰り広げていた。


「はっ!オラァ!」


スマートな蹴り技で吹っ飛ばしてからワイルドな跳び蹴りを炸裂させるデオキシ、コウモリのイビルズは音波のようなエネルギー波で応戦するものの簡単にかわされていた。


「読めてるぜ?

隙だらけだ!!っしゃオラァ!!」


さすがはヨウの父親というか…ヨウの元気な部分はおじさん由来だというところがよくわかる。


「でりゃりゃりゃーっ!!」


ラッシュ攻撃でイビルズを追い詰める、そろそろトドメに入るかと言う時…


「ツクヤ…あれ!」

「なんだ?な…!?」


もう一体、バットイビルズが屋根の上から奇襲せんと待ち構えていた。


「お父さんが危ない!」


ヨウは俺が止める暇もなく隠れ場所から飛び出してイビルズへ向かって走っていった。


「ヨウ!?」


一方のイビルズは今まさにおじさんに目掛けて飛び込んだところだった。

ヨウはそれを見ると、カフェテーブルを踏み台にしてジャンプした。


そして…


「だぁぁぁっ!!!」ゴッッ!!


空中でかかと落としをしてイビルズを真っ逆さまに叩き落とした。

そしてフレンズの力を一瞬使い、体制を立て直しつつ着地した。


「ヨウ!?お前何を!?」


突然落ちてきたイビルズとそれを叩き落としたヨウに気が付いたおじさんはびっくりした声をあげていた。


「はぁっ!!」


そんな己の父親をよそにヨウは起き上がってきたイビルズに身軽なハイキックを喰らわせた。

イビルズは地面に叩きつけられ、さっきいた個体の隣に倒れ込んだ。


「なんだか知らないが…トドメは俺に任せてくれよ、俺がトドメをさせば二人とも元の人間に戻れるんだ。」


そういうと、身軽に後ろに下がった後サーバルの得意技の大ジャンプをした。


『D!N!A!アタック!』


まだデオキシ最大の覚醒技、エボリューションを使っていないからかシステム音から流れる言葉も違っていた。


「これで…終わりだっ!!」


必殺のキックが二体に炸裂、二体のイビルズは爆発したのち人間の姿へと戻っていった。


「ほっ…と、お仕事完了!回収回収っと」


おじさんは腰に付いているホルダーから空のカプセルを取り出して、二人から出る光の粒子のようなものを吸い込んだ。


「何をしてるんだ?」

「ん?これか?

元々イビルズが使うカプセルも元は研究所から盗まれたものなんだ、だから回収するんだ。」


成る程…


「それに、放出されるエネルギーを放っておくと生態系を破壊しかねないからな?」


おじさんはお喋りでテキトーな自由人のような振る舞いが目立つ反面、時々賢いことを考える人だ。

回収をし終わると、おじさんはヨウと一緒にイビルズにされていた2人に声をかけた。


「…2人とも、大丈夫か?」

「ぁあ…?僕は一体何を…?」

「・・・。」

「あっ、気がついたみたい!よかった〜」


1人はヨウたちの言葉に応じてたが、もう1人はおじさんをじっと見ていた。


「!!」

「おい!?どこ行くんだ!?」

「ちょっとー!?」


そのもう1人は、突然立ち上がって去っていってしまった。彼は後から加勢しに来た方か…

服装からパークの職員では無さそうだな…。


そしてこっちの人は…


「えっと…」

「動けるか?」

「はい…」


この服装、この帽子…パークのスタッフで間違いなさそうだな。


「気がつくよりも前、何か思い出せることは?」

「うぅん…担当しているフレンズたちの体力測定が終わって書類を提出して…そこから記憶が曖昧ですね…」


担当、すなわち飼育員か。どうもあの姿になる前の記憶は抜けているらしい。

変身を解いたおじさんが病院に連絡をすると、救急車が来て飼育員を連れていった。


「ふう…これでホントにお仕事完了だな。

それにしても変だな…」

「何が変なんだ?」

「カプセルってのは一つの生物につき一つしかカプセルは無いんだ。でもイビルズはどちらもバット…すなわちコウモリだっただろ?」


言われてみれば…ん?

おじさんのホルダーのカプセル、なんか震えていないか?


「おz…ん"ん"っ…ケイスケ、カプセルの様子がおかしいんだが…」

「ん?カプセル?」


危なかった、おじさんって呼び方に呼び慣れすぎてたな。

このおじさんの意味合いは従兄弟や友達の親という意味合いの方が近いかもしれない。


「(おじさんって言いかけた?)」

「(しーーっ)」


おじさんがカプセルを取り出して見ていると、紫色に光っていたカプセルは無色透明になってしまった。


「ああ、コイツはいわゆる量産型って奴だな…」

「量産型?」

「なにそれ?」

「大元の遺伝子からコピーして早く沢山作ることだけを考えたゲノムだな、多分。」


ああ、そんなものが…!?


「一体目の個体に加勢しに来たのは?」

「それなんだよな…そんな都合よく加勢しに来るか?と思ってな。」


しかもあの個体は奇襲を仕掛けようとしていた…一体目の個体は真正面から向かってきたが…

コウモリとしての本能故かそれとも…


「さて…コイツは研究班に報告しなきゃいけないんだ。早速向かいたいところだが…ココ、直さなきゃな?」

「そうだな?」

「僕も手伝うよー!」


さっきのイビルズの襲撃によりめちゃくちゃになった広場を、俺たちは15分かけて元通りにした。


〜〜〜





「さて、あと壊されたモノを後々発注してもらうだけだな。」

「ふう、よく働いた…ヨウも終わった…か…え?」


ちょっと待て…


「…????」


いや、そんなまさか…


「ヨウが居ない!!!!」

「なにぃぃ!?」


さっきまでそこに居たヨウが忽然と居なくなっていて、俺もおじさんもビックリした声をあげた。


「やれやれ、デッカい迷子かぁ?」

「探しに行かないと…!」


だが道は二つに分かれている…なんなら途中の道も併せると三つだ。


「手分けして探さないか!?」

「待て待て待て…ツクヤ、お前まで迷子になっちまうだろ?」


そ、そうか…困ったな…

『バサバサバサ…』

ん?なんだこの音…?


「私も手伝うわ、話は大体わかっているもの。」

「ナミちー!…ああ。」

「おっ、良いところに!」


『この時代の』ナミちー…ナミチスイコウモリが空から降りてきた。

昔のナミちーは俺の知るナミちーより大人っぽいな?


「私がこの子を保護していけば手分けして探せるわよ?」

「なるほどな!ありがと!」

「良いのか?」

「いいのよ♪困ってる子は放っておけないわ?」


ナミチスイコウモリ…ナミチーさん?は俺に手招きすると東側へ案内していって、おじさんは反対側へ向かっていった。


「じゃ、そっちにいたら呼びに来てくれ!」

「はーい!じゃあね〜?」


〜〜〜


ナミチーさんにはヨウの見た目の特徴は教えてある、今朝チラッと会ったときに覚えていたそうだ。

そして俺のことも…。


「ヨウー!ヨウ!?」

「ヨウって言うのね、ヨウくーん?」


姿は全く同じだが…口調がかなり違っている…。

ちょっと慣れないな…?


「そういえば…ツクヤくん?だっけ」

「わっ…!?あ、あぁ…ツクヤだが。」


同じ顔でくん付けをされると…なんだかムズムズしてしまう。


「あなたの知っている『ナミちー』はどんな子なの?」

「えっ…」

「キキッ♪聞かせて欲しいな?」


興味津々で質問されてしまった。

…歴史に影響がない程度で抑えないとな…


「簡単に言うと…放っておけないイタズラっ子だな…」

「イタズラ好きなのね?」

「俺が目を離すとすぐに何かしているから…常に頭の片隅でナミちーの事を心配している。」


最初は彼女の一方的な好奇心だった。

その時の俺は、迷惑なわけじゃないから良いか。ぐらいの感覚で共に行動していた…。

でも…


「イタズラの度が過ぎて怪我してないか…とか、俺のいない間にお腹を空かせていないか…とか。」

「後者はイタズラ関係ないじゃない…?

…っていうかそれもう、その子のこと好きなんじゃない!」


…!?

まさかそんな…


「い、いや好きとかそういうのじゃない…!」

「いやいやそれは絶対好きになってるわ、というか自覚なかったのね…」


そんな事言われても、まともに恋愛したのも随分前のことだから…



「…私、応援してるわよ?」

「好きって前提で話をするな……いやでも、ありがとう…。」

「お礼は言うんだ…フフッ、面白い…♪」


…たしかにこの時代に来た時に真っ先にナミちーのことが心配になっていた…

やっぱり彼女の言う通り…なのか…?


「…ならやっぱり俺は…」

「あっ、あの子見てー?」

「お、おい人の話を聞…ん?…ああ!?」


ナミチーさんがこちらの話を遮ってでも指を刺した先には…


「ヨウ!!」


ヨウが同じぐらいの身長の男性と話しながらカフェテーブルのイスに座っていた。


「ツクヤだ!」

「探したぞ、ヨウ…」

「この子がヨウくんね?元気そうな子!」


ヨウは俺の方を振り返ると、まず謝っていた。


「ごめん!さっきの騒動のせいで迷子になってた子を見つけて一緒に探してるうちに2人とはぐれてたみたい…」

「ふー…次からはそういうのは一声かけてから行ってくれ?」

「わかった、ごめんね〜…」


考えるよりも先に動く…実にヨウらしいことではある。

そしてその迷子の子どもは親のところに帰れたらしい。


「おや、この子が君の友達?」

「そうだよ!」


俺がヨウと話していると、ヨウの向かい合わせに座っていた男性がヨウに話しかけた。


「えっと、ヨウをありがとうございます…それで…」


俺はその人にお礼を言いながらその顔を見た。


「ぁ…」

「ん…?私の顔に何かついているのか?」


その人は俺のよく知っている人物…知っていて当たり前…とも言えるかもしれない人物だった…


「いえ、知った人によく似た人だったので…。」



俺の父さん、神楽直人カグラナオトだ……

服装で言ってもあの頃の父さんと比べて、白衣は着ていなかったが綺麗に手入れされたメガネもその人のものだった。


ナミチーさんはその様子を微笑ましそうに見ながら俺に話した。


「友達に会えてよかったわね!」

「ああ、一緒に探してくれてありがとう?」

「じゃ、私はケイスケのところに報告に行くわ?」


ナミチーさんはそう言って、きた道を飛んで行った。

とりあえずヨウに会えて一安心…


「ヨウ、この人とはどうやって会ったんだ?」

「ん?ナオトさんのこと?」


ヨウは三つ目のイスを持ってきて、俺が座ったら事の顛末を話し始めた。


~~~~~~~~~~~~~~~少し前からヨウ視点~~~~~~~~~~~~~





「お兄ちゃん、ありがとう…!」

「バイバーイ!」


ふー、迷子の子がお父さんとお母さんに会えて良かった〜

さて…早く帰らないと2人に怒られちゃうよ。


「あれ…?

あれれれ…???」


僕って…どうやってここまで来たんだっけ…!?

あわわわ…しまった!!ご両親探しに夢中になってたら来た道を忘れちゃった!!


「どうしよう…そうだパンフレット!あっ…」



『ジャーン!紙飛行機!それーっ!』

『わあーっ!!』


…紙飛行機にしてあの子にあげちゃった!!

だって紙がなかったんだもん、ちょっと作りにくかったけど。


「…これは困ったぞ?

いや!僕には口がある。困った時は誰かに訊くのが一番だ!」


と言うわけで僕はこの辺に詳しそうな人を探した。

それから五分後、僕はパークのスタッフらしき人を見つけたから話しかけることにした。


「すみませーん?広場に行きたいんだけど、どっちに行けばいいんだろう?」

「・・・。」


その人は僕が話しかけてもこっちを見るだけで何も言わなかった…

数秒すると、不気味な笑顔を浮かべながら近づいてきた。








「あなたはシアワセですかカカッ…」

「っ!?」ズンッ


僕の中の本能?がこの人から離れろと言った気がした。

この人、なんかおかしい…こっちを見ているはずなのに目が合わないし…あんな笑顔は見たことがない…


「何…!?

こ、こっちくるな…!」ブルブル


怖い、一言で言うとそうだった。

戦うか?でも相手はヒトだよ?


「と、とにかく今は誰かに助けを…!」


力尽くで戦うわけにもいかず、僕は後ろに下がりつつ近くの人を探した。


「いた!」


すぐ向こうに観光客らしいヒトを見つけた、僕はその人のところへ走った。

その人が電話も持っていればお巡りさんを呼ぶこともできるはず!


「あ、あの!すみません!…え…?」

「フフフフフおまえ、仲間じゃないな?ヒヒ」


この人も…なの…?

僕が立ち止まっていると、さっきの人が追いついてきた。


「フフフフフ」

「ハハハハ」



『ズズズズズ…』


2人がうずくまると、その体はさっきのイビルズと同じ姿になった。


「え、えっ!?えーっ!?」


どうしよう…いや、怪物になるって事ならこっちも遠慮はいらない!

…他の人はいない?ヨシ!


「野生…解放っ!!」


フェネック自慢のおおきな耳と尻尾を表して、フェネックとしての能力を解放した。


僕は指を組んで構えて、砂嵐を呼び出した。


「サンドストーム!!」


砂嵐はイビルズを二体とも巻き込んで、建物の壁に二体とも叩きつけた。


「よし、このまま…!」


この先にどうにかしようと、僕は二体のイビルズに向かって走っていった…


だけど


「ギ…!」ズボッ

「ええっー!?」


イビルズのうちの一体が近くにあった看板…道路標識?を引っこ抜いて武器のように振り回した。


「ヴンッ!!」

「い"っ!?」


僕はその道路標識で殴られて、後ろに大きく吹っ飛んで転がった。

ものすごく…痛い…


「う…あ…」


お腹に受けた予想外のダメージで野生解放も解けて、立ち上がれないまま二体がこっちへ来るのを見ているしかできなかった…


「さっきので…お腹が…痛い…」


僕はこのままやられてしまうのか…と思っていた時…


『ブロロロロ…』





バイクの音…?

どんどん近づいてくる…

お父さん…?いや、違うかな…


『ブーーーンッ!!』





ものすごい音がすると、道の向こうからバイクが走ってきた。

そのバイクはイビルズたちに近づくと横向きに滑り、二体ともコケさせて吹っ飛ばした。


「な…なに…?」

「君、大丈夫か?」


バイクに乗っていた人がヘルメットを外して僕のところに駆け寄ってきた。

この顔…どこかで…?


「キミは…だれ…?」

「私は神楽直人…いや、今はそんなことより君の体調だ。」


神楽…直人…!?

その名前…ツクヤのお父さんだ…


「どこが痛い?」

「お腹…ここ…」


僕がお腹を出すと、ナオトさんは二種類の薬を取り出した。


「これは塗り薬、これは飲み薬…少し体を預けてくれ。」


ナオトさんは薬を僕に塗って、飲ませてくれた。

すると体から痛みがひいて、立てるようになった。


「す…すごい…」

「私はまだ正式な医者じゃない故、あくまで応急処置だ…だが君の生命力は驚いたよ。」


僕はもう死んだ体ではないから、怪我がすぐに治るということは無くなったけど丈夫さは元からだったみたいだ。


「さて、次は…」


僕の応急処置?が終わったナオトさんは、起き上がってきたイビルズを見た。


「危ないよ…!」

「心配はいらないさ。」


ナオトさんはそういうと自分のカバンから木の箱を取り出して、その中に入っていたを出した。


「なにあれ…!?」


その鈴は棒に沢山ついていて、ナオトさんが手に持つと綺麗な音を響かせた。


『シャン…シャン…』


するとナオトさんの腰に木と機械でできたようなベルトが呼び出され、腰に巻かれた。


えっ…ベルト…?


「パークの自由と平和を守る者はだけじゃないのさ。

神楽と呼ばれし所以、今見せよう!」


形はデオキシのものに似ているけどどこか古さと新しさが混ざった見た目をしている。


「まさか…!?」


『エンシェントドライバー!』


ナオトさんは鈴をベルトのホルダーに収めると、デオキシと同じくスイッチを押した。



『イニシエーション!!』


えっ…いにしえが何だって?


ベルトがテンション高めの声を出すと、今度は和風なロックみたいな音楽が響いてきた。


「ふっ、はっ!」


ナオトさんはその音楽に合わせてキレキレのダンスを踊り、もう一度ベルトのスイッチを押した。


「変身!」


『チェンジ・エンシェント!!』デデデデーンッ!


和風ロックな音と共に、ナオトさんの体には鎧みたいなものが装着されていった。

最後に頭に龍みたいな飾りのヘルメットがつけられて、変身が終わった…。






「古きをたずね、新しきを知る…

仮面フレンズ・エンシェント!」


ツクヤのお父さんも変身した…!!!

いや、すごくびっくりしてる……。


「来い、霊剣カグヤ!」


ナオトさんが何か念じると、その手元に黄色と紫の刀が限られていた。

イビルズは『エンシェント』に向かって突撃してきた。


「ふむ…」


引っ掻きも標識を振り回す攻撃も軽々とかわしていくと、刀を抜いて一体の後ろに回り込んだ。


「斬り伏せる!!」ズバッ


標識を持っていない方がバタリと倒れると、もう一体は後ろに下がっていった。


「逃がさん!フウウゥ…ッ…」


ナオトさんは刀をもう一度収めると、呼吸を整えるように息を吸った。


「閃ッッッ!!!」


すごいスピードで距離を詰めると、瞬きの暇もない一瞬のうちに刀を抜いて斬りかかった。


黙って見ているのが苦手な僕も、今回はびっくりしたあまり何もできなかった。


「グウウゥ…」「シャー!」

「まだやるか?では、こちらも趣向を変えるべきか…」


そう言うとナオトさんは、鈴が収められたホルダーとは逆のホルダーから石みたいなものを四つ取り出した。


その石はそれぞれ赤・青・黒・白の色をしていた。


「ふーむ…これだな。

貴方の力、お借りします。」


その中から白い石を選んで残りはまたホルダーに仕舞った。

そしてその白い石を鈴に近づけた。


シャーン…

『ビャッコ…!』


石をホルダーに戻して構えを取り、ベルトから聞こえてくる和風とメタルが混ざった音楽に合わせてダンスをした。


「はっ!はっ!」


「ねえ!このダンスって要るの!?」


「要るさ!

カミオロシチェンジ!!」


『カミオロシチェンジ・ビャッコ!!』


ナオトさんが鈴を握って振ると、後ろから白いトラのようなオーラが出てきてナオトさんを包んだ。


するとエンシャントの鎧は白くなって、頭の形もトラに近いものになった。


虎風迅雷こっぷうじんらい

『俺』の速さに痺れてみるか?」


ちょっと待って、なんかキャラ変わってない…?

…と困惑する僕をよそにナオトさんは二体のイビルズに向かっていった。


「せりゃっ!喰らえ!」ズバッ


さっきよりも速くなったスピードで、イビルズの周りを駆け回りながら刀で斬りつけた。


「そらそらどうした!もっと俺を楽しませろ!」ズババババババッ


さっきは一撃一撃が重いって感じの戦い方だったけど、今度は連続攻撃で相手に反撃する機会を与えない戦い方だった。


「ギャアァァァ!!」


イビルズ二体が、痺れながらその場で震えていた。

電気で動けなくなっているのかな?


「畳み掛ける!!」


ナオトさんは刀を収めてベルトの反対側のスイッチを押した。


『必殺成敗!!』


そして…


白虎・九十九斬りビャッコ・つくもぎり!!』


ナオトさんが刀を抜くと次の瞬間には、イビルズは二体ともバタリバタリと倒れていた。

今の一瞬で…どうなったの…?


「Say Goodbye…」カチンッ


ナオトさんは、静かにそれ言って刀を収めて変身を解いた。

そして二体のイビルズは元のヒトに戻った。


「やれ、ちょっとやりすぎたな。

さて、回収っと…」


ナオトさんは変身を解くと、体から出た光をカプセルに吸い込んですぐに倒れている2人の体を調べた。


「ふむ…これは…

何かによって精神を破壊されているな。これは病院に検査を提案しておこう、私のような素人では何もできないからな。」


ナオトさんは自分のことを素人と言っていたが、後の時代この人はパークに住んでるヒトなら誰でも知ってる名ドクターになる人だ…


しばらくして救急車が来ると、2人は病院に運ばれていった。


「さてもう大丈夫…怖かったね?」

「す…」

「す?」

「すっごーい!?!?」


だってすごいじゃん?変身して、やっつけて…

めちゃくちゃ速かったしかっこいいし!


「あれなに!?どうなってるの?

あの刀なに?ダンスは!?カミオロシチェンジって何?」

「まっ、待て…1つずつ説明する!」


ハッ…!僕すっごい質問攻めにしてた!

ごめんなさい!

僕たちは、近くにあったカフェテーブルのイスに座った。


「まずこの刀は霊剣カグヤ、我が神楽家に伝わる刀だ。

この刀は使用者の元へ瞬時にやってくるというところから、戦国時代の武将によって名付けられたんだ。

好きなタイミングで呼び出せるし、元あった場所へ戻すこともできる。」


そういうとカグヤは光と煙に包まれてスーッと消えた。


「神に仕える神職であった神楽家に伝わる伝説では『あるじの望む姿に変わる』と言われているようだが…私は本当は血の繋がってない子だ、正式な継承者ではないのだろう…それ故かその伝説を見たことはない。」


そうだ…僕らの時代に遺された日記には『捨て子だった』と書かれていたっけ…


「竹やぶに迷い込んだ両親が私を見つけた、と聞いている。」


ナオトさんが次に説明したのはダンスについてだった。

そのついでに剣の使い方についても教えてくれた。


「私は中学生の頃までダンスをやっていた、音楽が好きなんだ。

そして剣道も、高校までやっていたな。」


そうなんだ…ツクヤは苦手って言ってたなぁ、僕もナオトさんがダンスするって印象が全くなかったからびっくり…


あ…なんか…思い出せそう…


『パパの動画来た…』

『わあ!今日は剣の使い方だって!』


…そうだ、僕やツクヤが武器の扱い方を知ってるのって、ナオトさんがツクヤを喜ばせたいと武器の使い方動画を撮って送ってたんだっけ…

小さなツクヤはそれを見て嬉しそうにしてた…


「どうした?」

「あっ…いや…なんでもない!」


最後は…その、なんだっけ…

そう、カミオロシチェンジ?仮面フレンズエンシェント?


「仮面フレンズエンシェント…現代科学と神楽家に伝わる術が融合した戦士だ。」

「あっそうだ、イニシエーションって何?」

「イニシエーション… 通過儀礼のことだ。

人を今の状態から新しい状態に変化させるために課す儀礼、とも言えるな。

エンシャントの場合はあのダンスが通過儀礼ってことだ。」


ふむふむ…難しい言葉はわからないから助かる!


「それで…カミオロシチェンジだな。

これは守護けもの様から賜った力の一端を私の身に憑依させる術だ。」

「この石?」

「ああ、私は『エンシェントストーン』と呼んでいる。」


エンシェントストーンかぁ…

というかツクヤのお父さん、あの頃変身してた姿なんて一度も見たことがなかったよ…


「えーっと、じゃあなんか喋り方が変わってたのは?」

「アレか…

まず、守護けもの様の力をお借りするときは自身が力に呑まれないように精神の半分を力に預ける必要がある。

自身の人格に力の影響が入り込むことによって口調にも少々の影響が現れるんだ。」

「少々ではないかも…?」


かなり影響出てたよぉ…


「…それが神に憑依されている、と例えられるからカミオロシチェンジと名付けたんだ。」



ほほーー…興味が尽きないね!

いろいろいっぱい聞いちゃった…!


「…で、私から訊くタイミングを失っていたのだが…君の名前はなんて言うんだ?」


あっ!全然名乗ってなかった…


「僕はヨウ!実は友達とはぐれちゃって…」

「ほう…そうか、それは困った…」


ナオトさんは腕を組んでうーんと考えた。

すると…





「ヨウ!!」


はっ!この声は!!


「ツクヤだ!!」


この時代のナミちーと一緒に、僕を探していたみたい…

本当に申し訳ない!


〜〜〜〜


この時代のナミちーがお父さんを呼びにいってくれて、お父さんがこっちに来た。


「ヨウー!もーお前どこ行ってたんだ〜!?」

「ごめんなさーい!」

「迷子の子どもを助けていたそうだ、だからその…」

「ん?怒ってるわけじゃないぞ?まあ心配したけどな?」


お父さんはナオトさんを見ると「よっ!」と挨拶をした。


「ナオ!お前がヨウのこと守っててくれたんだな?」

「おや…ケイの知り合いだったとはな。

イビルズを見た、君の家で情報をまとめたい。」

「OK、夜までかかるようだったら夕食食ってくか?」

「そうだな…お言葉に甘えよう。」


そう言ってナオトさんはバイクにまたがってエンジンをかけた。


『ブオン…ブオォォォッ!!』


「じゃ、俺ん家集合で!」

「了解…先にパソコンを取りに行ってから行く。」


ナオトさんはバイクに乗って、道の向こうへ走っていった。


「あっそうだ…ナミちーは?」

「ああ…縄張りに帰ったよ。」

さて、俺たちも車に向かうとするか。」


僕たちは来た道をたどって車に戻っていった。



〜次回に続く〜

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