悪いが、俺にそのチートは通用しない

こむすび

第1話 雷の勇者

俺が七の国、スリザリンに召喚されてから半年が経とうとしていた。


俺の名前は矢澤雷人やざわらいとただの高校2年生だった。


俺は勇者召喚でこの異世界クルセルダリアに呼ばれたのだ。

召喚特典で貰ったこの力、雷魔法で湧き出る魔獣や魔物をバンバンやっつけて!姫様を抱いて、最高の異世界生活を送ってるんだ!


「いやートイレとかお風呂とかも現代日本並だし、本当に最高だよな!」


お城から出る料理に舌鼓をうつ。結構な勇者召喚が行われてるみたいで技術チートはあるみたいで、料理もライフラインも全然気にならない。


「勇者様…」


食事も終わりというタイミングでスリザリンの姫、エクエルから話しかけられた。


ーーーーーーーー


遠征…軍を引き連れ、魔王の国ティアソムリアに向かい、魔王を倒すこと。


8つの国が協力して一気に襲えばいいのに…と言うが、勇者と勇者が会うと恐ろしい事が起こるらしい。


むしろ、それを利用されて手痛い失敗をした事があるそうだ。


それから、1から8の国が順番に攻めるという風に決まったらしい。


まあ、俺の雷魔法があれば魔王軍だって楽勝さ!



行軍の日程は8日にも及んだ。

簡単な魔獣との戦闘はあったが、順調に進んで行った。


接敵予定地である、ティアソムリア平野に入った。

敵はもう軍を展開していた。


兵を後ろに下げて、短身で出る。

俺の魔法は味方を巻き込むからな…

そのうちに味方も陣を整えればいい。


「雷の勇者!ライト、行くぞ!!サンダーボルト!」


敵の中心に魔法を放つ。まずは数を減らす!


雷は落ちた…はずなのに敵に動揺はない。

しかもちょっと狙った場所よりズレてる。


「な、なんでだ?」


本物の雷と同じ威力があるサンダーボルトはこの世界に住む魔獣や魔物を一撃で屠ってきた。人みたいな魔族であっても、簡単に防げるわけが…


「ならば直接!!」


「ライトニングショット!」


自分の手から雷撃を放つ。それを黒衣の男が受け止めた。


「悪いが、俺にそのチートは通用しない」


黒衣の男が単身で出てくる。

「サンダーボルト!」

雷はあらぬ場所に落ちる


「ライトニングショット!」

通用しない。


「サンダーソード!!!」

帯電させた雷を叩きつける。これなら?



「うそだろ…?」

黒衣の男には何もなかったかのように立っていた?


「あー…まあお前も騙されてるんだろうな…スリザリンも知ってはいるだろうが…俺にはそのチート、効かないんだわ。」


嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ


「んじゃちょっと、殴り合いするか」


俺は黒衣の男に殴られ、気絶して、異世界召喚したものを帰す施設に送られた。


こうして、俺の異世界冒険は終わったのだ。


ーーーーーーーーーー


私の名前はユート=ザックス。前の世界では佐藤勇人と呼ばれていた。


転生して色々あったが、今はティアソムリアの英雄と呼ばれる、この王国の対勇者隊の隊長である。


ちなみに私も召喚勇者である。私の能力は無。つまり何もなかったというオチである。

それが理由で殺されかけたんですけどねー

なんとかこの国に逃げ込んで今に至るのだが。


「雷の勇者…」


まあ、頭がいいやつがこの能力を持ってたら多分死ぬなぁ…


私は斥候から貰った書類を読んでいた。


「周りのアホさに助けられてはいるが、やっぱりこの国滅ぶだろ…」


私の国、ティアソムリアはただの国だ。

異世界召喚されたとある王様が素晴らしい善政を引いて、素晴らしい政策をしたおかげで技術力やその他で諸外国よりもかなり良い技術力、人材に恵まれているというだけの…


そして、ティアソムリアは周りを8つの国に囲まれていても、神の園と呼ばれる場所。実際はただの海水でできた湖があり。海産物、水産もできており、自給自足も簡単だったりするのだ。


「勇者召喚すると馬鹿になる…ねぇ…」


なんかティアソムリアではそう言われているのだ。強ち間違いではないだろうな。


現代から来る人間は頭が良くても知識はない。偏った知恵に振り回されてできるものなんて大したことがないだろう。


こいつみたいなのが生まれてくる予想はしていたが…絶縁体は間に合うかな?


資料の前で唸ってると執務室のドアが開いた。


「あ、隊長ー、例の試作品出来たみたいですよー?」

部下の魔法使い、ミカゲが来た。

軽薄な口調ではあるがむちゃくちゃ優秀ではある。


「了解だ、ミカゲ。それの実験を行うからついてこい」


ーーーーーーーーーー


「よし、実験は成功だな!なんとかなりそうだ。」

黒い布を持って喜ぶ。間に合って良かった…


「ユート隊長、今回で何人目ですかね?勇者」


「…氷、重力、俊足、飛行、鉄もいたな…あとは呪いとか…15人目ぐらいか」


「勇者の能力を全部無くすっていつになるんですかね…?」


「追加が無ければだが…まあ神様の遊び方が無くなるまでだからな。まだまだ続きそうだ」


この世界の勇者は同じ能力を持ったものは生まれない。

つまり、勇者を封印することができれば脅威は去るのだ。


城の窓から見える塔を見る。

あれは勇者を永遠に眠らせる施設なのだ。

名前は「帰還の塔」という


この部隊はそのための活動をしている。



「しかし、この布は凄いですね…これが世の中に回ればもっと便利になりそうですね。木の樹液からこんなのができるんですねー」


「別の世界ではゴムと呼ばれる布だ。動物の腱のように伸び縮みするのが特徴だな」


「剣の柄に巻くといいかもですねー、まあ自分は使いませんが。」


「今回は巻くが、普段はあまり剣にはしないな。取り回しに不都合がある」


「そういうものなんですねー」


雑談はそこそこにして、色々作らないとな。


ーーーーーーーーーー


全身ラバーマンができた。


「た、隊長…」

ミカゲが、笑いを堪えているのがわかる。

しゃーないだろ…


「隊長!スリザリンの兵が国境を超えました!あと2日です!」


「銅柱は?」


「建設完了です!不可視の魔法はあと1日かかります!」


「斥候に見られたら終わりだ!急ピッチで頼む!」


「ミカゲ…笑ったバツだ。お前も手伝ってこい…」


「ええ…」


ーーーーーーーーーーーー


銅でできた柱を立てて、空からの雷を避雷針にする。


私への攻撃はゴムのスーツで耐える。



簡単な作戦ではあるが、タネなんてこんなもんである。


この世界に来て15年。鍛えた体は筋肉モリモリムキムキになっており、基本的に1対1で負けたりはしない。



この世界には魔法がある。


あるけども、軍事に使ってるのはこの国ぐらいしかない。


魔法は学問なのだ。


勇者召喚を繰り返してきた国は本当に簡単な事しかできないのだ。


と言っても異世界召喚された勇者のような魔法は基本的にこの世界の人間では使えないのだが。


素養のある人間が頑張って、市販のスタンガンぐらいの雷魔法だろう。


ただ科学でできないこともできる。今銅の柱を消してたのは私考案の魔法である。


動くものには使えないが、トラップを仕掛けるには最適である。


まあ、近づいたらバレるなこれ。改良の余地ありだ。


さて、今回の勇者は無理矢理コースで帰還の塔だな…おうち帰ろ。


残った相手の兵は逃走してるし、これ以上は対勇者隊の出番じゃないな…


ちなみに雷の勇者が電子レンジの要領を思いついてたら、一瞬で王国が蒸発してたね、危ない危ない。



ーーーーーーーーーー


帰ったら奥さんにゴム臭いので変な顔をされました。




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