第77話 仮面の介入者

そびえる二つの巨大な城、その二つを挟む広い道。

そしてその道の間に建てられた塔には、不正行為を行っていないかそれを見極める審判役の人物が数人とプリスメア学園の学園長、エレン・エミリアが居た。それぞれの教師らは自分たちの責務を全うしようと、その準備に勤しんでおりエレンは塔の傍観席に座り、時を待っていた。


すると、そこにアークとエヴァの編入したクラスを担当している教師が現れた。彼女はこの傍観席からの審判を務めることとなっている。そのためここに来たのだが、そこにエレンがいたため彼女はエレンに話をかけた。


「……結局、試合をすることになってしまいましたね」

「しょうがないです。あちらの学園の行ったことに私たちの学園の生徒が憤怒し、その結果こうなったわけです。ですが、私自身も再試合をのもうと思っていたので、こういうことは言いたくありませんが、丁度良かったかもしれません」

「そう、ですね…」


決して、彼女にはエレンの気持ちがわからない。表情から読み取ることもできない。ただ一つ、それでも彼女の声音が悲しく聞こえたのは気のせいだったのだろうか。







       ※       ※       ※






緊張が高まる中、プリスメア学園の生徒らの一人であるイリアは自分の腰に据えられた剣を強く握りしめる。そんな彼女の元に歩みを寄せたのは、彼女の従者であるロゼだった。


「イリア様、緊張なさってますか?」

「……まあ、そうですわね。緊張していないと言ったら嘘になる程度には。ですが、それもほんの少しですわ。支障をきたすほどでは」

「そうですか、なら良かったです。それにしても―――――」


ロゼは言葉に合わせて目線を上に上げ、イリアの頭に飾られた物を見ながら続けて言った。それは、キングスレイドにおいて狙われるターゲットの印、王の証である王冠であった。


「本当にイリア様がキングで良かったのですか?しかも前線にたつおつもりなのでしょう?」

「ええ。このキングレイドは王を守ることも一つの策ですが、わたくしは王自身も戦わなければ、と思うのです」

「……なるほど、イリア様らしい考えですね」


彼女の考えに感心を示した後にロゼは気を改めて引き締める様に、そしてそれが当然だとでも言うかのように言った。


「必ず勝ちましょう」

「…ええ」


彼女はそう言って頷いた。


その直後、音の魔法によって拡声された声が全体に響き渡った。


《それでは、これよりシャガル学園とプリスメア学園の二校によるキングレイドを行います》


声が渡ると共に、それぞれの学園の前衛部隊が前へと出る。プリスメア学園からはイリアが、シャガル学園からはあの金髪の男が、その前衛の先頭に立っていた。周りから音が消える。


そんな沈黙に、音が響き渡った。


《試合――――――開始!》


刹那―――先頭の両者がまず動いた。

足を強く踏み出し駆け出した二人の距離は瞬く間に詰まっていくと、それに続くように両学園の前衛部隊は一斉に突撃していく。そんな中金髪の男、そしてイリアの二人の間隔が更に狭まり、男は金属バットを、イリアは自身の腰から抜いた剣で共に対抗しようとする。


「「はぁぁぁぁぁぁあああっ!」」


両者の叫び越えと共にそれがぶつかり合おうとしたその瞬間だった。


「っ!?」

「なっ!?」


突如、二人の間に人が現れた。

そしてその人物は振り下ろされた、左右の打具と剣をそれぞれの手を使い共に掴む様な形で受け止めた。


巻きあがる風が両者のその振り下ろす力強さの証拠だが、それをその人物はいとも簡単に受け止めて見せた。急な出来事に二人は戸惑いそれを遠目で見て気づいた両学園の前衛部隊は急ブレーキをかけて止まった。


イリアはその人物には全く見覚えがなかった。

奇妙な黒い仮面を付け、あらわになっているその髪は独特な髪色だ。


身体にはマントを纏っているため冒険者の類いの者とも思ったものの、こんなことをする輩がいるものかと彼女の中でその考えを払拭する。


一方、その仮面はと言うと両手にそれぞれの武器を握ったまま両者の顔を交互に見ると、掴んだ武器をゆっくりと離す。その直後にイリアの目の前に拳を持ってくると軽く小突き、金髪の男にはバットを蹴りで彼の手から離させその後腕を背中に回しうつぶせに押さえ込み、背中に回った腕を足で踏みつける形で固定し動けなくさせた。


小突かれたイリアはそのままかなりの勢いで飛んでいくものの、空中で何とか態勢を立て直し地面に着地する。


「い、イリア様!ご無事ですか!」

「ええ。問題ないですわ」


前衛にいたロゼの質問に答えを返すと、イリアは仮面の人物の方に目をやる。すると、


『動くな』


仮面の人物の口からそう放たれた。

その人物の言葉には魔力がのせられてある上に、とてつもない威圧感がある。それ故に、その場にいた者全員が一斉に動きを止めた。動こうと思えば動けはする。しかし、もし動いたら――――


誰しもがそのような想像をしていた。


それは、教師らもまた同じ。

あのエレンですら動くことに抵抗を持つほどだった。


「……そうか……」


仮面の人物は続けて言う。

この時、声質からしてその人物は男であることが分かった。


「さて、この男。どうしたものか」


仮面は腰に提げられた鞘から剣を抜くと、うつ伏せのまま押さえつけられ動けない様子の金髪の彼の首元に剣を突き付けた。


「強い者と戦うためにここに来たというのに、期待できそうな者もいないではないか。全く…とんだ無駄骨だ……」


仮面の人物はため息を一つつく。


「こうなると男を人質に取った意味もない。コイツは殺すか」

「なっ、待ちなさい!それはわたくしが許しませんわ!」


仮面の言葉に対してイリアはそう言って剣を構える。だが、仮面はそれに笑いながら答えた。


「ほう?なぜおまえがそういうのだ?先ほど、お前たちのやり取りを上から見ていたが、お前はこの男に頭を砕かれそうだったではないか」


仮面は金髪の彼の首元により剣を近づけ、彼はより顔を恐怖に歪ませる。


「そ、それは………」


彼女は、戦いが始まるということの衝動で湧き上がるアドレナリンでほんの少し前に起こったばかりのことをすっかり忘れていたが、今仮面の男に言われ改めて思い出した。


この男は、先ほど自分の頭をその見たこともないような打具で砕こうとした。寸止めで止めてくれることは絶対にないとわかるほどの強烈な殺気と共に、振り下ろされたそれに自分でも恐怖を感じた。


そうか。つまり今自分の事を殺そうとした人物が、今殺されかけているのかと、そう実感した。


途端に彼女は顔をうつ向かせて黙り切ってしまう。


「……どうやらそれが答えの様だな。残念だったな、お前は見捨てられたようだ」


金髪の男は、遂には涙を浮かべどうにか逃げようともがくものの、仮面の男の押さえつける力が強くそれを許すことはない。剣をくるりと持ち替え、剣を下にして握りしめる。柄頭の部分を右手で載せるとそのまま力強く下に突き刺そうと――――――




ガキィィィィィィィィィィン!!




鋭い音が木霊する。

突き刺そうと降ろされた剣は、によって弾かれていた。今の一瞬を刹那の間に彼女は距離を詰め、こうして剣を弾いた。これは、自身の魔法の応用と身体能力が実を結んでできた所業だ。


「……これは一体、どういうつもりだ?」

「………確かに、あなたの言う通りですわ。私はそこのお方に頭を砕かれそうになりましたわ。ですから勿論嫌いです」


「しかし―――」と彼女は続けた。


「―――――たとえ嫌いな人物であろうとも、私の目に命が天秤にかけられていたら、私は必ず救う方を選ぶ。それが例え、どんな人物だとしても!」


彼女の力強い言葉に、皆が圧倒されていた。

ただ一人、仮面の男はその一言に対して、


「そうか!ならば守って見せろ!」


その刹那、仮面の男はすかさず先ほど同様に剣を突き刺そうと勢いよく降ろすが、これもまたイリアの剣によって弾かれる。すると、今度は金髪の男を押さえつけている足を蹴りうまく離させると、彼の手を握りそのまま、シャガル学園の方に思いっきり投げ飛ばした。


前衛の舞台の者たちはうまく彼をキャッチしそれを見たイリアは安堵しようとするものの、そんな暇もなく彼女の上から鋭い剣撃が振り下ろされる。それにすかさず反応し剣でそれを受け止める。火花がチリチリと飛びながら二人のせめぎ合いが行われる。


しかし、男と女ということもあり力量に差があるためこれには、勝てそうにない。そこでイリアは剣を横に弾きそれと同時に横にすぐに移動する。そこから得意の突きで反撃しようとするが―――――――


「遅いぞ」

「!?」


いつの間にか、目の前には鋭く光る剣先が映っていた。確かに横に弾いたにも、関わらず、イリアが攻撃を繰り出そうとするその間の一瞬で、反撃をしたその実力にイリアは自分と仮面の男の実力差を実感した。


そして、死を覚悟した直後、


「させるかぁ!」


叫び声と共にとある人物が現れ、その剣を自身のそれで弾いて見せた。その人物は、彼女の従者であるロゼであった。


「ロゼ!」

「すいません。少々怯んだ身体をちゃんと動かせるようになるまでに時間がかかりまして。ここからは私も参戦します!」

「助かりますわ!」


彼女らは会話を終えると一度仮面の男と距離を置く。剣を構えてそこから攻撃を仕掛けよとすると、そこから更に新たな参戦者が現れた。


「ちょっと、私も参戦していいかしら?」


二人はその声のしたプリスメア学園の方に目を向けると、そこには剣を肩に乗せながら歩いてきた少女、一時編入でやっていたエヴァがいた。


「遅くなったわね。私がくれば、百人力よ」

「エヴァさん……」


更には、塔の上から飛び降りる人影が写る。着地したと思えば、その人物はプリスメア学園の学園長、エレンであった。


「私も、共に戦わせていただきます」

「学園長……」


イリアは三人の強い味方を付け、こうして確かな実力を持つ四人が仮面の男に今、戦いを挑もうとしていた。仮面の男はこの状況に、あろうことか先ほどまでとは比べ物にならない程の、笑い声をあげて大いに笑った。


「いいなぁいいなぁ!四対一と来たか!これは楽しめそうだ!」


そして今、仮面の男と四人の戦士による戦いが幕を開けようとしていた。





       ※       ※       ※







時は少し遡る。

試合の始まる直前、アークはこれから自分がどうするべきなのかを、部屋で考えていた。


「さっさと部屋を出て止めに行きたいが、強引にいっても止められる雰囲気でもないし…どうしたらいいんだこれは……」


追い詰められた状況に、彼は頭を悩ませる。


(ここからどうすればいいのか……考えるんだ……戦いを止める方法を…)


瞑れてしまうのではないかと疑ってしまう程に両手を頭に押し付けて、彼は脳をフル活用させて解決策を考える。と、そこで彼は思いついた。


今の状況を考えるに、二つの学園は再試合を行おうとしている。それはつまり、お互いを敵として見ているわけだ。


ならば、そこに――――――が現れたら――――


そして、戦える状況ではなくなったら―――――


「………そうだ……オレが新たに敵になってしまえばいいんだ……」


そうすれば、戦える状況ではなくなる。

これならいける。


案の思いついたアークは手に創成魔法を発動させながら考える。


(ここで、重要なのは戦いを止めてしまう程の緊急事態を起こす必要がある、ということだ。だから、残酷なことをしようとすればいい。考えられるとするなら……人質とかか………それに、その性格も重要になってくる。頭の可笑しい人物と思わせられれば、必然的にどうにかしなければならないという考えを持つはずだ。ここはオレの腕の見せ所だな……)


そうして創成魔法の青いスパークが消えると、そこにはが手に握られていた。









更新遅くなりました。

色々と考えている内に吹っ切れました。

コメントもこれからちゃんと見ます。

フォロワーの減少にももう負けないようにします。


更新頻度も早めるつもりです。

これからも応援をよろしくお願いします。


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